35.ここは?

ある日、オフィーリアは自分の侍女のマリーに髪を整えてもらっていた時、鏡に映った自分の顔が歪んだように見えた。一瞬だったので気のせいだと思った次の瞬間、ふーっと気が遠くなった。そして気が付いた時はベッドの横になっていた。


(マリーが寝かせてくれたのね・・・)


そう思い、ふぅと溜息を付いた。ここ最近、あまりよく眠れていなかった。学院の卒業まで残り一ヶ月というのに、自分の婚約者との関係が悪化の一途を辿っている。卒業後はあまり日を開けないうちに婚姻することが決まっている。それなのにこの状況はいかがなものか。こんな状態で結婚生活は上手くいくのだろうか。

そんなことを考えていると気分が沈み、不安から眠れなくなってしまったのだ。きっとそのせいで急な眩暈と睡魔に襲われたのだろう。


(思いっきり寝てしまったのかしら? 妙に頭がすっきりしているわ)


横になりながらパチパチと瞬きする。次の瞬間、さっきまで自分が登校前の準備をしていたことを思い出した。


「嫌だわ! 遅刻?!」


ガバッと飛び起きて、ベッドから飛び出そうとしたが、視界に飛び込んできた白いカーテンに驚いて固まってしまった。


ゆっくり周りを見ると、自分が寝ているベッドの周りは白いカーテンに囲われている。

学院の寮のベッドは自邸のベッドのように天蓋は無い。その自邸のベッドの天蓋だって白ではなくてワインレッド。さらにはこんなペラッペラな布ではなくビロードだ。


「???」


オフィーリアは訳が分からず首を傾げた。ぐるりと周りの白いカーテンを見回した後、自分の寝ているベッドを見る。見たことのないほど簡素なベッド。確実に自分のベッドではない。


「まだ夢をみているのかしら・・・?」


そんな独り言を呟きながら、ベッドに降りようと床を見た。見たことのない白い靴がきちんと揃えて置いてある。これも自分の靴ではない。

しかし、周りを見てもこれでも靴が見当たらないのでしかたなくそれを履いた。


ゆっくりと立ち上がり、恐る恐るカーテンを開けてみた。


そこには、同じようなベッドの上で、身を半分起こしてボーゼンとした顔でこちらを見ている男子がいた。



☆彡



「まあ、申し訳ございません! 人がいるとは思わずに勝手に開けてしまって」


オフィーリアは男に向かって慌てて頭を下げた。年のほどは自分と同じくらいだろうか?


「い、いや・・・。大丈夫です・・・」


男はオフィーリアを見ながらも、心ここにあらずと言った顔で答えた。


「あの、失礼ですが、ここはどこでしょうか? わたくし、眩暈を起こして倒れてしまったようで、気が付いたらここにいたのですが、どこだか分からないのです」


オフィーリアは遠い目で自分を見ている男に尋ねた。男はオフィーリアの言葉に驚いたように目を丸めた。


「本当ですか・・・? 実は俺もそうなんです。俺も眩暈がしたと思ったら意識を失って気が付いたらここに・・・」


男はそう言うと両手で頭を抱えて俯いてしまった。


「まあ、そうなのですか? どうしましょう・・・。一体どうなっているのかしら・・・」


オフィーリアは混乱している男を見て益々不安が募った。周りを見渡す。カーテンに囲まれた空間。オフィーリアが開いたカーテンは男が寝ていたベッドと自分が寝ていたベッドを仕切っていたものだった。並んだ二つのベッドをカーテンが囲む不思議な空間。まるでテントの中のようだ。

オフィーリアは意を決すると、周りのカーテンを一気に開けた。


シャーっとカーテンが流れる音に男も顔を上げた。


「「・・・?!」」


目の前に飛び込んできた光景に二人は絶句してしまった。


そこは見たことのない部屋だった。白を基調にした殺風景で無機質な部屋。どう見ても木製ではない机と椅子、そして棚がある。その棚の中には医療機器のようなものが並んでいる。


「医務室か・・・?」


男は小さく呟いた。その言葉に答えるかのようにオフィーリアは首を傾げた。

二人してゆっくり周りを見渡す。視界に窓が入った時、二人は息を呑んだ。


「「!?」」


男はベッドから飛び出し、窓辺に駆け寄った。オフィーリアも追いかけるように男の隣に並び一緒に窓の外の景色を見た。


「ここは・・・一体・・・?」


二人して窓の外の景色を一心に見つめた。

ここにも見たことのない景色が広がっていた。高さや大きさがバラバラだが、四角く大きな建造物が幾つも見える。その間は小さい家で埋め尽くされており、そこかしこに木々の緑が散らばっている。


明らかに自分たちの国ではない。


「ここはどこだ?」

「ここはどこなの?」


二人は同時に呟き、外の景色を呆然と眺めた。

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