閑話 『とある騎士団長』

 お嬢は今日もお1人だ。私たちがお嬢を心配しているということにいい加減気が付いてほしいところだが。


 唯一のお友達である姫様のことが心配なのはわかるが、ダンジョンの中を護衛を置いてすすむのはいただけない。


「お嬢、事を急いてはいけません。もしお嬢の身に何かあれば、私たちも、姫様も悲しむことになるのですよ」


「わかってるわ。それでも、ユーニャちゃんが心配で……」


 それでもといいたいのは私もだ。お嬢とは4000年以上の付き合いで、お嬢がまだ子供の時から私が騎士団長を務めているのだから。身分は上だが娘のようだと思っている。そんなお嬢に怪我などさせるわけにはいかない。


「そもそも、どうしてユーニャはあんな状況でダンジョンの探索なんて命じたのよ。私だって……!」


「いけませんよ、お嬢。姫様も逃げ延びていると、信じましょう」


 お嬢、サーミャ・アブルースを筆頭とする私たち、アブルース公爵騎士団は姫の命令で、ダンジョンに資源の回収へやってきたところ、異変に巻き込まれた。


 早く資源を届けなければ、天使の攻勢に耐えられない。


 間に合うといいのだがな……。


◇◇◇


 いつものように独断専行していたお嬢が帰って来た。服をぼろぼろにして。


 おかしい。ここらにお嬢に危害を加えられるような魔物はいなかったはず。


「お嬢! どうしたのですか!?」


「人がいたわ。でも言葉が通じないみたいで、攻撃されたの。多分どこかの部族の人。殺しちゃったらもし仲間がいたときに争いになっちゃうから、逃げて来たわ」


 お嬢にいきなり攻撃をする人間だって? 姫様が統率する統一国家ユースタニアにお嬢のことを知らない人間がいるはずがない。お嬢は確かに人と話すのは苦手だが、国で姫の次に強いとして有名だった。


 もしやこのダンジョンの異変は……。


 しかし、公爵に攻撃を加えて無罪放免とは、こちらの面子もたたない。どんな輩か、確かめねばな。


◇◇◇


 斥候として送ったお嬢の近衛がやられた。間違いない。敵がいる。しかも、そこそこの強者だ。斥候のあいつは300歳台の若手にしてはなかなかの戦士だった。そんなあいつがやられる相手だ。


 お嬢はいつも通り一人でどこかに行ってしまった。今は私の裁量で軍は動く。


 お嬢ならもう少し様子をみるのかもしれないが。私はお嬢に危害を加えるものの存在を許せない。


「今までよりも強大な敵が私たちの前に立ちふさがった! 私たちはそれを打ち倒すために少数での攻撃を行う! 騎馬隊のみ、集合! 他の物はここでお嬢の指示をまて!」


「「「おお~!!!」」」


 私と部下たちは馬を走らせ問題の場所に向かう。私たち騎士団はお互いの魔力を強く知覚できる。最後にあいつの魔力が感じられた場所までもう少しだ。


 問題の場所までたどり着いた。そこには人間が6人いた。しかし1人は姫に似ているな。ただ、姫様のようなカリスマ性、圧倒的なまでの魔力は感じられない。別人か。


「お前たちは何者だ? なぜお嬢に攻撃した?」


『******』


 それは確かに確立した言語のようだったが、1万年近く生きている私も聞き覚えのない言語であった。


「やはり通じないか」


 やつらはすでに剣を構え、こちらと戦うつもりの様子。いいだろう。公爵に攻撃を加え、公爵軍に剣を向ける。その不敬、死をもって償うといい。


 一撃で首をはねてやろうと攻撃を仕掛けるが、その剣は光の剣によって受け止められた。


 まさか、吸血鬼、龍族を覗いて最強の私の攻撃を受け止めるものがいるとはな。


『********』


 何か言っているようだが、そんなことはどうでもいい。今、お前たちを葬りさってやる。


◇◇◇


 体が塵となっていく。ここまで死力をつくせて戦えたのは……。久しぶりだ。


 お嬢をいきなり攻撃した一団とは言え、その強さは確かであった。


 そうだ……私が強さを求めるのをやめたのは……いつからだったか。


 姫の強さを目の当たりにしたとき? お嬢を守ることにすべてをささげると誓ったとき?


 違う。忘れていたんだ。戦いの楽しさを。今は……楽しかった。


「アルバ!? アルバ! どうして……どうしてあなたが……」


「お、嬢……? なぜ、ここに……」


 崩れていく私の右腕。まるでしがみつくようにお嬢が持ち上げる。


 ああ、お嬢、泣かないで。もう、1万年も現世にしがみついていたんだ。1人の兵が風化するだけ。そうでしょう……?


「お気に……なさらず。お嬢……姫のことは…………頼み…………ました。……お元気で……」


 もう長くない。すまない、素晴らしい戦士たち。私は、自分の欲望のために、最後の……別れの挨拶を優先してしまった。きっと、お嬢と君たちは、対立するんだろう…………。


「あぁぁぁぁぁ……! 嘘だ……嘘だ!」


 体が完全に崩れ去る前に聞こえたのは、お嬢の慟哭。


 お嬢……どうか……前を、……む……い…………て……………………。


◆◇◆


 あとから加筆される可能性高し。

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