第24話 信歩の配信チェックその6と座麻村たちの顛末

「ふぅ、最高の配信だったわね。最後のドッキリ部分も一応見ておこうかしら」



 シホミィの絶叫を最後に、ぜんVSワイバーンの動画が終了した。


 ワイバーンを倒し終えた全にカメラを返却する直前でシホミィがカメラを止めていたようだ。


 次の動画は、シホミィたちが〈ムーンキャッスル〉の仲間たちと合流したところから始まっていた。


 和気藹々わきあいあいとシホミィたちの無事を喜ぶ様子や、シホミィが叱られている姿が映し出されている。



『シホミィ、叱られておけ』

『でも、結果だけ見たらシホミィちゃんの手柄では?』

『いや全さんの力だろ』


「全さんを見出したのは私だから、私の手柄よ」



 そう言ってドヤ顔をする信歩しほ


 先ほどの衝撃から時間がたったためか、視聴者のコメントも随分と落ち着いたものになっていた。



『あのカメラマンは確かによくやったよな』

『おい、カメラマンじゃなくて全さんな。そこ間違えるなよ』

『え、あ、うん。ごめん。え?』



 しかもなにやら、全の肩を持つ変なのまで現れだしている。



『それよりも全くんがいてくれて助かったわ』


『ホントそれ! 今回もシホっちの事を助けてくれてありがとう!』


『……私からもお礼を言わせほしい』


『え? 俺が助けた事をみんな知っている? なんで?』



 カメラの前で困惑した様子を見せた全。

 それを見て、何かに気づいた視聴者たち。



『あ、ヤバ』

『シホミィ、バレたぞ』

『やばい、ウケるんだけど』



 ざわざわとコメントが騒がしくなったところで、シホミィが全にネタバラシをする。



『たはは……えっと、その。は、配信しちゃいました』


『ワイバーン戦をか!?』


『そうです。全さんの勇姿を、その、最後まで……』



 上目遣いで可愛らしく白状したシホミィ。

 そんなシホミィを見て、顔の血の気が引いていった全は、自然に頭を抱えると。



『マジかあああああぁぁぁ!!!』



 特大の絶叫をあげた。



「アハハハハハハハハハハ! やばい! この反応最高! アハハハハハハハハハ!」 


『めっちゃいい反応してるやん!』

『はい、やりました。全てシホミィの仕業です』

『モンスター相手に強くても、虚を突かれたらこうなるのウケる』



 お腹を抱えて笑っている信歩と、盛り上がるコメントたち。


 数分間笑い続けた信歩がゼェゼェと息を整えると、まだ流れている動画を見ながらつぶやいた。



「やっぱり、撮れ高の神は逃しちゃだめよね。明日も頑張らなくっちゃ」




──────



 その頃、座麻村ざまむらたちは……。



「いやぁ、危ないところだったぜ」


「ワイバーンなんて化け物、戦ってられっかよ」


「いい囮がいて助かったな」



 居酒屋の一角で、先ほどの池袋ダンジョンのことについて話していた。



「でもよぉザマちん。あいつら配信してたんじゃねぇの?」


「安心しろ。あいつらは〈ムーンキャッスル〉だろ? なら男が映り込まないようにカメラを止めてるはずだ。そういうダンチューバーたちなんだよ」


「そうね。基本、男は映さないわね」


「ほらな。だから見捨てて逃げても大丈夫って判断したんだ」


「さっすがザマちん! そこまで考えていたなんて深ぇなぁ」



 先ほどの彼らの行いはダンジョン内置き去りに該当する。


 しかし、自らの配信ではその事実を巧妙に隠し、シホミィたちの配信はそもそもカメラが止まっていると考えていた。


 そのため、置き去りの事実は全やシホミィがワイバーンにやられて闇に葬り去られるか、無事だったとしても、しらばっくれることが可能だと判断しているようだ。


 こんな連中でもそれなりに場数を踏んだ冒険者だ。グレーゾーンの扱いにも慣れている。とはいえ今回の件はグレーどころがブラックではあるが。 



「大体よぉ。あんな化け物相手にすぐ逃げれなきゃ、冒険者なんて務まらねぇっての」


「ほんとそれな! 危機管理能力が足りないやつから死んでいく世界だ」


「それを国が、置き去りだのなんだの言ってくるから、俺たちみたいなまともな冒険者が余計な苦労をしなきゃいけねぇ」


「そうだそうだ!」



 お酒が入り、饒舌じょうぜつになっていく座間村たち。彼らは口々に文句を言い始める。



「それに、最近は完塚かんづかがチヤホヤされてたらしいからな。これは天罰だろ?」


「ギャハハハハハハ! 天罰ウケる」


「エンタメ冒険者が、俺たちガチ攻略冒険者の役に立てたんだから、本望だろうよ!」


「プギャー。俺たちのためにありがとうな! 雑魚ども!」



 Aランク攻略に苦戦していた座間村たちの、溜まりに溜まったフラストレーションが酒の力で爆発中である。

 非常に醜い爆発だが、それを引き止めるものはこの中にはいない。


 そんな最中、彼らの持つスマホに通知が届く。



「ん? なんだぁ?」



 赤ら顔でスマホを取り出した座間村が、さっと画面をチェックすると……。



「なっ! おいおいマジかよ!」


「どしたのザマちん?」


「ワイバーンが討伐されたって!」


「え、まじ!?」



 皆がスマホを取り出して、ダンジョン情報をチェックし始めた。

 イレギュラー出現の警告なども発信されているので、冒険者にとっては貴重な情報源でもある。


