9.テロリスト集団『四罪』、出番無く壊滅する
速報。ロサリア氏、王国騎士団と神殿騎士団との合同訓練を開催し、ロサリアさん対神殿騎士団全員というなんで了承されたか分からん戦いを無理矢理行い、勝利するとかいう快挙(暴挙?)を成し遂げ、歴代最強の『黄龍』とか言われ賞賛されている模様。そして貴族側と教団側とに若干の亀裂が生じた模様。
何してんのロサリアさん。ついでに御前試合でロサリアさんと引き分け扱いだった俺氏の株が勝手に上がる始末。迷惑。
「はぁー。俺もやりたかったぜ」
勝手にうちに棲み付いて寛ぎながら、クルスさんの話を聞いて残念そうにしているバトルマニアお姫様。というかクルスさんなんでおるん?
「あの……レイラさんの客として来られたので……」
あ、そうなん? いやシルは一ミリも悪くないから気にしなくていいよ。
「でもさ、それ大丈夫なのか? 王国騎士団と神殿騎士団の関係、政治的に」
「表向きは、両騎士団のパワーバランスを保つ為にあえてロサリアが力を見せ神殿騎士団に奮起を促した。しかし神殿騎士団側も『朱天狐』を出さず『黄龍』の力を見定める余裕を見せた、みたいな筋書きにするらしいわ。実際はロサリアの安い挑発に乗った神殿騎士団がボッコボコにされて、教団側は騎士団にもロサリアにも怒り心頭らしいけど」
「やだやだ、面倒。王宮にいなくて良かったわ……ぜ」
「私も外に出てて良かったわ」
「あのお二人……もしかしてとんでもない話してません?」
「聞いちゃ駄目だシル。絶対関わっちゃいけない案件だから」
まあ、アレよ。俺達はあくまでも冒険者であって、王家縁の者でも教団の人間でも無い訳で。あんな面倒な話をただの世間話みたいにうちのギルドハウスでやるなっつーの。
……スズは料理しながらしっかり聞き耳立ててたみたいだけど、ともかく面倒事に巻き込まれる前に適当に依頼を受けて我ら『白獅子』は廃城に向かい、そこに棲みついたとあるモンスターの討伐、及び廃城の中にある、とあるアイテムを探す事になったのだ。
その廃城に着いたと同時に中から見た事が無いモンスターが飛び出してきた。うん、報告通りではあるけれども。結構色々な所を旅をしてきたつもりなんだけど、まだ見た事ないモンスターもいるもんだねーとか軽く考えられる見た目をしてないんだなコイツ。
モンスターが出てきたと同時に身体にシルからの付与魔導が掛かる。さすシルですわ。そしてスズがマジクとシルを安全地帯に誘導する。ここまでピクニック気分でこれたのはスズのお陰。さすスズ。マジクが「頑張れー!」と言ってくれる。可愛い。よし勝ったなコレ。
「どっせい!」
なんか獅子とか蛇とかグリフィンとか合わさったような、まるで合成獣のような奴の羽を斬り落とす。おっと口に魔力を貯め始めた。なんかされる前に返す刀で首を落とす。発動前にやろうとする事分かるの便利だねこの左眼。……首と背中に魔力発生? うえ、羽も頭も生えてきやがった。
「なんやアレどないなっとるん?」
「分かりません、あんなモンスター見た事ありません。レオさん!」
「こっちは平気だから適当に隠れてて大丈夫だ! シルの付与は相変わらず完璧よっと!」
滑るように大地を蹴り一太刀で左前足と後ろ脚を斬り飛ばす。自分でも訳分からん速さである。スキル? 何それ使ってないよ。シルのバフ乗ってると、最近はもはや下手にスキル使うより普通に攻撃したほうが強い。
うーん、にしてもまた生えてきた。不死身かコイツ。
「レオ、私がやる?」
「いやマジクはステイで。この城がいま無くなると……」
「う……やっぱり私迷惑なんだ……」
「マジク、迷惑じゃないからコイツぶっ飛ばしていいよ!」
「うん! 分かった!」
マジクの泣き顔には勝てない俺がそう言った瞬間、目の前のキメラモンスターが消えた。うん? 消えた? ふとマジクを見るとドヤ顔をしている。可愛い。
「すげーなマジク、どうやったの?」
「地面深くに埋めてみた!」
