閑話 『幸運な吸血鬼』

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◇◆◇


「お嬢、授業中に居眠りをなさってはいけませんよ」


「そんなことわかってるわ。でも眠いの」


 懐かしい。よくこうしてアルバに説教をされたものだ。少し口うるさいと思っていたけど。今となってはこれも思い出だ。


「お嬢、槍を扱う時は間合いの意識が大事ですよ」


「なるほど、間合いの管理ね」


 戦いもアルバに学んだ。両親のいない私の親代わり。それがアルバというスケルトンの首領だった。


 私は公爵家の嫡子として生まれたが、生まれた後すぐに両親が行方不明。姫……ユーニャが送ってくれた代官のおかげで我が公爵家が存続できたから、ユーニャには感謝しかない。


 ユーニャにも、アルバにも、私は助けられて、そして守られてきた。


 でも、その2人ももういない。


 同じ時代に吸血姫は1人しか存在できない。新しい姫……ミーナ様が生まれているということは、そういうことなのだ。


 でも、2人がいなくても、私なら大丈夫。


 ねぇ聞いてよ、アルバ、ユーニャ。


 気力を無くしたところに、生きる気力をくれる人が現れた。私は運がいいんだよ、きっと。


 姫を守ることができるのは吸血鬼の誉。それが姫に守ってもらうなんて、前は少し情けなかったし?


 もう数千と何百歳になるけど。守られてばかりだった私は、ようやく誰かを守る側になれました。


 アルバの仇のナトリ? ってやつはミーナ様に許可をもらって一発殴らせてもらったし。


 ナトリの恋人? も殴るのに賛成だったのは少し不思議だったけど。


 だからね。ゆっくり眠ってて?


 私がアルバにしてもらったように、しっかりミーナ様の護りを終えたら、私もそっちに向かうから。


 まぁ、吸血鬼の永遠に近い寿命が尽きるまで、護りぬくつもりだから、少し遅くなっちゃうかもだけど。


◇◇◇


 私はミーナ様に連れられて、ダンジョンの外に出ることができた。


 今、国がどうなっているのか確かめるつもりだったけど。


 確かめるまでもない。ここはユースタニアじゃ無い。


 ミーナ様に聞くと、ここはニホンというらしい。


 ニホンはすごい場所だ。建物は高いし、どこまで行っても家が並んでる。


 食べ物も美味しい。ミーナ様はおにぎりなるものを下さった。吸血鬼として1番口に会うものは血だと思っていたけど、考えを変えざるを得ない。


 絶品だった。ミーナ姫曰く、もっと美味しいものはたくさんあるらしい。


 もしかすると、私は切り替えがいいタイプなのかもしれない。


 少し良過ぎるかも。でもこんな素敵な世界に、守るべき人と来ることができたのは幸運以外の何者でもないよね。


 ねぇ、アルバ、ユーニャ。私、これからがとっても楽しみになっちゃった。


◇◇◇


 吸血鬼どうしは言語がどんなものであろうと意思疎通が取れるけど、どうやらミーナ様は普段ニホン語なるものを話しているらしい。


 ニホンに来たからには、ニホンの言葉で喋らなくちゃダメよね。


 ということで、今私はニホン語を学んでいるのだけど。


 正直難しいわ。結構学問には自信があったのだけれど、漢字というものがどうにも厄介ね。


 ある程度会話ができるようになったから、ナトリってやつと話してみたわ。


 どうやらミーナ様の義兄に当たるらしい。


 少し申し訳ないことをしたかも。


 でも私、後悔してないわ。ミーナ様も怒ってなかったし。


 ちょっと浮気者だからいいお灸になったってココネ様も言ってたし。

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