10.初手スライディング土下座『翠玄武』

「申し訳ありませんでしたー!」



 バーンとギルドハウスの扉が開かれたかと思うとスライディング土下座で入室してきたのは先日の『翠玄武』。……そういやコイツの名前知らないわ。



「えーと『翠玄武』、何が?」



 出掛けようとしていた俺はいきなり目の前に滑り込んできた『翠玄武』に嫌な予感しかしない。なのでとりあえず腰にぶら下げてある剣に手を掛ける。その様子を土下座スタイルを崩さず見た『翠玄武』が焦りながら言う。



「話終わるまで首を落とさないと言ってくれます?」


「……お前まさか」


「いえ! 研究施設の中で行われていた研究については約束通り報告してません! でも! でもですよ!? 貴方達が『四罪』を壊滅させちゃったから出会った事くらいは報告せざるを得ない状況になってしまったので!?」


「あー、うーん……じゃあクルスさん呼んでから首斬り落とすか。大丈夫。落とした瞬間にクルスさんが繋げるから死ぬ前に繋がるよ」


「ええ!? あ、でもその感覚にはちょっと興味が無いでも無いかも……?」


「……あー、脳が理解する前に吹っ飛んで繋がるのコンボになるから感覚的にはどうだろ。首がなんか熱いくらいじゃね」


「もしかして体験済みですか!? そういった趣味がお有りで!?」


「どんな趣味だ! 体験済みだけど趣味じゃねえよ!」



「いやレオっち、玄関でどんな会話しとんねん。中入り。ほら、『翠玄武』もや」



 スズが奥から呆れ顔で中に入れと促した。ちっ。マジク用のお菓子を買いに行くとこだったのに。広間でボードゲームに勤しんでいたシルとマジクとレイラもこちらをなんだなんだと見上げている。『翠玄武』は「うわ、マジでレイラ様いるじゃん……」とちょっと引いた顔をしていた。


 

 つまり『翠玄武』こと、セルキスの言う事を纏めるとこうだ。

 王家長兄レミアハートは十年という歳月、王家の暗部『ガーデンナイト』を使いながら『四罪』と戦い続けていたらしい。そしてようやく、『四罪』を壊滅させる目処が立ってきて、その情報を全てロサリア率いる王国騎士団に渡し、国家の敵『四罪』の壊滅をロサリアの手柄とする事が目的だったようだ。


 ん? てことはあれ、俺もしかして余計な事した? いや大丈夫だよね? だって俺もロサリアに敵幹部を生捕りにして引き渡したから結果は一緒だよね?



「レミアハート様は『ガーデンナイト』の情報力を上回る情報網と王国騎士団並み、いやそれ以上の殲滅力を見せた『白獅子』に褒賞を出したいとの事でした。いえ、『この十年の苦労は一体なんだったんだろうな……』とか『『四罪』壊滅の為に投じた資産、いくら使ったかな……』とか遠い眼でブツブツ言ってらしたのは私は聞いてませんよ! もちろん私どもとしても貴方方としても表立って渡すのは良く無いでしょうから私がお待ちしました!」



 なんかもはや『翠玄武』ってパシリみたいだな。この人めっちゃ頭良いんだろうにめちゃくちゃ苦労してそう。……ってやべぇ! 金塊ドサドサ目の前に積み出しやがった。うっわぁ。小都市一年分くらいの運営費になりそう。



「いや……多くね?」


「いえ、騎士団を敵壊滅に導入する金額に比べれば安いとレミアハート様はおっしゃっていました。何しろ「調子良かったからノリで54拠点潰しといたわ。残党は残り4つの拠点に逃げ込むように誘導してあるから後は宜しく!」とか言われるのでこれくらいは当然だと。……つまりは貴方方と敵対したくはないという事かと」



 あーうん。調子乗り過ぎたっかなー。最近左眼が馴染んできて調子良いからやり過ぎたな。



「というかここまでやって報告しないは無理があると思いません?」


「そう言われればそんな気がしてきたわ。しゃーない。今回は首置いてけはやめといてやるわ」


「ホッ……。機密ベラベラ喋ったかいがありました……」


「いやそれはそれでどうかと思うけどな」


「ついでに貴方もロサリア様を王にする協力してくれたりしません?」

「……ついでに言う事? ていうかロサリアさん王位継承権放棄してるって聞いたけど……?」


「王家長兄、次兄、三兄の継承権上位御三方は無能ではありません。だからこそ、その御三方はロサリア様に王位をと動いておられます。今は対外的に難しい時期ですので、強き『騎士王』こそ必要である、と」



 えっ。いまとんでもない事聞かされた気がするんだけど。後ろでレイラが「まぁ、兄様方ならそうするだろうなぁ」とかしみじみ言ってるからマジなんだろうなこれ。



「……っとまぁ、今言った事は零分冗談なので!」


「いや本気やないかい!」


「あはは、いえ、ロサリア様のご友人でいてくれれば結構なのです。あの方も苦労してらっしゃるのですよ。王宮内でのしがらみに」


「別にロサリアさんとはそんな事言われなくてもマブダチだし」


「ええ、それがいいのです。……と長居してしまいました。それでは私はこれで!」


「あ、ちょっと!」



 嵐のように現れ嵐のように去っていったなあいつ。セルロースだっけ? なんか大変だなあいつも。とりあえず目の前に積まれた金塊一つだけ手に取る。これ一つで一年は暮らせるんだが。



「スズ、これ孤児院に寄付。残りも適当にばら撒ける? こんな金手元に置けないわ。……あ、欲しい人いたら適当にもらっちゃっていいけど」



 金塊をヒラヒラ見せるもシルもマジクも首を横に振る。やっぱいらないよな。怪しいもんこれ。



「さすがに額が大きいからばら撒くにしても時間掛けてゆっくりになるで?」


「その辺の采配は全部任せるよ。胡散臭くて使えないよこんな金。で、スズ的にはどうだったのさっきまでの話」


「ま、『翠玄武』は信用出来ないっちゅーのは間違いないわな。言っとる事もや。うち、スキル使えばウソを見抜けるのは知っとるやろ? そのうちにこの前、ウソを吐いたんやからな。見抜けんかったわ。どーせ戦闘力皆無もウソやろ。多分スキルなんやろうけど」


「どこまで本当の事を言ってるか分からないって事か」


「ああ言う類は九割は本当の事話すもんや。せやから難しいわな。……もしくは全部本気で話しとるけど後で心変わりしたとか間違った事を本当だと思い込んで話をしとるか」


「『翠玄武』まで登り詰めた女が?」


「まあ無いとは思うけど一応可能性だけ、やな。いや心変わりは割としそうやけどあいつ。どっちにしろ信用出来るかっつーとやな」


「セルキスなら、少なくともレミアハート大兄様からは信用されてるぞ」


「レイラ?」


「なんせレミアハート大兄様の懐刀なんて言われてるからな」


「……もしかして強い?」


「セルキスは強いぞ。『ガーデンナイト』全員相手にしても瞬殺するくらいには。ま、基本は研究ばっかりやってるから『翠玄武』らしいっちゃらしいけどな」


「ちなみにどんな研究やってるか知ってる?」


「ああ、なんか最近は水をかぶると女になって、お湯をかぶると男に戻る体質になる『娘溺泉』とかいう温泉を作るとか言ってるとかなんとか」



 ……どうしよう。信用出来ないけど嫌いになれないタイプだわ。

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