第11話 百年戦争の終焉

 溜息をつくネグロス。

 ネグロスは三万の負傷した兵士を眺めきびすを返した。

「この戦いは、私の負けだ。三万の兵は、もはや失ったも同然。お前たちがその気になれば全員倒せたであろう。だが、私は、たった一人のお前の心のよりどころとなる者を、お前から奪った。戻してほしければ、私の仲間になれ。きっと私なら、力になれるぞ」


 ミカエルは殺気にも似た視線をネグロスに向けた。


 ネグロスがミカエルに言う。

「フッ……怖いな、いい目をしている。貴様も、こっちの世界に来い。見ろ。あの力ない奴らを」

 城壁の上のいる『黒の国』の王たち『青の国』のアズールたちの方に目を向ける。


 ネグロスが少し笑みをたたえた表情でミカエルに言う。

「約束しよう。今後、グランド・ゼノビア帝国は『黒の国』を攻めることはない。まあ、私たちが『北の平原』一帯を支配できている間はな……ルヴェイユ王に伝えておくがいい。だが、勘違いするな『月の紋章』は別の話だ。あれは『国の征服』などということ以外にもいろいろ使い道は多い……とはいっても、あれは『黒の国』の管理下にあるものでもなかろうがな……」


 ネグロスは副将軍ガルデに目配せし、

「帰るぞ」

 と言った。そして、もう一度ミカエルに向き、呟く様に言う。

「私のところに来い。おまえ……いずれ『闇』に取り憑かれるぞ」


 ミカエルはキッとネグロスを睨みつけ力強い口調で言う。

「『闇』に取り憑かれなどしない……『闇』も『しんの黒』も自在に操る」


「気に入った。いずれ、また、どこかで会おう」

 そう言ってネグロスはガルデと共に『北の平原』を去った。


 ミカエルは剣を納めた。

 地に散らばった無数の金色の盾が熱を失った光をかえしている。

 少し歩いたところに、二頭の馬が主人を待っていた。

 馬に乗り城壁の方に帰る。

 今度は一頭の馬には本当に誰も乗っていない。

 ミカエルのほおを一筋の涙が流れた。



 城壁まで帰って来たミカエルを皆が無言で迎える。誰も声を掛けてあげることができなかった。ミカエルは皆に少し微笑み。何も言わずにそのまま王宮に帰った。

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