 そこに記されていたのは、池袋ダンジョンイレギュラー終了のお知らせと討伐者情報だ。



「〈ムーンキャッスル〉による討伐!? だれだ? まさか完塚じゃないよな?」


「詳しいことは書いてないみたいね。〈ムーンキャッスル〉でワイバーンの相手ができるのなんて時子ときこくらいだけど」


「あぁ、あのSランクの子か」



 日本国内で十数名しか存在しないSランク。その一角が動いたのならと、彼らは納得する。


 ここまでなら、稀にあるイレギュラーの顛末と同じだ。

 しかし、スマホをチェックしていた1人が何かを見つけて声を上げた。



「うえぇ!? 俺たちの事が書いてある!?」


「何が書いてあるんだ?」


「俺たちが完塚たちを置き去りにしたって……」


「なっ! マジか!?」



 隠し通そうとしていた事実がネットに掲載されていると知り、焦った様子を見せる座麻村たち。


 彼らはより詳しい情報を集めるために、自分のスマホをフル稼働させる。


 すると、彼らの画面に出てきたのは、置き去りをしたことに対する罵詈雑言や誹謗中傷の嵐だった。



「ちょ、ちょっと待て! あいつら配信していないんじゃなかったのか!?」


「……配信していて、しかも無事だったみたい」


「マジかよ!?」


「え? ザマちん、これまずいんじゃね?」



 彼ら全員の顔がさっと青ざめる。


 ダンジョン内置き去りのみならず、彼らが見せた全やシホミィに対する態度なども問題として取り上げられており、しかも言い訳のしようがないくらい証拠が出揃っていた。


 完全にネットの敵、やらかした冒険者として扱われている座麻村たち。

 中には彼らがどの罪に該当するのかを、つらつらと説明しているものまであった。


 さらには彼らの持つスマホが一斉に着信音を奏でる。


 画面には〈ブラックサウルス〉の文字が表示されていた。



「ギ、ギルドからだ……クソォ、マジかよ!」



 鳴り響くスマホの着信をオフにすると、座麻村は立ち上がる。



「こ、こんなバカな話があるかよ!」


「ザマちん、どこ行くの!?」


「もう帰るんだ!」


「待って! お、俺らも帰る!」


「わ、私も!」



 座麻村の行動を皮切りに、全員が一斉に店を出ようとした。


 その時。



「失礼。座麻村さんのパーティですね?」



 居酒屋の入口に、黒服の男たちが現れた。


 彼らは全員、紳士的な格好をしているが、服の上からでもわかるくらい筋肉が盛り上がっている。



「なんだお前たちは!?」


「ダンジョン省の職員です。これを見ればわかりますよね?」



 黒服の男が警察手帳のようなものを取り出すと、それを見た座麻村が小刻みに震え出した。


 彼らはダンジョンと冒険者を管轄する国の機関の人間だ。

 その仕事内容には、冒険者の取り締まりも含まれている。



「ちょっと外まで来てもらえますか。ここではお店の迷惑になるので」


「くっ」


「わ、私はただのカメラマンだから関係ないわよね!」


「いいえ、貴女にも同行をお願いします」


「そんなっ」



 渋々といった様子で従う座麻村たち。


 しかし彼ら全員が店の外に出た瞬間。



「こうなったらやっちまうしかねぇ! オメェらやるぞ!」


「「「おう!」」」



 座麻村たちが武器を取り出して、黒服たちに襲いかかった。


 彼らはAランクの冒険者だ。その辺の人よりも遥かに強い。



「こんなことで捕まるわけにはいかねぇんだよ!」


「職員だかなんだか知らないが、Aランク冒険者を舐めるなよ!」



 そんな座麻村たちの様子を冷静に見つめていた黒服たちはやれやれと首を振る。



「彼らの抵抗を確認。無力化せよ」



 黒服の1人が号令をあげると、彼ら全員がものすごい速さで動き出した。



「ぐあぁ!」

「くっ」

「プギャ!」

「……」

「キャァ!」



 あっという間に倒された座麻村たち。


 彼らは地面に転がされて、身動きができないように手枷をはめられた。

 見事に無力化された座麻村たちだが、その目はいまだに黒服を睨みつけている。


 しかし、黒服たちはそんなことを気にも留めない。それどころか座麻村の髪を掴んで持ち上げると、その歪んだ顔に向かってこう告げた。



「お前たちの罪は、ダンジョン内の置き去り違反に加えて、相手を騙して見捨てたことによる殺人未遂と職員への威力業務妨害だ。もちろんカメラマンもな」


「クソォ! それがなんだっていうんだ」


「最低でも十数年の強制労働になるだろう。当分は外の空気を吸えると思うなよ。覚悟しておけ」


「なっ! 嘘だろ!?」



 これから自身に訪れるであろう未来を知って座麻村が驚いた声を上げる。



「嘘なものか。お前たちは重罪人だ。しかも力ある冒険者とそれを世間に伝えるカメラマンだ。責任のある人間が罪を犯した場合は特に重いぞ。せいぜい気張って働くんだな」



 今この瞬間、自分たちのやってきたことの罪の重さを知った座麻村たち。

 彼らはみるみる顔を青ざめさせると、一斉に口を開いた。

 


「「「そんなバカなああああああああああああああ!」」」



 彼らの絶叫は、夜の飲み屋街の喧騒に飲み込まれていった。


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