第44話 特別

「みいなさんが悪いんです。あんなに私を誘惑するから……」


「なんの話ですか!?」


 本当になんの話だ!? 俺は誘惑した覚えなんて一ミリもないが!?


 てかちょっとまて。こういう展開は普通逆……でもないのか。今俺ってば身長140ぐらいの女児だもんな……。


 だんだんと近づいてくる春奈ちゃんに、俺は後ずさりしようとしたが、なぜか体が動かなかった。


 あっ春奈ちゃん金色の魔眼使ってやがる。ちょっと待ってほしいなー。それはずるくない?


「私、最近気が付いたんです。みいなちゃんのことが、好きだってこと。だから……」


 それは嬉しいけどさ!? だからの先が気になるな!?


 もともと男だった時もBクラス探索者だったこともあってそこそこ交友関係があったが、こういった経験はさすがにない。


 こういう時はどうすればいいんだろう。


 考え込んでいると、春奈ちゃんの手が俺の顎に触れた。そのまま春奈ちゃんは俺に少し上を向かせた。


 あの……? これはキスの予備動作ってやつでは? なんだろう、推しにキスされるっていう貴重な体験をしてみたいって気持ちと、まだ若いんだからやめとけよっていうおじさんみたいな気持ちが同時に存在している。


 この体って一応まだ13だからね?


「春奈ちゃんちょちょっとま……んむ!?」


 春奈ちゃんに待ったをかけようとしたその時、唇をふさがれた。


 あ、しかもこれ深めのやつですか?


 なんか春奈ちゃんなんかうまくないか……。


 そんなことを思ってると、春奈ちゃんが口を離した。


「ふふ、なんですかその表情。まるで気分がいいみたいですけど」


「べ、別にそういうわけじゃ……」


 ちょっと推しにキスされたくらいでそんな……。


「痛くはしませんから、ね?」


「ちょ、ちょっと?」


 春奈ちゃんは麻痺で動けない俺の体をお姫様だっこしてどこかに運ぶ。


 しかし春奈ちゃん、背も高いし、ほんといい顔してるよなぁ。


 次の瞬間、俺がおろされたのは少し広めのベッドだった。


 あ、痛くしないってそういうことですか? 逃げようと思ったがちゃんと体が動かない。


 うーん麻痺強すぎだな。今後は姉貴みたいに状態異常耐性のアイテムを持ち歩くべきか……。


 それはそれとして、まぁ……春奈ちゃんならいいかな。推しだし、一緒にいて楽しいし。正直好きともいえる。一番特別に思ってるし。


「優しくしてね?」


「それはもちろん」


◇◇◇


 目を覚ますと、部屋の時計は20時を指していた。ここに来たのが15時前だから、結構なこと寝ていたらしい。寝ていたというか、気絶してたというべきか……。


 なんか春奈ちゃん、上手だったというか……。


 隣ですやすやと眠る春奈ちゃんを見る。


 いい顔してるよホント。さすが俺の推し。


 しかし、今回の件で、俺が今女の子だってことにようやく実感がわいた気がする。


 今まではどこか他人事のように考えていたが。


 これからふるまいにも気を付けよう。他の人との距離感をミスれば春奈ちゃんの嫉妬スキルが覚醒してしまう恐れがある。


 それはさすがに避けたいところだ。大罪スキルは感情に左右するからな。


 とはいえこれだけは言っておきたい。春奈ちゃんに似合う大罪は絶対に嫉妬ではなく色欲だ。

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