14.サン・ブリジビフォア祭②

「やあ、スズにマジク。元気そうで何よりだね」


「あれ、ロサリア様だー」


「ほんまやロサリア様、なんでこんなとこに?」


「君達の姿が見えたからね。挨拶をしに来ただけさ」


「ロサリア様、聖女の舞、近くで見ないのー?」


「ま、まあちょっと考える事が多くてね」


「(ふむ……やっぱロサリア様もこれからレオっち争奪戦が始まるって踏んどるっちゅう事かいな)……ロサリア様はどう思っとるん?」


「え、いや、そうだな……。(参ったな……。あのマントを見て動揺した事を一目で見抜かれてしまった)やはり少し考えてしまうよ」


「(考えてしまう、か。王族側の動き、ロサリア様なら分かりそうやしな)で、ロサリア様はどうするん?」


「私か? (やはりスズには私の動揺は見透かされている。その上でクルスに私がどうする、か)……そうだな。正直少し悩んでいるかな」


「(悩む? 派閥の問題やろうか?)ロサリア様が動かんと事が大きくなりそうやけどなあ」


「(な!? それはこのまま婚姻を結んでしまうという事か!? いやしかし、クルスが幸せならそれでも……)最悪、動くと色々壊れてしまうかも知れないからね……」


「(貴族側と教会側の関係、そこまで悪化しとるんか。いやでも……)なんかロサリア様らしくないなあ」


「そうかな?」


「ロサリア様ならいつでも道は自分で切り開いているんちゃうん? 壊れてしまうんじゃない、別の道もロサリア様ならイケる思うけどな!」


「……そうか、確かにそうだな。私らしくないか」


「そうそう、いっそロサリア様がもうガツーンと纏めて頂いちゃっても……っとそれは流石に言い過ぎたわ(あかんあかん、王位継承権放棄しとる人に言うこっちゃないな)」


「そ、そうだな(流石に私はクルス一筋で男色の気は無いから二人纏めては……)」


「ま、うちはロサリア様応援しとるで!(この人なら上手く纏めてくれそうやしな!)」


「ありがとう。心強いな(そんなに私とクルスの仲を案じてくれるのか。ありがとうスズ)」



 二人の熱い握手を横から眺めていたマジクはなんか噛み合ってるようで噛み合ってないようなとは思っていたが、綺麗に話が纏ったみたいなので余計な事を口にするのはやめた。


 尚、この後ロサリアはクルスに会いに行ったが、クルスからレオの話ばかりをまた聞かされるのだった。






「やっほークルス」


「レイラさん、先ほどはありがとうございました」


「いやいや、後ろから付いていって立ってただけだしね。旦那は?」


「レオさんならさっさと鎧とマントを脱いで行っちゃいました。あげますって言ったんですけどね(まあきちんと保管しておきますけど)」


「(マントも返却したって事はやっぱりレオはクルスに興味無いんだな。て事はレオを王位にってのもやっぱり良さげ……?)へー、どこ行ったの?」


「少し急いでいたように見えましたけど……」


「まあ旦那の事だから……花摘みかな」


「ふふっ、そうかも知れませんね」


「そういやなんかロサリア兄様の姿がチラっと見えたんだけど? (なんとも言えない微妙な顔をしてたけど)」


「ロサリアは舞の後はいつも顔を出してくれますからね」


(多分また旦那の事ばっかりクルスが喋ったんだろうなあ。)


「ふふ、嬉しい限りですね(あの感じならレオさんとの仲をロサリアに取り持って貰えれば良い気がしますし)」


「そっか。クルスが嬉しいならロサリア兄様も嬉しいと思うよ(あれ? 思ってたよりロサリア兄様脈有りそう?)」


「そうだと良いですね」


「(……これ以外とイケるのでは?)何かあったら俺も協力するからさ!」


「まぁ、それは頼もしいですね!(お二人の協力が得られるならなんと頼もしい事でしょう!)」


「……じゃあ俺の時も協力して貰えるか?(もしレオに王位をって考えるなら、クルスが教会側を纏めてくれれば事は結構すんなり運びそうだし)


