第4話 暗闇の森での出会い

 僕たち『青の国』の調査隊は、各国を旅しながら、いろいろな情報を集め、見聞を広めていくことを一つの仕事としていた。


 いろいろまわしい噂もあるこの『黒の国』の本当の姿を知り、噂が間違っているならば、各国に広がる誤解を解き、この国ともっと友好的な関係を持つべきだと思っている。


 『黒の国』と『青の国』の国境には森がある。

 ~『暗闇の森』~

 『青の国』の者はそう呼んでいた。


 その森は国境といいながらも、地理的には『黒の国』の方に広がっている。

 そこは『悪魔がむ森』とか『鬼の住処すみか』などと恐れられている場所だが、実際に行ってみると、穏やかで美しい森だった。


 僕たちが森を進んで行くと、いつものことのように木の実を拾う女性、少女たちがいる。

 皆、魔法使いのような黒いローブを身に付けている。小さな女の子も黒いローブを身に纏っている。

 この国の者は、民族衣装の様に、決まって『黒いもの』を身に纏う習慣があった。これも他の国の者から見ると、何か気味が悪いという印象を持たれるところだった。

 しかし、こうして見ていると、日光を避けるようにローブを纏っているせいか、誰も皆、他の民族と比べると、肌が透き通るように白く美しい。


 小さな女の子が、私たちに気付いて、走ってきて木の実をくれた。そして、自分の持っていた木の実を食べて見せ、かわいらしく微笑む『これは食べれるものだよ』と教えてくれたようだ。

 僕は女の子がくれた木の実を一口食べた。少し酸味を含む甘い木の実はこの上なく上品でおいしかった。

 思わず、

「おいしい! なんておいしい木の実なんだ」

 と言うと、女の子は嬉しそうに微笑んで大きく頷いた。


 そして、その子は、みんなのところへ走って帰った。


 ふと一人の少年と目が合った。一見、少女の様にも見えたが、どこか力強い視線とキリっとした表情は少年であると思わせた。



 僕は自ら名乗ってみた。

「僕はアズール・フィン『青の国』の王家の者だ」

 すると、その少年は僕のところにまっすぐ歩み寄ってきてささやいた。

「君はおもしろい男だな。そんなことをあまり大きな声で言うもんじゃない。王家の者などと……」

「あ……」

 そうだ、事によっては仲間を危険にさらす行為だった。


「まあ、ここは大丈夫だよ。僕はミカエル」

 ミカエルという少年は僕たちを町まで案内してくれた。黒のローブに身を包み素顔をはっきり見ることができなかったが、どこか目の前にいるのに見失ってしまいそうな変な感覚に見舞われる。

 なんだろう、この不思議な感覚は……その少年は僕たちを案内し、そのまま『黒の国』の王宮に入って行く。

 門を入ると衛兵えいへいたちが少年に深々と頭を下げる。

「え?」

 衛兵の一人が近づいて来た。

「ミカエル様、王がお呼びです『北の平原』が緊急を要する事態とのことです」

「なに?」

「とにかく、一刻も早く、ルヴェイユ王のところへ」

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