7.自信満々な五龍の一人が喧嘩を仕掛けてきた件

 辛い。左眼がまじで疼く。シルの師匠に気付いたら寝かされていて、起きたらなんか終わってたんだけど。何これ左眼だけ見え過ぎて気持ち悪いんだが。


 正直左眼を眼帯かなんかで隠すか本気で迷ったが、怪我して左眼を失ったみたいに周りから受け取られたら、シルが落ち込みかねないから我慢するけどさ。


 今は一人で眼を慣らす為にと街ブラ中である。元々左眼って気合い入れないとそんなに見えてなかったし、見えるのも魔力の流れみたいなもんしか見えてなかったから、突然視界が戻ると平衡感覚も少しおかしな感じである。


 ……これまた修業基礎からやらないと、色々感覚狂ってるんじゃないだろうか。しばらくは戦闘系の依頼は断ろうかな。そう思っていた矢先である。



「お前が『白獅子』か?」

「……そうだけど?」



 なんかヤンキーみたいな女性に絡まれた。街の人間ではない。タイミングがまずいな。この街だと実力試しみたいに喧嘩売ってくる奴ももういないからちょっと油断していた。シルー早くきてくれー。……呼ぶ手段がないオワタ。



「あの当代の『黄龍』に勝ったらしいな。『黄龍』の奴、俺とは手合わせしやがらねえくせによお」

「いやあんただれよ。それに別に『黄龍』には勝ってねえよ」

「俺はレイラ。俺こそが五龍最強の当代『蒼麒麟』だ」

「それは凄いね。じゃあこれで」

「待て待て待て待て。流すなぶち○すぞ」

「ええ……、俺『蒼麒麟』に用事ないし」

「『白獅子』は『黄龍』より強い。俺がお前に勝つ。『蒼麒麟』は『白獅子』より強い。つまり俺最強」

「おめでとう。あんたの不戦勝だ。じゃあこれで」

「チッ……、舐めんな!」



 『蒼麒麟』、確か対人戦特化型で気性が荒いとかロサリアさんが言ってた気がする。拳闘士系だっけ。「気をつけたほうがいい。僕は立場上、相手も無理矢理は仕掛けてこないが、君には仕掛けてくるかも知れないよ」とか言ってたなあ確か! ロサリアさん、街中で仕掛けて来やがったぞコイツ!


 右眼で相手を、左眼で相手の魔力の流れを観る。右手に魔力集中、ぶっ放し系か! 視線は俺の正中線を捉えてる、速いがギリギリ避けれる!


ドゴゥ!


 背後から轟音が響く。流石に民家等は狙わず地面に着弾したようだが、あんなん喰らったら死ぬ。何街中でぶっ放してんのコイツ頭おかしい。


「余裕ぶってギリギリまで見極めて紙一重で躱わすか、気に入らねえ」


 違いますー。最速で躱してこれですー。避けれた事褒めて欲しいくらいだわ。話しながらまた魔力集中……連撃、いや乱撃か!? グミ撃ちは雑魚には効くから辞めて下さい!? 花火でも打ち上げているかのような爆音が街中に鳴り響く。


「先読みでもしてやがるみたいに器用に避けやがるな気持ち悪い!」

「……!?」


 ただひたすら速く、威力が馬鹿高いが射線が素直なお陰でギリギリ避けれる。避け……後ろに子供!?


「当たった! ……チッ、馬鹿が。ガキになんて俺が当てる訳ねえだろうがよ」

「……俺がお前を信用出来る点がまったく無い」


 腹部に着弾し、爆発。身体は後ろに弾き飛び跳ね、バウンドした身体は偶然立ち上がった状態で止まった。後ろにいた子供の頭を撫で、この場から離れるように促す。お腹から血、だらだらな状態で怖かっただろうごめんな。って流石にギャラリーが集まって来た。俺のボコられショーが始まるだけなんで解散して欲しい。


「ま、その程度じゃくたばらねえよなあ! 抜けよ剣をよ! ……はっ、本当に数打ちの剣を使ってやがる!」


 うるさいですー。俺には伝説級の剣なんですー。実際伝説級の装備で固めていたロサリアさんとも撃ち合えたから問題ないんですー。……シルの付与魔導があれば、ね。


「レオ!」


 ギャラリーからシルの声が聞こえた。身体が軽くなる。力が漲る。声のほうを見るとシルが怒りに震えるマジクを抑えながらこちらに付与魔導を掛けてくれていた。ありがとう。あとやべえ。街が無くなる。シルとマジクにいい笑顔でサムズアップして落ち着かせる。


「余裕ぶってんじゃねえぞ!」


 レイラが近接格闘に切り替えた。先程までと違い、今度はちゃんとギリギリまで見極めながら拳を、蹴りを、肘を、膝を躱す。全身に魔力を溜めている一つ一つが必殺になりうる攻撃だが、俺の右眼は相手の動きを正確に見極める。

 ……見極めれるだけだからシルの付与魔導が無いと身体が付いてこないんですけどね! 左眼。おいおい相手だけじゃなく街一帯レベルで見えるぞ何コレ気持ち悪。集中、集中。お、相手だけに絞れば発動の予兆っぽいのまで分かるな。


「くそ、当たらねえ!」


 一撃の威力はロサリアさん以上。ロサリアさんがスキルを使ってるレベルの攻撃をスキル無しで撃ち込む化け物。でも正直、ロサリアさんのほうが遥かに強い。攻撃が素直過ぎる。擦れば勝つみたいな感じではあるけど……。こいつ、同レベルや格上との実戦経験少ないな? 俺なんて格上としか戦闘してこなかったレベルやぞ?


「ここ、ここ、そこ、んでここ!」


 魔力の溜め始めた部位を狙い剣の峰で殴る。魔力が分散する。相手が溜めようとする。散らす。すげえこれ相手のスキルキャンセル出来るじゃん。溜めようとした瞬間、その部位を殴る。殴る。殴る。気が付けばレイラの全身から魔力が抜けボコボコに殴っている感じになってしまった。


 膝を突いたレイラと見下げる形になった俺にギャラリーから歓声が上がる。やめてコイツキレると面倒だから本当にやめて。



「街中だしこの辺で辞めよう。……この辺りの修繕費は出せよ?」

「チッ……しょうがねえな。俺の旦那にそう言われちゃあな」

「じゃあこれで手打ちで……旦那?」

「俺より強い奴を俺の旦那にするって決めてたからな! 宜しく頼むぜ旦那様!」



 もしかしてロサリアさんが対戦避けてた理由ってそういう……? いやなんかシルとマジクがすんごい顔してこっち見てるから!


 この後めちゃくちゃ誤解を解いた。あとなんかパーティーハウスにレイラが住み着いた。俺の実力は皆のお陰だから全然レイラのほうが強いって説明しても「それも含めてお前の力だろ?」って言って聞いてくれない。なんなの本当。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る