11.悲劇のヒロイン

この世界の説明が長引いてしまい、二人して二時限目をサボってしまった。


「授業をサボってしまいましたね。申し訳ありません、柳君」


二人並びながら校舎に戻る。


「何で山田が謝るんだよ。休み時間内だけで終わる話じゃなかったろ」


「そうですが・・・」


「それに俺はサボるの慣れてるし、セオドアはどうか知らねーけど」


ニッと笑う柳。その笑顔に椿もフッと笑みが浮かぶ。


「多分、セオドア様もオフィーリアもサボることはないですよ。優等生という設定なので」


「うわぁ、優等生かぁ~、マジでやりづれ~」


柳は後頭部をガシガシ掻いた。


「山田はもっとやりづらいです・・・。気の強い悪役令嬢ですよ? もう消えてしまいたいです・・・」


椿はトホホと肩を落とす。

そんな風に話しながら歩いているところに、校舎の影から一人の生徒が飛び出して来た。


「セオドア! どこに居たの?! 授業も出ないで!」


オリビアだった。ハアハアと肩で息をしている。

しかし、セオドアの隣にいるオフィーリアに気が付いてハッとした顔をした。


「オフィーリア様・・・」


恐怖におびえたような顔をしてオフィーリアを見ている。


「セオドア・・・、オフィーリア様と一緒にいたのね・・・?」


「は? ああ、まあな」


セオドアこと柳は不安そうに怯えたオリビアに答えると、チラリと隣の山田・・・いや、オフィーリアを見た。

オフィーリアは青い顔でアワアワと狼狽えている。


〔おい、山田、大丈夫か?〕


小声で声を掛けられ、椿はハッと我に返った。


〔す、すいません! 動揺してしまいましたっ〕


山田はスチャっと掛けてもいない眼鏡を掛け直す仕草をする。


「あの、ごめんなさい・・・。私、二人のお邪魔をしてしまったかしら・・・?」


そんな二人を見て、オリビアは申し訳なさそうに俯いた。


「まー、そうだな、邪魔かも」


(柳君~~~~~っ?!!)


サラッと悪びれず答える柳に椿は飛び上がった。


〔や、や、柳君っ! 違いますっ、その回答! ここは『邪魔だなんて、まさか!』って優しく微笑んでオリビアの肩を抱かねば!〕


〔えー、無理だって、そんなの〕


〔見てくださいっ! ヒロインさん、泣きそうじゃないですか!〕


二人してヒソヒソ話しながらヒロインに振り返る。

オリビアは真っ青な顔をして今にも泣きそうだ。


「セオドア・・・、私・・・何かしたかしら・・・?」


懇願するようにセオドアを見た。うっすらと瞳に涙が浮かんでいる。


「はあ~・・・」


柳はクシャクシャと後頭部を掻いた。


「別に何もしてねーよ。ただ、今の俺は記憶が無いって言っただろ? だから、情報収集してたんだよ。オフィーリアからいろいろ話を聞いてたんだ」


「オフィーリア様から・・・?」


「そうだよ、な? オフィーリア?」


親し気に椿の顔を覗く。その態度に椿は慌てふためいた。


「い、いや、その、私は・・・」


ブンブンと両手を振り何とか否定のポーズを取るが、ヒロインはオフィーリアなんて見ていないようだ。


「どうして、オフィーリア様から・・・?」


「どうしてって、オフィーリアは俺の婚約者だし。俺のこと色々知ってるはずだしな」


「私だってセオドアのことよく知ってるわっ!!」


「あー、そう言えば幼馴染って言ってたよな、あんた」


(『あんた』って~! 何を言ってんですかぁ! 柳君~~!)


ひぃ~~っとムンクの叫びのようになる椿。


「まあ、あんたからも後で情報提供してもらうよ。今はオフィーリアから話を聞いてるところなんだ、邪魔すんな。行こうぜ、オフィーリア」


柳はガシッと椿の左手首を掴むと引きずるように歩き出した。平然とオリビアの横を素通りしていく。


(アウトです! アウトですよ、柳君~~!)


椿は心の中で叫ぶ。ズルズルと引きずられながらオリビアに振り返る。


オリビアはこちらを振り返ることなく、ぼーっと佇んだままだ。

その背中には哀愁が漂っている。そしてそのまま崩れるように膝を付いた。


(ああ~~、オリビア様~~)


罪悪感が込み上げ、つい、空いている手をオリビアの方へ伸ばした。

そんな椿に気が付き、柳も後ろを振り向いた。


地面に崩れるように座り込み、泣き崩れているヒロインがいる。


「なーんか、悲劇のヒロインぶってる感じがするな」


「ぶってるんじゃなくて、ヒロインなんですよ~~。今のは酷いです、柳君!」


「確かに言い過ぎたか」


「そうですよ! 本来あの状況になっているのはオフィーリアのはずなんです! オフィーリアがあのように泣き崩れていないといけないんですよ!」


「俺的にはそっちの方が間違ってる気がするんだけど」


「ごめんなさい~~、オリビア様~~、山田が不甲斐ないせいで~~」


「だから山田が謝るなって!」


柳は椿を引きずったまま校舎に入っていった。

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