第9話 黒い戦慄(二)

 黒い瞳、黒い髪を肩までなびかせ、スッとした端正な顔はどこか少女のようでもあった。なんの飾りもない黒い魔法使いのようなローブに身を包んだミカエル。

 その美しい剣は彼の右腕に握られていた。


 こんな黒い服装で身を包んだ少年。なぜ目の前に立たれるまで気付かなかったのだろう?


 遠くの方に『黒の国』の王や兵士の姿が見える。まったく動く様子もなく、こちらを見ている。


 この二人だけが、あの場所から、ここまで来たのだ。敵軍の兵士全員の手から盾を打ち落とし、今まさに、将軍に王手をかける様に詰め寄っている。。


 ネグロス軍の自陣には兵士たちが落とした金の盾がまるで金色の海の様に一帯に光り輝いている。


 ミカエルとシェーラの姿は、まるで金色の海原に立つ、天から降臨した二人の天使のようだった……


 その光景に、僕たちだけでなく、敵の大将軍ネグロスも三万の兵士も息をのんだ。


 少年は静かに言う。

「まだ『黒の国』と戦うのか? この剣は闇の妖気を集めてつくった魔剣ドゥエルデ。お前たちに勝ち目がないのは、お前自身が一番わかっているはずだ」


 三万の兵を率い百戦錬磨とうたわれた大将軍ネグロスは震えた。

 あらゆる戦場を生き抜いてきた大将軍の本能が恐怖に震えている。


「このネグロス。こんな年端もいかない少年に戦場で恐怖することがあろうとは、こんな形で私は終わるのか、天下の大将軍と恐れられた私が、最後は自らの剣を抜くこともかなわず、おまえたちに……歴史とは残酷なものだな」


「百戦錬磨のネグロス大将軍。何万、何十万の兵士を倒してきたという武功を聞いているが……将軍、僕と戦うのは初めてだったな」


 一人の少年の言葉が戦場を震わせた。


 ネグロスは静かに目を閉じ、大きく息を整えた。


「おまえたちは『しんの黒』を操れる者か……私も元は『黒の国』の血を引く人間……『しんの黒』を操る者、そういう人間が『黒の国』には現れると聞いたことがあったが……驚いた。今、お前たちが見せた、そういう『力』なのだな……だが、その力はむやみに使うと『闇の世界』に引き込まれると聞くぞ。お前たちは、まだまだ未熟だ……」


「なにを言っている」

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