第12話 祝宴のあと

 その日は、国を挙げての祝宴が催された。

 町も王宮も、子供から大人まで夜を徹して祝いの宴が開催される。

 『青の国』の調査隊の皆も町中の人たちから歓迎された。

 王宮も門が解放され衛兵たちも町の人たちと杯を交わした。


 僕が王宮の広間で食事をしていると森で木の実を拾っていた可愛らしい女の子がケーキやクッキーを持って楽しそうに近づいて来た。

「これおいしいよ」

 カップに入った小さなケーキを持って来てくれた。

 僕が「おいしい」と言うと、嬉しそうに微笑んで、僕のひざの上に座る。


 そういえば、今は誰も皆、男性も女性も白や黄色、青や赤、様々な色の服やドレスを着ている。

「今は黒じゃないんですね」

 と近くにいた女性に言うと、

「あれは日中、外に出かけるとき着るんですよ」

と教えてくれた。

 この国の人たちは子供から大人まで、男性も女性も皆人なつっこく感じがいい。皆、社交的、友好的だ。


 しばらくみんなと食事をしていて、ふと僕はミカエルに会いたくなった。王宮の人に聞くと彼はよくバルコニーにいると言われ場所を聞き訪ねてみた。


 ミカエルはそこにいた。

「やあ、ミカエル。探したよ」

「やあ、アズール。今日は疲れただろう」

 あれだけの戦いをして、大事な人を失って、尚、僕のことを気遣ってくれる。

 しかし、思えば、あっという間のことだった。僕たち調査隊がここ『黒の国』にやって来たのは今朝のことだ。

 昼前にここの広間に集まり、昼過ぎには『北の平原』の城壁にいた。

そして、今思っても現実のこととは思えない『北の平原』での戦い。僕は生まれて初めて『死』を覚悟した。

 目の前で見た本当の戦争。戦ったのが、ミカエルとシェーラだったから、一人の死者も出なかったが、敵は三万人。剣ややりほこを手にしていた。あれで普通に戦っていたら多くの犠牲者が出たはずだ。

 そして、その戦いの中で一人の少女シェーラが消えた。そんな現実とは思えない場所から帰ってきて、今さっきまで、ここで食事をしていた。


 これはなんだ?

 夢でも見ているのか?


「ねえ、ミカエル。僕はなんだか、今日のことが、まだ現実のことと思えないよ。頭がついていってないや。君はずっとこんな世界で育ってきたの? 君の周りでは、こんなことが毎日のように起こっているの?」

 ミカエルがうつむいて首を振るようにして言う。

「まさか、こんなことが毎日あったら、身が持たないよ。まあ、それでも、ここは他の国よりいくさは多いんだろうけどね。どうなの? 『青の国』では」

「なにが?」

「戦争」

「ないよ。そんなもの」

「え? 一年に一回も?」

「ないよ。一年に一回も戦争があるわけないじゃない。生まれて一度もないし、戦争なんて歴史の文献にしか出てこないよ」

「平和だな」

「え?」


 僕は『戦争』を知らないのと同時に『平和』という言葉の本当の意味もわかっていなかった。

 今日、あの三万人の軍隊が武器を手にして、自分の方を向いている景色を見るまで『平和』とは、どういうものなのかを知らなかった。

 あの武器はあのとき、僕たちを殺すために握られていたものだ。あの兵隊たちは、あの場所で僕たちを殺すためにそこにいた。その数、三万人。その場から逃げても無駄だと思った。


 自分と同じ年の少年が武器を持った兵士に向かって行く。戦闘能力は桁違いけたちがいだが、少なくとも彼は今日大きな自分の大切なものを失った。他人事とは思えず、僕もシェーラを失った悲しみがわかった。

 僕は『戦争が悲惨』という言葉の本当の重さを知らなかった。


「ねえ、こんなこと言うのは……僕が軽々しく言えることじゃないのは、わかっているけど、シェーラのこと……」

僕はそこまで言って、次の言葉が見つからず。ほおを涙が流れた。

「ありがとう。気にしてくれて、大丈夫だよ。それに彼女は死んだわけじゃない。ただ、悪い魔法にかかったようなものなんだ」

「え? 彼女は?」

「まだこの国にいるよ。わかるんだ」

「でも、いずれ自分の魔法を解く方法を探して旅に出ると思う」

「アズール、君はたくさんの国のいろいろなことを知っているんだろう。彼女を助けてあげてくれないか」

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