第19話 リベンジ

 あの後、出て来た魔物たちを二人で薙ぎ払いながら。30層まで攻略してくることができた。


 そして、ここで大きな問題が発生した。


「この気配……そこそこの相手が来ますよ」


「あいつ、ですか」


 覚えのある大きな気配が俺達に迫る。それは……。


「『抵抗強化レジスト』」


 俺は即座に状態異常に対する抵抗を高める一応水属性に分類される強化魔法を春奈ちゃんと俺自身にかける。あの日の夜、急いで開発した甲斐があった。


「感謝します! これは楽に戦えますよ!」


「前衛は頼みます!」


 曲がり角から現れた大物の正体。それはこの間俺が苦汁を飲まされたSクラス下位の魔物、バジリスク。


 あの時、俺は1人だった。しかし、今は信頼できる仲間がいる。


「任されました!」


 春奈ちゃんがバジリスクの前にでて、攻撃と視線を引き受けてくれる。もともとの抵抗となる精神のステータスが俺よりも高いので状態異常に対する耐性が俺よりも高い。


 春奈ちゃんが時間を稼いでくれている間に俺は最大火力の魔法の用意を始める。


「――冥府より来たれ、災厄の弓よ。暗く、より暗く。何者にも見通せぬ深淵の顕現。九皐の地より来る暗黒を内包せし破壊の権化。来たれ、『深淵の弓ジ・アビス』」


 長い詠唱を重ね、俺はさらにそこに『暗黒の矢』を装填する。


「またでたらめな魔法を……さすがですね」


「撃ちますよ!!」


 俺が宣言すると同時に、春奈ちゃんがバジリスクの牙をはじき、のけぞらせて全力でこちらに退避してきた。


 なんでそんな理想的な動きができるのか疑問に思いながら、俺は暗黒の矢を射出した。


 同時、暗黒の矢が命中したであろうバジリスクの部位は消し飛び、そこを起点としてその体は黒く変色し、崩れ落ちた。


「闇魔法、やはり地味ですね」


 なんというか、火属性や雷属性に比べて華がない。


「いやいや、あんな魔法だれも受けたくないレベルで凶悪ですよ」


「いや、まぁ受けたくはないですけどね」


 直接魂に攻撃されるような魔法だからな。だれも受けたくはないだろう。


 おっとバジリスクに集中しすぎてコメントを読んでなかった。


:は?

:は?

:バジリスクを一撃かよ

:下位とは言えSクラスを一撃かぁ

:本当にそれはやばい

ミク:¥50000 闇系魔法が一番恐ろしいってほんとなんだね……


 なんか、すっごいことになってるなぁ。


 自分の配信なのに他人事のような感想しか浮かんでこない。まぁ、魔法一発撃っただけだし?


◇◇◇


 とある事務室で、心寧はPCに向かい事務作業をしながら自分の弟……ではなく妹の配信を眺めていた。その妹が特殊な魔法でバジリスクを倒したところを見て、事務室にいたもう一人の人物に質問を投げかける。


「どう思う? 連君」


 もう一人の人物、それは名取 連。日本で2番目に強い、光属性使いの頂点。


「んー司さんの魔法には劣るんじゃないかなぁ~」


「いや、誰もあの人と比べろなんて言ってないから」


 司さん、それは世界最強の男。闇属性を扱い、数多の伝説を残してきた。


「心寧こそ、全力パンチすればあの魔法ぐらい目じゃない威力だせるでしょ」


「まぁ、確かにそうだけどさ~。そういう話じゃなくて、あの子Sクラスなれるとおもう?」


 探索者のクラス分けの中で最も高いSクラス。日本には26人しかいない、頂である。


「いや、それは多分余裕でしょ?」


「そっか、連君がそういうならきっといけるね」


 日本2位、世界4位からのお墨付き。なによりも大きな信頼となる。


「別に僕が言ったから絶対そうなるってわけじゃないけどね?」


「でも連君と紅さんは、他のSクラスとは別格でしょ?」


 紅 司と名取 連はSクラスの中でも別格の強さである。日本探索者協会では、Sクラスのさらに上、SSSクラス、SSクラスの創設についての議論があるほどだ。


「まぁ否定はしないけどさ? でも僕は人を見る目無い方だからさ」


「ん? 私を選んで置いてそんなこという?」


 実はこの二人、交際中なのである。日本2位と13位の交際。間違いなく、日本1のビッグカップルである。


「いや、ごめん、心寧を下げるつもりはなかった。君は美人だし、気を使える部分もあって素敵だよ」


「うん、わかってるならよし」


 とんでもない怪力を持つ彼女の機嫌を損ねずに済んだ連は少しだけ、安堵の表情を見せるのであった。

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