第10話 迫られた
「勿体無いお言葉です。俺としましても、王女殿下とお近づきになれて嬉しいと素直に思います」
「ははは! 礼儀の正しさも君の美徳だが、そう硬くなられるのも寂しいものだ」
「す、すいません……」
「簡単に謝るのも、ね。これからはそういうのは無しにして欲しいな」
(これから?)
何の事かピンとこないが、そんな俺を余所に王女は話を続ける。
「それでだが、この間のパーティー。あくまでも個人的に開くからと私の参加を拒否されてね。しかし、どうもキナ臭いものを感じて内緒で参加していたんだ。少し髪型を変えて礼服も弟が見慣れないものに変えただけで怪しまれないのだから、内心、思わず笑ってしまったよ。そこでまた君と出会ったんだが……まさか呼ばれているとは思わなかったな」
「あれに関しては俺も、まさか呼ばれるとは」
「だろうね。……それで、パーティーについて色々と調べる内にとんでもない事が判明してね」
とんでもない、とまで言ってのけるのだから相当な事なんだろう。
ここまで来ると先が気になるな。
「あのパーティーに関する全費用、私は当初自分の懐から出したものと思っていたのだが……まさかの国庫から無断で金銭を持ち出して開いていたんだ。これは流石に私の元で止めておける話では無いと思い、仕事から戻って来た陛下と兄上にお話ししたのさ。案の定、お二人共に大激怒。私用のパーティーに国のお金を使ったのだから当然だね」
「そんな事があったんですね……。成程、王子の追放に納得がいきました」
いかな王子とはいえ、確かにそこまでやれば許されはしないだろう。寧ろ、実質的な王室からの永久追放で済んだ分マシと言える。
しかし、その事を伝えるだけなら手紙でよかったのでは?
いや、王女はそれほどに誠実だという事なのだろう。エレテレテを追っ払ってくれたし、来てくれた事に感謝しかない。
「ありがとうございました。俺一人ではここまで上手く追い払えなかったと思います」
「何、気にすることは無い。私とて黒服君達の助けあっての事だしね。……ああそれと、今日この屋敷を訪れたのは他に理由があるんだ。頼み事を一つ、ね」
他の理由? 俺には心当たりが無いが、どのような頼み事でも喜んで聞き入れる。
「何なりと言って下さい。殿下に本当に助けて貰ってばかりですから、出来る限りの事をしたいんです」
「そうかい? いや、その言葉を聞いてこちらも嬉しい限りだよ。では早速……」
そう言うと、王女は突然俺の前で地面に片膝を立てて跪くと俺の手を両の手で包み込むように握った。
俺は突然の事に頭の中が真っ白になり、一瞬呼吸さえ忘れた程だった。
「貴方様の伴侶と成りたく、参上致しました」
「……ッ?!」
う、嘘だろ?! いや、冗談ではないらしい。それは、つまり……。
「貴方様のその愛らしさも、いじらしい程の誠実さも、私の心を捉えて離さない。こんな気持ちは生まれて初めてなのです」
「そ、そんな殿下!? 御戯れも程々になさって下さい!」
「戯れ? それは一体どういう意味か、教えて頂けますかな?」
悪戯な笑みを浮かべながら俺の手を弄ぶように触る王女。
だがそんな事よりも俺は心臓の鼓動が早くなり、まともに思考が出来ていなかった。
「お、俺のような男が殿下の伴侶であるなどと……。お、おこがましいという事です!」
「成程、つまり貴方様は私など愛する対象では無い。そういう事で?」
「い、いえ! そういう訳では無く」
「では無く? ……ふふ。ええ、貴方様のお気持は理解致しました。では、それから先の言葉は二人の仲がさらに深まってから、改めて」
心臓が痛い程に激しくなった。本当に苦しいが……同時にとても嬉しかったのは、両想いに成れたからだろうか?
途端、王女の顔が近づいて来て反射的に目を閉じてしまった。こ、これはもしかして……。
そう思ったが、いつまで経っても思い描いた瞬間は訪れない。もしかして勘違いをしてしまったか? は、恥ずかしい。
おそらく顔が真っ赤になっているだろう、恥ずかしくて目も開けられない。
すると、王女の微かな笑い声が俺の耳に程近い場所から聞こえてきて……え?
王女の吐息が俺の耳を刺激しながら、言葉を鼓膜へと送り込んできた。
「だから――そういう君が堪らなく好きなのさ」
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最愛の婚約者に捨てられた貧乏令息はいかにして新たな恋を勝ち得たのか? こまの ととと @nanashio
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