第6話 外交的虚言 Les mensonges diplomatiques.

 人がなぜ嘘をつくのか、という問題は、社会学や心理学で考察され、倫理学での問題でもある。外交倫理学では、外交の場における嘘、外交的虚言が研究の対象になる。

 国と国との外交における条約は、もちろん順守されるべきものだが、現実問題としては、簡単に破棄されてしまう場合も多い。もちろん、意図的に悪意から破棄される場合もあるが、そうでなくても順守できなくなる事例もある。例えば、民主主義的な国家であっても、政権交代が起き、前政権が締結した条約を現政権が守らない、といった場合である。条約を締結した相手国にとっては、嘘をつかれたことになり、外交的虚言となってしまう。

 外交倫理学では、個別の外交的虚言が、倫理面からなぜいけないのかとともに、なぜ発生してしまったのか、その原因と背景が分類され、分析、検討される。それは国際関係における、あるいは国内の、政治的な、軍事的な、あるいは経済的な原因があるはずだ。また、その外交的虚言が発生した結果、どのような影響があったのかも分類、分析、検討の対象になる。

 外交的虚言の結果、国家間に不信感が芽生え、さらには大きな紛争が生じる場合もある。一例を挙げよう。ロシアのプーチン大統領の主張では、ベルリンの壁崩壊の1989年当時、NATOはヨーロッパの東側への拡大はしないとの口約束が、あるヨーロッパの首脳とされたそうである。これがもし事実であったとすれば、ヨーロッパの現状から、これが外交的虚言となったことは明らかである。近年になると、ロシアはウクライナのNATO加盟と核兵器の配備を恐れ、これはロシアにとってのキューバ危機であるとして、ウクライナへの侵略を始めてしまう。もちろん他国を侵略することは許されないことだが、外交的虚言の結果でもある。

 もしロシア政府のブレーンに外交倫理学の専門家がいたとすれば、ウクライナへの侵略は無かったかもしれない。

 政治学に国際倫理学という学問の分野があり、また外交道徳をいう言葉も存在するようである。しかしながら、こういったものは、うまく機能していないのが実情のようである。エレガンが外交倫理学を提唱する所以である。

 

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