第13話 【超人】
あの後、魔物を数体倒し、22層への縦穴を発見したところで配信を終わりとした。
疲れた~。主にミクさんのせいで。あの人なんなんだマジで。一回の配信でどれだけお金使ってんだ。
最低でも100万を超えていることだけは覚えてるけど。
……はぁ。とりあえず今日の配信も終わったことだし家に帰るとしよう。姉貴にこのことを報告したらなんていうかな。
俺がダンジョンの中をとぼとぼ歩いていると、向かいから魔物が歩いてきた。あれ、そっち俺がさっき来た道なんだけどな。丁度湧いたか。
その蛇の魔物と眼があったとたん、体に悪寒が走った。
俺はすぐにあの蛇の視覚から外れるように、洞窟の岩肌の裏に隠れる。
左手に違和感を感じ、左手を見てみると、指先が石化していた。
マジかよ。なんでこんなところで……。
Sクラスの魔物と会わなきゃいけないんだ。
……あれはSクラス下位の魔物、バジリスク。姉貴が最も苦手とする状態異常てんこ盛りの魔物だ。邪眼によって長く見つめられれば体が石化していき、もしその牙に噛まれるようなことがあれば猛毒で死に至る。
「『
幸い俺は全属性の魔法が使える関係で状態異常を回復することはたやすい。しかし、それを抜きにしても相手はSクラス。平均ステータスも1万を超えている。俺の防御ステータスでは間違いなく一挙一動で致命傷になりえるだろう。
しかし、なぜこんなところにバジリスクがいるんだ? 確かに21層から40層は階層の壁がなく、魔物も階層間を移動できるが、それにしたって本来の生息域からここまで上がってくるのは異常だ。
俺が石化を回復しきったころ、バジリスクはまるで余裕だとでもいうかのようにゆっくりとこちらに近付いてきていた。
今のうちに姉貴に救援要請だしておこう。
さて、救援要請はした。後は時間稼ぎだ。この際、服がどうだとか言ってられない。
金は命には代えられないからな。
俺は今まで服を気にして使わなかったとある能力を使用する。背中に感覚を集中させると、確かにそれは現れた。
……翼だ。出してみてわかった。この翼は生えているというより魔力で構成しているというのに近い。
だからか服に穴は開かなかった。助かる。まぁどうでもいい話だが。
俺は洞窟の天井ギリギリまで飛び上がり、魔法発動の用意をする。
「『
弓を構え、天井ギリギリ、バジリスクの背の上まで飛ぶ。
ちっ……一瞬見られた。感覚的に左足の差し先が少し石化してる。
しかしそんなもの、構ってられない。
「『
魔法弓を引いて。そしてバジリスクの後頭部に向ける。
「『
俺が放った風属性の矢は後頭部への命中は避けられたものの、バジリスクの胴体の一部をはじき飛ばした。しかし、大きなダメージが入ったかといわれると微妙だ。
その時、バジリスクの頭がこっちを向いた。
俺はもう一度視界に入れられる前に岩肌に身を隠す。
俺の最大火力の技でも一部にダメージ与えただけか……。
きついなぁ。
とりあえず左足を治して、もう一度、バジリスクの上を飛ぶ。これを繰り返せば何とか……。
と、そんな考えをしていたその時、バジリスクの尾が、俺の体を強打した。
「あぅ……!?」
吹き飛ばされ、俺の体はダンジョンの壁に強く衝突した。まず襲ってきた感覚は血が一気に抜けて行く感覚。
その後すぐに体中に痛みが走る。まずい、意識が……朦朧と……。
魔力には、まだ、余裕がある。回復、しないと。俺は自身に回復魔法をかけようとして気づいた。右手が石化してる。左手も。顔の一部も。体がどんどん動かなくなる。
ああ、なるほど。
ここまでか……。
「なーに諦めてんの!」
俺の体に何かが水のようなものが欠けられた。すると、失われていた体の感覚が一気に戻る。頭も少し、はっきりした。すぐさま出血した分の血を補充、体に回復魔法をかける。
「お姉ちゃん! 速かったね」
「私を誰だと思ってるのさ。日本のSクラス13位の長麦 心寧さんだぞ? ……さて、今からアイツ、やっちゃうから。巻き込まれないように気を付けなよ!」
姉貴はバジリスクの目の前に一瞬で駆けていくと、その腕を振りかぶった。
そしてバジリスクの口の下をぶん殴った。
その殴打の一撃でバジリスクの巨大な体は先ほどの俺と同じように吹き飛び、壁に激突した。
バジリスクが吹き飛ぶと同時に、俺の方まで風圧が来る。
油断していると体が飛びそうなほどの風。ステータスは大分近くなったと思ってはいたが。
やはり、姉貴と俺とでは、格が違う。
「もう一発やっとくか~」
姉貴はその場で拳を上げ、バジリスクの方向を向かって空を殴った。
その瞬間、衝撃波が発生し、壁に叩きつけられた状態のバジリスクを圧殺した。
俺の最高火力でも少しのダメージを与えただけだったのに。
たったの2発で。それもおそらく全然本気じゃない。知ってはいたが、Sクラスの壁は、遠いなぁ。
「助かった。ありがとう、お姉ちゃん」
「どういたしまして。さぁ、帰ろうか」
差し出された姉貴の手をとって、俺は帰路についた。
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