「指でぬぐったパソコンの埃で きみの涙を思い出す 親指のささくれに滲みたこと」
まず、この短歌は57577のリズムではないことが印象的です。リズムを崩すことがその歌にとって悪くはたらいてしまうこともありますが、この歌では有効にはたらいているように感じます。57577のリズムに対して、全体的に文字数が多くなっているため、この歌を読むときわたしたちは自然と早口のようなリズムになってしまうと思うのですが、そのことが、「思い出す」ことが雪崩のように発生してしまったイメージを呼んできます。一字空けの使い方も絶妙で、ときどき一字空けによる断絶が入ることで、イメージが膨らんでいく余地を読者側に与えてくれています。(短歌では一字空けには全角スペースを使うことが一般的ですが、この歌では半角スペース空けでした。そのため厳密には一字空けではないのかもしれませんが、ここでは一字空けとして読みました。)「ささくれに滲みた」という体感から、まるで今は自分が泣いているような気分にもさせられます。
(「短歌、わたしたちだけの踊り方」4選/文=初谷むい)