第13話 ミカエルとの約束

 ミカエルが僕を頼ってくれた。それは僕にとって言葉にならないほど嬉しいことだった。彼は『北の平原』で僕の命を守ってくれた。僕だけではないが、僕の命も守ってくれた。

 これと同じ大きさのものを彼に返せるとは思わない。しかし、あれほどすごいことを成し遂げられるミカエルが、今、僕に助けを求めたのだ、なんとか力になりたい。


「わかった。僕はできる限りの協力をするよ。約束する」

「ありがとう。よくわからないが、最後にネグロスが、しきりに『月の紋章』とか言ってたねえ。あれは何のことだろう?」

 アズールもこれには困った。聞いたことがなかった。

「ごめん。僕も聞いたことがないよ」

「そうか。ネグロスはシェーラにも言ってたけど、最後に僕にも言ったんだ。もう『黒の国』に戦争は仕掛けない。でも『月の紋章』は別の話で、これは手に入れたい……世界征服以外にも使い道がある……とか……あと、彼女にムーンフォレストとか言ってたねえ」

「ああ言ってた。それは森のことだ。神殿があるらしい。ごめん。そこも場所が神聖な場所で、なかなか気軽に立ち寄れないんだ。近くを通たことぐらいはある。でも、それぐらいだ『青の国』の信頼できる者たちで調べるよ『月の紋章』のこともね」


「ありがとう……『紋章』ねえ……おふだみたいなもんかな?」

 ミカエルが夜空を仰ぎ見ながら呟く。

……

 僕はずっと気になっていたことを聞いてみた。

「ねえ、ミカエル、シェーラは君にとって大切な人って言ってたけど……」

「ああ」

「あのぉ、その、なんだ、あれかい、彼女みたいなもの?」

「なんだ、聞きにくそうに言うなあ」

「まあ、そういうことなんだろう」

「ハハ、君は、ここに来て、いろんな人の話を聞いてなかったのかい? 聞き流してくれてたのかい……彼女のために……」

「え?」

 僕は何のことかわからなかった。


 ミカエルが言う。

「彼女のことで、こんなことを言うやつは、僕も嫌いだから、あまり僕自身の口からも言いたくないけど……『めかけの子』とか……」

「あ……」

「僕とシェーラは兄妹みたいな関係なんだ。だから『彼女』とか、そんなんじゃないよ『妹』だな。だいぶ気の強い、頼りになる。僕のたった一人の『妹』だ」

「そういうことか」

「そう」


 僕たちはバルコニーで晴れた星空を見ながら話していた。


「アズール、君はいろんな国を知ってるんだな。さっきもムーンフォレストのこと、あまり知らないって言っても、僕よりはるかに知ってるよ。ムーンフォレストより先にも国があるのかい」

「ああ、ここから見てムーンフォレストの先といえば『赤の国』がある。海があって賑やかな町だね」

「海があるのか! すごいな。 ここよりずっと華やかなんだろうね」

「そうそう『赤の国』で、王を継ぐだろうって言われてる子も僕たちと同じくらいの年だよ」

「へえ」

「クレタ……クレタとか言ったかな」

「会ったことあるの?」

「いや、まだ、会ったことはないな」

「『黄の国』には不思議な呪文を使う人がいるらしいんだ『黄の国』は、とにかく山や湖、川、自然が美しい国なんだ。幻獣とか聖獣とか、そんなものがいるっていう噂があるんだ」

「なにそれ?」

「つまり、ドラゴンとか」

「ええ! ドラゴン! そんなのがいるんだったら、今日のネグロスの軍隊やっつけてくれよ! こっちは三万人に、ほとんど丸腰で向かって行ってるんだぜ。レベル違い過ぎだろう」

「レベル違い過ぎるのは、ミカエル、君の方だろ。君一人でドラゴン級じゃないか」


「アズール……嬉しいよ。こんなにたくさん話をしたのは初めてだ」

「僕たち親友だよな。ミカエル」

「ああ、そうだな。アズール。明日はもう旅に出るのかい」

「うん」

「今度は、どこに向かうの?」

「『青の国』の東だな」

「ふうん。ハハ、聞いてもわからないや」

「君たち『黒の国』が、これほど素晴らしい国とは知らなかったんだ。きっと、たくさんの人に、この国の素晴らしさを伝えるよ」

「ありがとう」


 二人はバルコニーの星空の下で眠りについた。

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