第5話 王宮の広間で

 何か緊急事態が起こっているようだ。王宮内が騒然としている。武器を手に走って行く者。何か大きな声で命令をしながら走って行く者。

 僕は付いて行っていいものだろうかと思いながらも、ミカエルという少年の後に付いて行った。向かった先の広間に王をはじめ数人の高官とおぼしき者たちが集まっていた。

「その者たちは誰だ」

 高官の一人が私たちの方に厳しい視線を向けた。


「この者たちは『青の国』の者だ。怪しい者ではない」

ミカエルが言う。


「怪しいか、怪しくないか、知らないが、この事態だぞ。急ぎ国に戻られよ。ここは危険だ」


 ミカエルが、その言葉を遮るように言う。

「この国が敗れれば、いずれ他の国も攻め入られる。私たちが、この国が守り切る」

「しかし、ミカエル様、今度ばかりは……」

 ミカエルが厳しい視線で高官を睨む。


 そして、僕の方に振り返り、

「『青の国』のアズール。私たちに付いてくる勇気はあるか?」

「あ、ああ」

 僕は事態が十分呑み込めていなかったが、逃げろと言われて逃げたところで、もし、この『黒の国』が敗れたら、そのまま、他の国に攻め入られるという先程の言葉は理解できた。


「ミカエル様、足手まといになるだけです」

 高官の一人が困った顔でミカエルに言う。

「いいから、レダ。それよりシェーラを呼んでくれ」

「ミカエル様、シェーラは力ない少女です。しかも下賤げせんの者ですぞ」

「なに?」

 ミカエルの視線に震えるように、

「い、いえ、言葉が過ぎました」

と一歩下がる。

「そうだな。レダ。シェーラをここへ」


 しばらくして、一人の少女がやって来た。

 ミカエルが少女に言う。

「シェーラ、力を貸してくれ。今、この国はかつてない危機に直面している。お前の力が必要だ」


 少女は睨むようにミカエルを見つめる。

「正統な血を引く坊ちゃんに命令される筋合いはないが、この国は私の母の国でもある。守る理由はある」


下賤げせんの者だ。めかけの子だぞ」

 兵士の一人が小さな声で蔑むように言う。


 怒りに震えるシェーラより先にミカエルの手にした剣がその兵士の喉元に突き付けられた。

「死にたいか」

「……」

 震えながら一歩下がる兵士。


「二度と言うな」

 兵士を睨みながらミカエルが剣を収める。


 一部始終を静かに見守る王ルヴェイユ。僕たち一行いっこうは改めて王に拝謁はいえつした。

 この場所での一連のやり取りを見て、この国におけるミカエルの立場と力の大きさを垣間見た気がした。

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