第6話 北の平原

 『黒の国』の兵たちは『北の平原』の城壁に向かった。ミカエルとシェーラもいる。

 僕たち『青の国』の調査隊も一緒に城壁に連れて行ってくれることになった。


 連れて行ってくれるというより……


『現実を見ろ』


という意味だということが、この後、すぐにわかった。


 この城壁より向こうは『北の平原』あらゆる荒ぶる民族が蔓延はびこる無法地帯だ。そして、噂では、あらゆる民族が幾度となく『黒の国』に攻め込もうとしているという。

 しかし、今までの攻撃は、所詮しょせん、小民族との小競こぜり合い、小民族が喧嘩を売ってくるようなものだった。


 今回は事態が異なる。大帝国グランド・ゼノビアが、この『黒の国』ばかりでなく『ムーンフォレスト』と周りの国すべてを飲み込むほどの脅威となって押し寄せているという。


 しかし、ここまで聞いても、まだ、実感がない。

 こういう事態を、私たち『青の国』も『黄の国』も『赤の国』も知らない。感じたことすらない。

 知らずに、日々、平和に暮らしている。

 今日の一日をいつものように暮らしている私たちに、明日、戦争に巻き込まれることを想像しろと言われても難しい。

 遙か遠くの国で起こっている戦争を見聞きして『自分たちにも、いつ降りかかってくるかもしれない』などと口で言ってみても、誰もそんなことを本気で思ってはいない。実感もできない。


・◇・◇・


 城壁に着いた私たちは、初めて『北の平原』

 そう、初めて『外の世界』をの当たりにした。


 そこで、初めて自分たちの目の前に……


『戦場』


 という現実が広がった。


 自分たちのわずか数キロ先。

 目と鼻の先というところだろうか……


 黒い壁のように敵の大軍が旗を立て、金色の盾と剣やほこやりを持って、今にも、こちらに攻め入ろうと隊列をしていた。


 これが現実の光景だった。


 彼らが手にしているものは田畑を耕す道具などではない。それは『人を殺す』以外に使い道のないものだ。


 そして、その数の想像がつかなかった。


 『黒の国』の兵士がつぶやいた。

「三万はいるぞ」


 三万人……


 こちらは私たち『青の国』の調五人を入れても、たかだか二十人ほどだ。


 震えた。


 足が震え動くこともできない。


 後ろに下がることも……

 今から逃げることも……


 それは意味を成さないと思い知った。


 ここで死ぬのか……


 生まれて初めて『殺される死』という恐怖が頭をよぎった。

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