最終話 静寂の森

 次の朝、僕たち『青の国』の一行いっこうは王宮で朝食を食べさせてもらった。

 僕たち五人が王宮を出発するとき、自分たちが『青の国』の城を出発するときよりたくさんの高官や兵士、侍女たちが見送りに出てきてくれた。

 門にはルヴェイユ国王、ネルヴァ女王、レダ隊長が見送りに来てくれた。

 ミカエルが森まで見送ってくれるという。

  町を通り抜けていく間、行き交う人々が皆手を振ってくれた。皆、美しい黒のローブを身に纏っている。


 僕たちが初めて出会った森に近づいて来た。

 ここは他の国の人々が『悪魔の森』と呼んでいる森だ。僕たち『青の国』でも『暗闇の森』と呼んでいる。


「ねえ、ミカエル、この森を『黒の国』のみんなは、なんて呼んでいるの?」

「ここは僕たちの国では『静寂せいじゃくの森』と呼んでる」

「本当に美しい森だ……素敵な名前だね」

 木漏れ日が美しく輝いている。

 今日も女性たちが黒のローブを身に纏って木の実を拾っている。


 いよいよ別れの時が来た。


「ありがとう。ミカエル」

「こちらこそ、ありがとう。アズール」

「ミカエル。最後に僕の願いを聞いてくれないか?」

「ああ、いいよ」

「君を抱擁してもいいかい?」

「なんだよ、照れくさいなあ」


 僕はミカエルをやさしく抱きしめた。

 ミカエルも僕を抱きしめてくれた。


……なんて華奢で、かよわい身体なんだろう、男性の身体とは思えない繊細な身体。彼はこんな小さな身体で、僕たちを、僕たちの国を、守ってくれたのだ……体格では、すべてにおいて僕の方がまさっている……彼を抱きしめて……


 僕は涙が溢れてきた。


「ミカエル、君は……温かい……」


「温かいなんて……そんなこと、初めて人から言われたよ……」

 ミカエルは少し照れくさそうに言った。


「また、いつか、会えるよな」


 親友ミカエルは静かに頷いた。


 黒いローブを着たかわいらしい女の子が、拾った木の実をいっぱいに入れた袋を僕にくれた。


静寂せいじゃくの森』は僕たちを温かく包んでくれた……


 そう書き記して僕はペンを置いた。


fin

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る