……え、一瞬で? 左眼で下を見ると地面奥深くにさっきまで対峙していたモンスターの魔力反応がある。……生き埋めとか怖すぎるね。
「凄いなマジク! ……俺の身体も半分埋まっちゃってるからそれだけどうにかして欲しいかな!」
「ごごごごめんなさーい!」
いやまあ半分だけだから抜け出せるけどね。とりあえず味方も沈める可能性あるから禁止で、とだけマジクには伝えといた。
そんなこんなでとりあえず廃城に入ってみたんだけれども。「なんやココ?」と様々な城に詳しい事に定評があるスズが、門を開け馬鹿デカい玄関ホールを一眼見て違和感を感じたらしい。俺にはなんにも分からん。
ツカツカと歩き正面の壁をスズが蹴り飛ばすと、壁、いや隠し扉がバタンと倒れた。
「地下階段?」
「せやな。うん、隠し階段作るにしても場所がおかしいわ」
「そうなの?」
「城やからな、そりゃ外に通じる隠し通路なり見られたくない隠し部屋なんて普通にあるとこ多いけど、こんなんアクセス良すぎるやろ。むしろここがメインって感じや。これ、城なの多分ガワだけやな」
「なんなんでしょう……」
「ま、行けば分かるんちゃう? みんなうちの後ろから離れたらアカンよ」
シルが不安そうに杖をギュッと握りながらスズの後ろを追い、俺はさっきの失敗で落ち込むマジクを気にしてないよーと撫でながらその後を追う。
階段を降りると自動で壁の蝋燭が光る。貴族の家にある便利な魔導が仕込まれてるななんて思いながら階段を降りると地下フロア一帯に明かりが灯った。
「ひっ……」
「……きっしょい研究しとるな」
「……ッ」
合成獣の研究施設、なんだろうなココ。切り刻まれたモンスターやらひとつひとつの巨大な水槽の中に眠る(いや死んでいるかも知れない)モンスターが浮いていたり。一番奥の割れてる水槽から飛び出したのがさっき対峙した奴のかな、なんて思ったりするが。
「これ受けちゃ駄目な依頼だったな。みんなごめん」
「うちの情報にも引っ掛かってなかったし、しゃーないやろ。にしても、見てもうたんどうしよっか」
「この城消す?」
「胸糞悪いから消し飛ばしたいのは山々なんだけどね。……ここ吹っ飛ばしたらそれこそ見ましたよーって言ってるようなもんだしな」
「なら見てないフリするん? うちはそれでもええけど、絶対この研究施設の資料やら研究やら利用されるで? 貴族側か教団側かは分からんけど……タイミング的には教団かいな」
→見なかった事にする
多分キメラモンスターを量産し戦争の道具になる。内乱の可能性大。たくさん人が死ぬ。駄目。
→消し飛ばす
間違い無く秘密を知った事で狙われる。俺だけなら良いけど皆がいるから駄目。
「……とかどーせ考えとるやろ」
「やっぱスズには分かる?」
「いやみんな分かるわ。……しゃーないな。うちが『ルミナーレ』としてこの情報持って教団に交渉してくるわ」
「それだとスズが危険!」
「そうだ、シルの言う通りだ」
「せやけどしゃーないやろ……って誰や!」
スズが誰もいない壁に向かって叫んだ。魔力反応も無かった筈の壁からズズズっと白衣を着た一人の女が壁から諦めた顔で出てきた。
「嘘でしょ……。絶対バレないと思ったのに」
「うちの看破スキル舐めたらアカンで。……ってあんた『翠玄武』!? 人前に出るのが嫌いなあんたがなんでおるん!?」
やはり俺の眼よりスズのスキルのほうが上ってええ、こいつ五龍の『翠玄武』!? スズの言葉と同時にシルから俺に付与魔導が掛かる。俺も皆の前に立ち、剣の柄に手を掛けた。
「ちょっ、待って待って! 『白獅子』とやり合う気なんて無いわ! ねぇ、五龍同士でやり合うなんておかしいじゃない!?」
「え、割と皆やり合ってる気がするが?」
「いや国の最高戦力同士で何やってるの!? 馬鹿なの!?」
「それにお前を信用する理由が無いし」
そう言って剣を抜き『翠玄武』に向ける。いや俺達の前でこそこそ忍んでた奴信用出来る訳ないよね?
