10.仲良くしよう

「まあ、よく分かんないけど分かったよ、こっちの世界のこと。ありがとな、山田」


分かったの? 分からなかったの? どっち?

突っ込みたいところをグッと堪え、


「いえいえ、どういたしまして・・・。こちらこそご清聴ありがとうございました」


椿はペコリと頭を下げた。


「でも、とにかく今の俺には山田しか友達いねーから、これからよろしくな。クラスも同じで助かったよ」


柳はニカッと笑うと椿に右手を差し出した。


「えっと・・・?」


「握手握手。仲良くしようぜ、山田」


「はあ・・・」


流された形で椿も手を差し出す。差し出された手を柳はギュッと握るとブンブン上下に振った。


(ん・・・? でも・・・)


「ちょ、ちょっと待ってください、柳君! 違いますよ、違います! 山田の話聞いてましたか?」


「聞いてたけど?」


「柳君、あなた今、セオドア様なのですよ? 山田はオフィーリア。二人は現在犬猿の仲状態なんですよ! 一か月後にあなたから私ことオフィーリアは断罪されるんです!」


「うん」


「だから、今、あなたと山田は仲良くできないんですよ」


「嫌だよ。だって、それだと俺が困るし」


「嫌と言われましても・・・」


予想外の返答に椿は困惑した。


「別に断罪しなきゃいいんじゃね?」


「それじゃあ物語通りにならないです!」


「いいんじゃね? 別に物語通りにならなくたって。不幸になるだけじゃん」


「いやいやいや! この世界で生き続けるなら断罪されないと! 山田は修道院へ行きたいんです!」


「変わりもんだな、山田って。貴族の金持ち生活を謳歌すればいいじゃん」


ニコニコとセオドアの顔で笑う柳。

陽キャラという生き物にはネガティブという思考は存在しないのだろうか?


「で、でも、それではセオドア様はオリビア様と結ばれないですよ?」


「いいんじゃねーの? 別に。だってオフィーリアが婚約者なんだし、そっちとくっつく方が筋通ってるじゃん。そうだ!」


柳は指を鳴らした。


「そうだよ、俺達婚約者同士なんだろ? このまま結婚しようぜ!」


「はいいいい!?」


椿は飛び上がった。


「だって俺、オリビアってよく知らねーもん」


柳は肩を竦めてシレっと答える。


「山田のこともよく知らないですよね?!」


「でも、山田は同じクラスメイトじゃん」


「オリビアも同じクラスメイトですよっ!」


「それじゃあ、オフィーリアも同じクラスメイトじゃん」


「オフィーリアは悪役令嬢ですよ?! ヒロインを虐めていた悪い子ですよ?!」


「でも今となっちゃ中身は山田で別人。同じ世界の人間ってだけで全然信頼できるし」


「オリビアが信頼できないって言うんですか? ヒロインですよ、ヒロイン!」


椿は信じられないものを見る目つきで柳を見た。


「ヒロインだからって何で盲目的に信頼できるんだよ? ってか、俺、逆にあいつ信頼できない気がすんだけど。だって頭ピンクだぜ?」


柳は自分の髪の毛を摘まんで見せた。


「まあ、べつにカラーすんのはいいけどさ、ピンクなぁ・・・。俺的にはちょっと・・・」


「ヒロインの髪はピンクって相場が決まってるんですよ。まあ、絶対ではないですが」


「それに馴れ馴れしい感じがどうも・・・」


「だって恋人同士と言っても過言ではない時期なんです、今頃は。馴れ馴れしくて当たり前ですよ!」


「でも、なんか違和感があんだよなぁ・・・」


柳はどうしても納得できないように顎を摩りながら呟く。


「ま、とにかくさ、結婚まではしないとしても今は仲良くしてくれよ。頼むよ、この世界のこと知ってる山田が頼りなんだからさ」


柳は顔の前で両手をすり合わせた。

懇願するポーズを見せられ、椿は断れない。なんせ、この世界に引きずり込んでしまったのは自分なのだ。私を助けようとして一緒に落ちて死んでしまったわけだ。


そう思ったら改めて戦慄が走る。

イエスしか回答できない。


「そうでした・・・。この世界に来てしまったのは私のせいですものね」


そうだ。これ以上柳に迷惑はかけられない。

椿は拳をグッと握った。


「山田がしっかりサポートさせて頂きます」


(ただし、断罪方向で)


何とか上手くできないものか?

柳的にも自分的にも調度いい落としどころを見つけなければ・・・。


前途多難な未来に不安しかない椿であった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る