第10話 シェーラ・グリフ・ダークエル

 ネグロスはミカエルに剣を突き付けられたまま続ける。


「そっちにいるのはダークエルの子孫ではないか?」


「なに?」

 その言葉にシェーラが反応した。


 ネグロスが続ける。

「シェーラ・グリフ・ダークエル……それがお前の名だ……お前の母は『しんの黒』と『闇の力』を自在に操るアルメイダ・ダークエル」


「なにを言っている。ネグロス! シェーラ惑わされるな」


「人は『闇の力』の前では弱いものだ。迂闊に近寄れば引き込まれる」


「言うな」

 シェーラの表情が変わるのがわかった。怒りが満ちている。


「おまえも、そうであろう。母親と同じ目をしている」


「黙れ!」

 シェーラが怒りをあらわにする。


「シェーラ、耳を貸すな『しんの黒』を纏っているとき『怒り』がまされば『心』が『闇』に支配されるぞ!」

 ミカエルがシェーラを抑えるように叫ぶ。


 しかし、ネグロスは、尚も続ける。

「呼んでいるぞ『闇』の力が、お前の母親の声も聞こえているのではないか」


「シェーラ、君のお母さんは『闇』の世界などに引き込まれていない。耳を貸すな」

ミカエルが制する。


「おのれ、母の名を出すな」

 シェーラに怒りが満ちる。


「ハハハ、怒れ、怒れ『闇』の力の前に『怒り』をぶちまけろ! ……シェーラ、かわいいシェーラ、お母さんに『月の紋章』を持って来ておくれ『月の紋章』があれば、私は、あなたのところに帰れるのよ……」

 ネグロスが優しい口調で言う。


「耳を貸すな。シェーラ! ネグロスの言葉に惑わされ、自分を見失えば『闇』の世界に引き込まれるぞ!」

 シェーラの怒りを抑えようとするミカエル。


「シェーラ、かわいいシェーラ、つらい思いをしただろう、お母さんのところにおいで」


「うわあああああ―――――――!」


 怒りと悲しみの感情を抑えられず、シェーラがネグロスの腕に剣を切りつけた。


 一瞬、ネグロスはかわしたが、シェーラの剣がネグロスの腕をかすめた。腕から一筋の血が滴った。


 次の瞬間『闇』の『黒いもや』がシェーラを包んだ。


 ミカエルは自分の目を疑った。今、目の前で起こっていることが理解できなかった。


 みるみるシェーラの姿が、見たこともない男の魔法使いの様な姿に変わっていった。


「ハハハ『闇』に取り憑かれたな! 生まれ変わった、ダークエル! グリフ・ダークエル! お前はグリフ・ダークエルだ!」


 言葉を失うミカエル。


 構わずネグロスが続ける。

「グリフ・ダークエル。私と一緒に『黒の国』を、そして、豊かなムーンフォレストを、征服しようではないか。今までお前をののしってきた奴らに復讐するのだ! 『月の紋章』だ! 『月の紋章』を手に入れろ! さすれば、ムーンフォレストを自在に操れる……世界を征服できるのだ! 『月の紋章』だ。それを探せ! 手に入れろ!」


「黙れ! ネグロス!」

 剣を向けるミカエル。


 それをかわし、ネグロスがシェーラ(グリフ・ダークエル)に手を差し伸べる。

「こっちに来い。ダークエル」


 シェーラ(グリフ・ダークエル)は姿を変えたが、キッとネグロスを睨み。右腕をネグロスに向けた。瞬間、レーザー光線のような光が彼女の指先から発せられネグロスのほおをかすめた。


「なんだ?」

 驚くネグロスのほおから血が流れる。


 姿の変わったシェーラはミカエルに哀しそうな視線を送る。姿は変わったが、その目はミカエルの知っている、やさしいシェーラの目だった。


 そして、次の瞬間シェーラは闇に溶けるように姿を消した。


 それが、ミカエルが最後に見たシェーラの姿だった。

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