「降参! 降参よ! 私戦闘能力皆無なの! 私研究者なの! 『翠玄武』って学問畑の称号なの! 知らないの!? 狙われやすいからあんまり表に出ないから顔知られてないだけ! なんでその娘が知ってるか知らないけど!」
「……つまり、ここの研究はお前が?」
「少しは話す気になってくれた? ちなみに違うわ。『観た』から『作れはする』けどね。……て怖い顔しないで。こんな品の無いもの作らないわよ」
「何故ここにいる?」
「全然言っても良いけど巻き込まれるわよ?」
「それはお前次第だろ?」
「……分かったわよ。巻き込まれないようにするって約束するから殺気出すのやめて。……『四凶』の一人よ。ココで研究してた奴らは」
「『四凶』……スズ?」
「『四凶』は異民族の神を崇めとる国の敵『四罪』の四柱やな」
「そ、国家転覆を企むテロリスト集団『四罪』の幹部。だからこの案件は教団は関係ないわよ『ルミナーレ』さん?」
「……ッ」
……コイツ、脅す気か? さっきの俺達の会話もバッチリ聞いてたみたいだな。よし! 殺そう(この間0.0001秒)
「じゃあさよなら」
「待って! 私が悪かったから待って!」
「レオっち、ちょっと話し聞こか」
「……まぁ、そう言うなら」
「ふぅ、案外冗談通じないのね『白獅子』って。私の依頼主は王家長兄レミアハート様よ。で! ここを『四罪』がねぐらにしてたって情報から調査に来たわけなの」
「研究者が調査? それこそおかしくね?」
「……ぶっちゃけるけど、私はレミアハート様お抱えなの。研究者なんてお金掛かるでしょう? 貴族お抱えなんて普通よ普通。この調査はレミアハート様が私的に動いてるから私は使える駒として動かされただけ。私は最高レベルの隠密スキル持ってる……はずなんだけど。『ルミナーレ』には敵わないみたいね」
「うん、とりあえず『四罪』なんて知らん。俺にとって今の問題は『ルミナーレ』の件だ。だからお前を殺す」
「ちょ、『白獅子』って温厚って聞いてたんだけど!? こっちは依頼主まで明かしたのに!? 私だって庶民の出よ!? 『ルミナーレ』のファンだもの、絶対黙っておくから!!」
「信用するとでも?」
「あーもう、じゃあどうしたら信用してくれるのよ!? だいたい貴方達の所にはレイラ様もいらっしゃるじゃない! 王家側の人間からすれば、貴方達と仲違いすれば人質を取られてるようなものでしょう? クルス様とまで仲良いんだもの! 貴方達と敵対するなんて、それこそどの勢力とも敵対するようなものじゃない!」
「レオっち、そこまで。今までの言葉にウソは無いで。うちが『聴いとる』から間違いないで」
「……でも」
「うちらとアンタは会わんかった。ここの研究資料は全部あのモンスターが既に消し飛ばしとった。……誓えるか?」
「誓うわ! だいたいね、王家側からすれば『ルミナーレ』のやってる事なんて可愛いものなの! 犯罪バラして私財を奪って民にばら撒く、それだけでしょう? 無能な馬鹿を勝手に制裁してくれてるんだから都合良いくらいに思ってるわよ、少なくともレミアハート様はね! 司法があるからそんな事表立って言いはしないけど!」
「……レオっち。この娘消すのもそれはそれで面倒事になるの分かるやろ?」
「……はぁ、まぁスズが良いなら良いけど」
王家と教団の面倒事から逃げた筈なのにより面倒な事に関わってしまった件について。いやこんなん分かるか!
「で、調査の際に『白獅子』達と会ったと?」
「はい。あの、会ったと話をした事は内密に……」
「良いだろう。『白獅子』達はロサリアと良好な仲を築いているからな。弟が王になった時に弟が使える駒を減らしはしないさ」
「それで『四罪』の情報は手に入ったのか?」
「いえ、それがその……『白獅子』が「絡まれると面倒だから先に潰しとくわ」と言って『ルミナーレ』から得たらしい情報で『四凶』全員を既に倒してロサリア様に引き渡されております……。近々ロサリア様が『白獅子』から得た情報を元に『四罪』の残党狩りに動く模様です」
「……は?」
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