第24話 一騎打ち

 こいつの攻撃を受けちゃまずいなと思いつつ身構えていると、いつの間にか戻ってきていた春奈ちゃんがその剣で攻撃を仕掛ける。


「そんな攻撃、当たると思ってるの?」


「くっ!?」


 しかし、その攻撃はミザリーと名乗った悪魔が片手で防いでしまった。剣をつかみ、剣ごと春奈ちゃんを俺の方に投げつける。


 俺は春奈ちゃんを受け止め、支える。防御力は低いが力はあるからな、支える分には問題ない。


「……ありがとうございます」


「当然の事をしたまでです。それより今は……」


 あの悪魔をなんとかしなければ。あれは化け物だ。


「二人まとめてかかってきなさい。じゃないと相手にならないわよ」


「言われなくても」


「そうしますよ!」


 俺と春奈ちゃんがほぼ同時に動きを開始する。


 春奈ちゃんは剣を構え前に、俺は魔法の用意をしながら後方に下がる。


 が、しかし。


「後衛から潰すのが、定石よね」


 俺のすぐそばに一瞬にしてミザリーが現れた。馬鹿な。俺の速度のステータスは今もうすでに15000を超えてるんだぞ!? それで動きが一切見切れないなんて!


 というかこの状況まずいのでは?


「みいなさん!!」


 春奈ちゃんが俺に呼びかける声が聞こえる。悲壮に満ちたその声を聴いたその瞬間、悪魔らしく、無慈悲なミザリーが魔法を行使する。


「『災厄の光線ディザスター・レイ』」


 圧倒的な魔力密度を持ったその光線は俺の【種族特性:吸血姫】に内包された【全属性魔法耐性】によって阻まれてなお、俺の体を軽く吹き飛ばし、さらに多数の裂傷をつくりだした。


 俺の体は壁まで弾き飛ばされる。体が軽いのも問題か……。


 しかし、めっちゃ痛い。なんでこんな痛いんだ? あと、裂傷は小さいはずなのに、全く再生が進まない。なぜだ?


「そこから動かないこと。『断裂光フラクチャー・オプティカル』」


 追撃として、俺の足に光の斬撃が飛んでくる。俺の両足に大きな傷ができて、血が流れ出す。


 痛い。泣き出しそうなほど痛い。再生もしないし。なんで? まぁ……切断されなかっただけましか。


「みいなさん!」


 俺のところまで春奈ちゃんが来てくれた。


「よかったです、生きてますね……。意識はありますか……?」


「え、ええもちろん。ただ、足がやられちゃって動けそうもないです」


 魔法を使っての再生も試みたが、なぜだか進みが遅い。少なくても15分はかかりそうな進度である。


「魔法での再生は可能でしょうか」


「進度はとても遅いですが……」


 と、正直な言葉を継げると、春奈ちゃんは安堵の表情を浮かべた。


「でしたらそこで再生に専念していてください。私が、あれを討伐します」


「わ、わかりました」


 なんというか、悪魔に対する怒りの感情が見て取れる。


「あら、話合いは終わった? まぁ、もうそこのちっこいのは動けないでしょうから、話合いなんて意味ないわよ」


 かっちーん。誰がちっこいだ誰が! 俺が怒りのままに攻撃魔法を発動しようとするが……。


 発動しない。なぜだ。


「あら? 魔法は今発動できないわよ? 私の能力で肉体の動作、魔法の発動を封じられてるからね。ちなみに回復速度も遅くなってるわよ。つまり、あなたは私がこの剣士と戦うのを見ているしかないってこと。言ったわよね? そこから動くなって」


 俺は、どうやら自身の治療以外できない状況らしい。見てるしか、ないのか。


「らしいです。回復に集中してください。私が、倒しますから」


 春奈ちゃんは俺にそういった後、前にでて、剣を構えた。


「さ、一騎打ちと、行きましょうか」


 ミザリーは、少しうれしそうにそういった後、禍々しい光の剣を顕現させた。


 春奈ちゃんの剣とミザリーの剣がぶつかり合う。どれだけ技術が優れていても、5倍ほどステータスの開きがあってはどうにもならないようで、春奈ちゃんは力負けして弾き飛ばされた。


 しかし、さすがは春奈ちゃん空中で体勢を立て直し、綺麗に着地して見せた。壁に激突してた俺とは違うな。


「どんな力をしてるんですか」


「まぁ少なくても……あなたの五倍の力はあるわよ」


 その言葉を聞いた春奈ちゃんは冷や汗を拭う動作をする。映えるな。いや、そんなこと考えてる場合じゃないって。


「でたらめですね」


「ま、なんでもいいからかかってきなさい」


 両者、剣を構えなおす。そして、繰り広げられるのは剣技の応酬。余りにも、早い。


 押しているのは依然としてミザリーであるが、5倍のステータス差があるにしては、春奈ちゃんは善戦すぎるといっても過言ではない。


 ミザリーの剣の9割は、春奈ちゃんの剣技によって防がれている。


 春奈ちゃんのそれは圧倒的な技術によってなされている。俺が同じことをしようとしても、できないだろう。


 しかし、それでも1割は攻撃を受けている。


 だんだんと、春奈ちゃんの体には裂傷ができていく。服もところどころ切れていて、なんというか、少し煽情的な感じになってる。やべ、鼻血でそ。


 だが、このままだと春奈ちゃんは負ける。


 なんとか、なんとかならないか? 俺は魔法の構築を気合で押し進める。春奈ちゃんのために! 全力で!


「『深海の守護アビサル・ガード』!」


 体力と魔力は持っていかれたが回復と防御効果のある魔法を何とか構築して春奈ちゃんに付与することができた。


「みいなさん! ありがとうございます!」


「へぇ、私の禁制を押し切るなんて、いい精神力ね。まぁいいわ、続けましょう」


 これで、肌の傷が無くなった春奈ちゃんの格好は余計えっちなかんじになった。


 今、男じゃなくてよかったかもしれない。


「今の私は一味、違いますよ」


「いうじゃない」


 再開され、描かれる剣戟は、互角。信じられない。技術だけで40000にも上るステータス差を埋めるなんて。そんなことができるのか。


「頃合いね。『断裂光フラクチャー・オプティカル』」


「甘いですね」


 そろそろ戦いに動きが欲しかったのか、ミザリーが魔法を使用する。しかし、それは即座に消滅することとなる。


 さすが魔眼。つえぇ。


「やるじゃない。じゃあこれは避けられるかしら『混沌改変パンドラチェンジ』」


「うっ」


 ミザリーの剣が、二刀流の短剣へと変化する。それに対応が遅れた春奈ちゃんの一瞬の隙をついて、ミザリーは春奈ちゃんの胴を大きく切り裂いた。


「『深海の再生アビサル・キュア』!」


 なんとか構築を進めていた回復が間に合ったが、今のは相当危なかった。というか、お腹の辺りをきられたおかげか、へそが見えている。


 なんか、集中できない。


「助かります、みいなさん。しかし、今は自身の回復に専念してください。足が回復ししだい、撤退します」


「……了解しました」


 俺がそうして自分の回復に専念しようとしたその時、一筋の光が、ミザリーの肩を貫いた。


「は?」


「君が今回のボスかな? てっきり特殊個体とかその程度のが出てくると思ったんだけど……想像の遥か上でびっくりだよ」


 光の先に立っていたのは、日本二位にして、世界四位。


 他のSクラスから格が違うとまで称される5人のうちの1人。


 名取 連であった。

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