12.一変
三時限目が始まる教室。
セオドアとオフィーリアは一緒に教室へ入ってきた。しかもその手は繋がれている。まあ正確にはセオドアがオフィーリアの左手首を掴んでいる状態だが。
二人を見た生徒たちは皆一様に息を呑んでいる。
てっきりセオドアが連れている生徒はオリビアと思い込んでいたからだ。
「山・・・オフィーリア、どこに座る?」
にっこりと微笑んでオフィーリアの顔を覗くセオドア。
「・・・っ!」
「あー、さっき一番後ろの隅に座ってたよな。そこにしようぜ」
引きつって何も答えられない椿の返事など待たず、後ろの席に引きずっていく。
二人仲良く並んで腰かけた。
周りの生徒はポカンと二人を見ている。
(あああっ! 居たたまれない!)
椿は顔を伏せた。
ここまでクラス中がポカンとするのは二人の仲が相当拗れていた証拠、そして、それが皆に周知されていた証拠だ。オフィーリアガールズがガヤガヤとオリビアにいちゃもん付けていたが、既に焼け石に水状態だったのだ。
つまり、オリビアとの仲も周知の事実だったということとも言えるのだ。
(それなのに一瞬にしてこの変化!)
これは明らかにおかしい!
オフィーリアに疑念を抱かれるより、セオドアの素行が疑われてしまうのでは?
ただでさえ、婚約者がいながら他の女に現を抜かしていたのは事実で、それを良く思っていない子女は何もオフィーリアガールズだけじゃない。
そこに持ってきてその女をバッサリ捨てるなんて。
いや、それとも・・・。
オリビアの為に、嫌々オフィーリアに媚を売っているという構図にもなるか?
そうなれば問題ないのでは? オフィーリアが悪者になるだけだし!
チラリと柳ことセオドアを見ると、裏表などない爽やかな顔で教科書をパラパラとめくっている。
「なあ、オフィーリア、ここってさぁ」
教科書を広げ、指を差しながら親し気にオフィーリアに身を寄せた。
男慣れしていない椿はビクッと身が引き締まる。
二人の仲を相変わらずボーっと見ている男子生徒らとセオドアの目が合った。
「あぁ? 何見てんだよ?」
「ひっ!」
ドスの利いた柳の低い声に、生徒らは小さい悲鳴を上げ、慌てて前を向いた。
柳は呆れたように軽く溜息を付くと椿の方を見た。
椿は恐怖でカチンと固まっていた。
〔
必死に謝るセオドアの姿は媚びている感じは見て取れない。嫌々感皆無。
そんな二人の仲の良い様子をオリビアは教室の入り口から寂しそうに見つめていた。
☆彡
講義が終わった途端、オフィーリアガールズが二人の元に集まってきた。
「オフィーリア様! セオドア様!」
「やはりお二人は仲がよろしいんですわね!」
「二時限目、お二人ともいらっしゃらなかったけれど、ご一緒だったの?」
ガールズのパワーに椿はオロオロする。
「え、え、えっとですね・・・そ、その・・・」
「ああ、俺達ずっと一緒だったよ」
狼狽える椿の代わりに柳が答えた。
「あのさ、今日、オフィーリアは体調が良くないから、そっとしておいてくれないか? 頼むよ」
柳がにっこりと微笑みながらガールズに話しかけた。
端正な顔立ちのセオドアの笑顔は破壊力満点だ。
いつもならこの美しい顔がキリリと引き締まり、オリビアを悪く言う彼女たちにピシャリと物を申すところだ。その度にシュンと小さくなっていたのだが、なんと、今回はその顔が自分たちに優しくにっこりと笑いかけているではないか。
「はい・・・♡」
ガールズ三人はあっさりとKOされた。
「じゃあ、昼飯行こうぜ、オフィーリア」
この学院は一講義の時間が長いので、三時限目が終わったら次はランチタイムだ。
柳は椿の返事を待たずに手を取ると、さっさと教室から出て行ってしまった。
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