13.交流
「柳君、すごいです・・・。全然動揺してないですね」
学院の食堂でランチをしながら椿は柳に話しかけた。
「そんなことないよ。山田に会うまでは動揺しまくりだったぜ」
「本当ですか・・・?」
「うん、マジで。でももう山田が一緒だから安心だし」
(安心されましても・・・)
この世界のことをほとんど知らない柳を一人にするのは確かに酷だし、自分のせいでこの世界に来てしまったわけだから責任は取らなければいけない。と強く思うものの、このままでは物語通りに進まない。
「柳君の事はしっかりサポートしますから、オリビア様との距離も縮めてみたらいかがでしょう?」
「えー」
「さっき、オリビア様からも情報収集するって言ってたじゃないですか」
「あー、あれ、本気じゃねーし」
(おいおい、柳君!)
まったく悪びれた様子もなくモリモリと大口でランチを食べる柳に呆れる。
これだから陽キャって・・・。
「で、でも、あまりにも不自然ですよ。昨日までラブラブしていた二人がパタッと疎遠なんて」
「でも、ほら、そこは俺、記憶喪失だし、仕方なくね? 記憶ねーんだもん」
ああ、なんてすごく迷惑な方向にポジティブ思考・・・。
椿は頭を抱えた。
「そ、それでもヒロインを全く無視するっていうのはどうかと・・・」
「んー、そうかなあ?」
「そうですよ! ここは一つ、山田を助けると思って!」
両手を前に合わせ懇願する椿に、柳は少し渋った顔をした。
「分かったよ、山田がそこまで言うなら」
「ありがとうございます! 柳君!」
約束を取り付け、椿はホーっと安堵の溜息を付いた。
☆彡
翌朝、学院に着き、教室に向かって歩いていると、廊下の隅でセオドアとオリビアが話している姿を目撃した。
椿は慌てて柱の影に身を隠した。そっと覗き見る。
二人向かい合って仲良く話をしている。
(ああ、よかった・・・。柳君、早速オリビアと交流を始めたんだ・・・)
ホーっと溜息を付き、もう一度二人を見てみる。
あれ・・・?
仲良くと思っていたが、不穏な空気がこちらまで漂っている気がするのは気のせいだろうか?
セオドアはどこか厳しい顔付きをしている上に、腕を組んでオリビアを見下ろしている。オリビアは両手を胸の前に組み、懇願するようにセオドアを見上げている。
どうも穏やかではない。
(や、柳君・・・、一体何を言ってるんだろう・・・?)
柱にしがみ付きハラハラ見守っていると、
「オフィーリア様! おはようございます!」
「おはようございます! オフィーリア様! お加減は如何ですか?」
「昨日はよくお休みになれまして?」
オフィーリアガールズが傍にやって来た。
「ひゃぁ・・・っ!」
椿は悲鳴をあげて柱に抱き付いた。
「まあ! どうされましたの? オフィーリア様?」
「い、い、いいえ! な、何でもないです! 皆さま、おはようございますっ! よよよ、良い朝ですねっ!」
声が裏返りながらワタワタと挨拶する。
「ええ、本当に気持ちの良い朝ですわね」
ガールズの一人がにっこりと微笑んだ。令嬢オーラが半端ない。
他の二人もキラキラしている。喪女の椿には眩しくて耐えられない。
ご令嬢方三人を前に、どうしていいか分からずオロオロしていると、
「どうされました? オフィーリア様。やはり、まだ具合が良くないのですか?」
一人の令嬢が心配そうに声を掛けてくれる。
上手く対応できないだけなのに、こんなにも親身になってくれる彼女たちに申し訳ないと思いつつも、下手に口走ると失敗してしまいそうで言葉が出てこない。
(どうしよう・・・!)
ぎゅっと目を瞑った時、
「おはよう!」
と大きな声がした。
「お、おはようございますっ! セオドア様」
ガールズが振り向いて驚いたように挨拶をした。
「おはよう! オフィーリア!」
セオドアがそう言うと、ガールズはパッと道を開けた。
(や、柳君! なんで?!)
目をパチパチしながらセオドアを見る。
「やっぱりまだ具合が良くないんだな、オフィーリア。大丈夫か?」
セオドアはオフィーリアの傍に来ると顔を覗き込んだ。
「い、いいえ、お陰様で体調はどこも・・・」
「うーーーん、顔色良くないぞぉ、オフィーリア!」
わざとらしく大きな声でオフィーリアの言葉を遮ると、
「オフィーリアの世話は俺に任せてくれ! な?」
令嬢たちにニコッと微笑んだ。
「「「はい!! セオドア様!」」」
「じゃあ、行こうぜ、オフィーリア」
セオドアはオフィーリアの左手をムンズと掴むと、ズンズンと教室に向かって歩き出した。
オフィーリアガールズはその姿をホーっと見惚れるように見送った。
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