「勿論です!(旦那旦那とレオさんの事を読んでいましたけど、ただ呼び方がそれってだけだったんですね。ええ、勿論レイラさんに良い人が見つかった時は協力しますよ!」



 二人は笑顔で握手をした。この二人も主語が足りていない事に気が付いていなかったのである。







 聖女の舞が終わり日が傾き始めた頃、スズとマジクの二人はまだ広場が見える屋上にいた。



「スズ、いいの?」


「レオっちから待ってろって言われたからウチらは待機やな」


「うん……」


「は〜〜い♪ 『白獅子』のお二人さん♪」


「『翠玄武』セルキスやん、なんか用か? 今忙しいんやけど」


「つれないわね。お二人にとっておきの情報を持ってきたんだけど?」


「シルが攫われたとか?」


「……気付いていたの?」


「シルがレオ達近くで一目見たらウチらに合流する言うてたのに遅いからな、ウチの『鷹の目』で聖女の舞の最中に国中を探して見たけど地上には映らんかった」


「へえ、じゃあ相手は……」


「『四罪』の残党、やろ。最近また少し集まっとるみたいやしな。こない早く動くとは思わんかったけど。やっぱ数が多すぎて掃討は難しいわな」


「場所……」


「鳳凰通りにある酒場『英林亭』の地下に一つ、永亀通りにある武器屋『遠来』の二階に一つ、七五地区八通り三十番区の一角に一つ、最近あいつらが作っとる巣があるな。まあ間違いなく『英林亭』の地下やろな。シルを拉致した後に隠すなら」


(私達が持っている情報より多い!?)


「ウチらがここにおるのは、ほら、ここなら鳳凰通りが遠くに見えるやろ。レオにここで待機って言われとるからな」


「(偶然、シルさんの事が私達の情報網に引っ掛かったからスズさんの所に来てみたけど……まさかここまでとはね……)『白獅子』一人で行かせて良いの? シルさんの付与魔導無しなのよ?」


「なあ」


「……何よ」


「レオっち舐めすぎやろ。ソロでどんだけ冒険者やっとったと思う? そら、ロサリア様やらクルス様やらレイラ様やら上の上、人間辞めてるような上澄みばっかと比べたらアレやけど」


「レオはね、その辺の騎士や冒険者くらいに負けない。レオは戦いが上手いもん。街中なら特に」


「ウチらと一緒におる時は脳筋になるけどな。ていうかな、スキルほぼ無しでロサリア様と渡り合える人間、レオっち以外あんた知っとる?」








「ちわー三河屋でーす」


「ほう、どうしてここが分かぐはあ」


「てめえ、一人じゃ何も出来ないって話じゃがああ」


 英林亭の扉の前にいた二人の門番。レオが声を掛け、振り向いた瞬間出会い頭に股間を蹴り上げて一人を潰した。踞った相方に目をやったもう一人のほうへ、股間を潰した男を蹴り飛ばし、受け止めた所で二人纏めて剣で突き刺した。

