閑話 『アトラ―2―』

 アトラと13位の殴り合いによって衝撃波が発生、周囲のがれきが高速で飛び交う。メジャーリーガーの投球ですら、飛び交うがれきの速度にはかなわない。


 僕の防御結界をたやすくがれきが貫き、頬を石が掠める。


 それでも、詠唱はやめない。この一撃によって、全てを決めることができるはずだから。


「――世界を巡る、聖なる風よ。天地を駆ける、駿たる風よ。集え、集え。其の風は疾風となりて、狂風となりて、黒風とならん。我が望みは其の風に刃を加え、鮮血の竜巻を顕現せん。天風よ、業風よ。我が嵐に力を加え、大地を支配せよ。さぁ来たれ。極大魔法、『狂嵐刃波レイジング・テンペスト』!」


 詠唱が完成したとき、極大魔法を発動する。結界内、全てが、黒い竜巻に飲まれる。斬り裂く風が吹き荒れ、ビルやがれき、それらが全て粉になるまで切り裂かれた。


 当然、アトラも例外ではない。体中が絶え間なく切り裂かれ、その血が空へと舞う。しかし、なんらかの能力のせいか、十分な切れ味が発揮できておらず、まだまだ動いてきそうな感じはしている。


 13位? 涼しい顔して立ってるよ。魔法無効ってほんと意味わからんね。


「君も君で、すごい火力だな。我も驚かざるを得ない。極大魔法には極大魔法で報いなければな」


「詠唱させるとでも?」


 13位が即座にアトラに接近。拳を打ち込む。アトラは、それを躱し、13位の体に触れた。


「詠唱させてもらうさ。飛べ!」


「なっ!?」


 反重力の作用か、すごい勢いで13位が天空へと飛ばされていった。戻ってこれるかなーあれ。


 そんなことをのんきに考えている場合ではない。詠唱を止めるのは、僕だ。


「――我は望む。空間の歪曲を。我は望む。時の停滞を。双方に作用するは、星の力。加重を加速する。歪め、そして止めるのだ。その世界を我の望むままに。黒き星よ。光すら飲むその力。今こそ我が元に」


 ちっどれだけ風魔法を打ち込んでも何かに阻害される。あいつも結界に近い何かを纏っている。その結界を打ち消すには、僕の魔法じゃ、足りない!


 ならば引き戻せばいいだけの話。


「『風重圧ウィンド・プレッシャー』!」


 遥か上空に打ち上げられた13位。魔法が効くかはわからない。だから賭けになるが、彼女に風の重圧を加える。僕の魔法の効果範囲なら、彼女まで届く。


 そして……。


 僕の隣に彼女が降り立った。


「あれを止めればいいんだね?」


「そういうことです」


 詠唱を続ける悪魔をみて、長麦はすぐに理解を示した。僕の力と、長麦の力を合わせれば止められないことはない。


 僕は風を操り、上空の空気を手元に集め続ける。空気を圧縮するんだ。


 僕のこの手の一転に、空気を圧縮する。極限まで圧縮された空気は変化を起こす。


 電離気体。すなわちプラズマ。それが僕の手の中にある。ただのプラズマじゃない。僕の魔力が練りこまれている。だから、これは圧倒的な貫通力を持つ。


 そこに、長麦の力を相乗させる。


「さぁ行こう!」


「了解!」


 僕の号令によって長麦が走り出す。それに僕はプラズマを投げ、並走させる。


「はぁぁぁぁぁ!!」


 長麦の重い一撃と同時に、僕のプラズマが結界へと衝突する。


 長い拮抗ののち、結界は砕け散った。


 今が好機だ。


 僕は風の剣を作成、そして自身に風の恩恵を付与。


 やることはひとつ。アトラという悪魔の首を落とすこと。


 僕の残りの力と魔力、全てをこの一撃に込める。


 これで終わりにしよう。


「『終末の北風剣ボレアス・ラグナロク』!」


「見事」


 確かな手ごたえを感じると同時に、アトラの首が空を舞い、体が消滅を始めた。


 札幌の一部が半径100mほど完全に更地になってしまったが、僕たちは、勝利を手にした。

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