第16話 模擬戦
貴族達は今までの試合とは違ってリアム達の余興が始まるのをソワソワと待っていた。
そして、ついに開始の掛け声と共に模擬戦が始まった。
始まりの合図と共に動き出したのはリリーナ。
スキルを使っていないのに10歳とは思えないほどの速さでリアムの元まで駆けだした。そして間髪入れずに木剣を振り下ろした。
周りの誰もが決まったと思った瞬間、そこにはリアムの姿はなかった。
そして、リアムの姿を見た誰もが驚愕した。
気付けばリリーナの背後から首元に木剣を当てているリアムの姿があったからだ。
審判の「それまで」の掛け声と共に周囲がざわつき始めた。
もちろんリリーナ自身も驚いているが納得していないようだ。
「リアム、次はスキルも使って全力で行くので是非もう一度だけ戦ってくれないか?」
リリーナの言葉に他の子供達も面白がって囃し立てる。
しかし、リアムはそんなことをお構いなしにリリーナに木剣で指し示し発言した。
「君は魔物や戦争の時にもそんな戯言を言うのかい?」
思わずリリーナは唇を噛みしめる。ほんのり唇から血がでているのがわかる。
そんなリリーナを見たソフィー王女が口にした。
「リアム殿、どうか私ももう一度見てみたいのでお願いできませんか?私からも褒美を用意致しますので」
もちろん王女に言われれば断ることはできない。
「分かりました…。」
そして、リリーナもソフィー王女に一礼し、再度模擬戦が行われた。
リリーナの闘志はメラメラと燃え上がっていた。
もちろん奢りがあったのは認めるが、まさか自分が子供のようにあしらわれるとは思っていなかった。次こそはスキルを使って全力で行くと決めた。
再度、審判の開始の合図とともに模擬戦が行われた。
リリーナに奢りはない。むしろ自分が挑戦者の気持ちで全力で行った。
身体能力スキルと剣術スキルを使った会心の一撃をリアムに放つために全力で駆け抜けた。
周囲の子供にはリリーナの姿がギリギリ見えるかどうかという程の目にもとまらぬ速さだ。
そしてリアムの目の前にきたリリーナは先程の上段からの一撃が遊びだったかのように、今回はもの凄い速さでリアムに一刀して見せた。
その一振りの風を切る音が周囲に聞こえる程の速さの一撃は先程と同じように空を切った。
地面に木剣が当たった瞬間、リリーナは恐る恐る後ろを振り返った。
そこには先程と同じように首元に木剣を刺したリアムがいた。
リリーナは両手を上げ「参りました」と降参した。
その瞬間、割れんばかりの拍手と歓声が鳴り響いた。
「おぉ~~~。」
「すげぇ~~~~。」
「あの戦闘狂が手も足もでないだと」
「あいつは何者だ」
「きゃ~、カッコイイ~~。」
多種多様の歓声の中、とある場所でも騒ぎになっていた。
騎士団長を呼びよせた国王陛下は口にした。
「あやつをどう見る?」
「正直言えばわかりません。未だ全力を出していないと思われますので。ただ一言いえば、子供の領域を遥かに超えております」
「そうか。他に気付いたことはあるか?」
「スキルや魔法を使わずにあれ程の技量があるので、スキルや魔法構成などが気になるところです。」
「そうか…。ま、まて、今スキルを使わずにと申したか?」
「はい。信じられませんが事実です。」
「クックック、これほど愉快な余興はないの~」
陛下は悪い笑みをしながら褒美を考えだした。
大臣に言付けを頼み、余興は終わりを告げダンスパーティへと切り替わっていった。
音楽が鳴り響くダンスホールで相変わらず食事を堪能している者がいた。
そんな場違いな者の前に悔しそうにしながら隣りで一緒に食事をする者が現れた。
「リアムは強いな。まさかこれほどまでとは思わなかった」
「まあね。驚いただろう」
「ああ、強さの底が見えない程に悔しい気持ちだ」
「その気持ちがあればリリーナはもっと強くなれるさ」
「同年代で剣だけで負けたのは初めてだよ。レイでさえ魔法込みでないと私に勝てないからな」
「現時点の強さなど関係ないさ。たかだか発展途上の子供の強さなどたかがしれている。そんな周囲の言葉に踊らされては本当の強さは手に入らないと思うけどな」
「そ、そうだな。何もかも完敗だ」
その後ろで神童と呼ばれた男でさえも今の言葉の重みを痛感し、自分が如何に井の中の蛙だったのかを感じ恥じた。そして心の中で葛藤していた。
「何が神童だ、何が天才だ。同年代で今まで自分よりも強い奴を見なかっただけで驕っていた昔の自分を殴ってやりてぇぜ」
本当の天才がこの日から努力をすることで国の未来が変わることを今は誰も知らない。
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