 乱暴に扉を蹴破ったレオのほうへ酒場にいた賊崩れ八名が振り返る。入り口横に居た男は蹴破れた事に驚いたと同時に太腿を刺され、痛みに屈んだ所で首を落とされた。


『大切断!』


 一番先に我に返った賊崩れが戦士系上級スキルでレオに斬り掛かる。


『パリィ』


「はぁ!? 『パリィ』なんぞで何故防げ」


 『大切断』による上段からの斬撃を弾いた反動を使いそのまま喉元を斬った。


「てめえ!!!」


 ようやく我に返った他の賊崩れも一斉に襲い掛かる。バックステップでレオがわざと背を壁に付けた。剣を持ち、正面からなら多くても同時に掛かれるのは三人だけ。


『大切断!』

『豪突!』

『水面斬り!』


 三人が三様の戦士系スキルで斬り掛かる。全てレオがどれだけ手を伸ばしても手に入らなかったものだ。


『パリィ』


 一振りで全て弾いた。一様に振り被るような姿勢を取らされた賊崩れ達の、ガラ空きの胴に向けて思いっきり切れ味の鈍い剣で薙いだ。血飛沫を被りながら、残りの三人を見やる。窓側の一人はそこそこ強そう。カウンター側の二人はそうでもない。パっと見で実力に当たりを付けたレオは目の前の三人の横を擦り抜け、窓側の一人に向け机を蹴り飛ばした。

 蹴破された机をスキルを使わずに窓側の賊崩れが剣を抜き切り裂いた、と同時にカウンター側にいた二人は纏めてレオに串刺しにされた。


「後一人……」

「くそ! 誰だ『白獅子』は仲間無しじゃ何も出来ない雑魚だと吹いた奴は!『豪雷……!?』」


 剣を振り被り聖剣技下級スキルを放とうとした賊崩れに向けレオが酒場に来る前に拾った小石を指で弾き、片目を潰した。食事中であったろうカウンターにあったフォークとナイフを手に取り更に投げる。無事であったもう片目にフォークが、左手小指にナイフが刺さり剣の握りが緩む。瞬間、レオの全体重を乗せた刺突が賊崩れの体を貫いた。


「スキルに頼り過ぎなんだよお前ら。しかも聖騎士スキル持ちまでか」


 剣も投擲も、スキルを使った威力や速さにレオのそれらは及ばない。だが、結局こちらが当たらなければ良い。スキルが無くても結局斬れれば良い。スキルが無くても結局刺す事が出来れば良い。冒険者時代、スキルを使えなかったが故に形に嵌まらなかった騎士道などとは程遠いレオの戦い方だった。


「……あっちかな」


 カウンター奥の扉を開き、地下階段を駆け降りる。なんだと地下から階段を見上げに来た賊の顔面に壁に備え付けられた蝋燭を取りながら飛び蹴り。仰向けに倒れた賊崩れの顔面に膝から着地して顔面を潰した。


(シルは……奥の扉の部屋に一人)


 魔力が見える目に今一番感謝した。シルの状況はスズの予測通りだった。すぐにここに来て良かった。人を集めている最中だったのだろう、まだ何もされていない。奥の扉の前、この広間にあと三人。


「『白獅子』……!!! あ!?」


 飛びながら手に取っていた蝋燭を、レオが宙に軽く放り投げた。一瞬、蝋燭に気取られた真横にいた男の両足首を切り飛ばした。あと二人。


「おい、人質がどうなっても!?」


 ブラフ。シルしかいないのは分かっているので無駄。扉に向かって伸ばした腕をそのまま斬った。左から攻撃魔導の発動の予兆の魔力が目端に入った。壁際にあった小さな机を賊崩れ魔導師の顔面に投げつけ魔導の発動を止め、机越しにそのまま剣で突き刺した。


「シル! シル!」


 扉をまた蹴破り、手足を縄で拘束され、口を布で塞がれたシルを見たレオはすぐさま拘束を解き口布を剥ぎ取った。


「大丈夫か!?」

「ごめんなさい、ごめんなさい私、私、迷惑、掛けちゃって」

「いいから、大丈夫だから。遅くなってごめんな」


 泣きじゃくるシルを落ち着くまでレオは抱きしめた。

 ようやく、泣きやんだシルを離したレオは返り血がシルに付いてしまった事を平謝りし、いつものレオに戻っていた。






「そろそろええかな。マジク、行こか」

「うん」

「貴女達、どこへ?」

「そんなん決まっとるやんなあマジク」

「うん、家族が帰ってきたら「おかえり!」だよ!」

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