第14話 再びダンジョン配信
ミノタウロス戦について、こってりギルドハウスで絞られた翌日。
今日は休養日になるので、俺は自宅でのんびりと次のダンジョン配信について考えていた。
昨日初めてシホミィとダンジョン配信したわけだが、そこで色々な問題点や注意点を見つけたんだ。
まずはギルドから厳重注意を受けた映り込みの問題。
ダンジョン配信なので、うっかり他の人が映ることはあるそうだ。だがそれが無名の男性で、しかも長時間というのはギルドにとっては前代未聞だったらしい。
女性ばかりのダンチューバーギルドというのが強みの〈ムーンキャッスル〉にとって、視聴者のニーズは女性ダンチューバーにあるわけだ。そこにおっさんの入る隙間はない。
俺もそれは十分に自覚していたつもりだったが、シホミィが俺を映すというまさかの事態になってしまった。
今後は同じことが起きないように、カメラの管理は厳重にしよう。
ちなみに、次似たような件があったなら覚悟するようにとも言われた。しかも
察しの悪い俺でもこの意味は理解できた。つまりギルドの加入が取り消しになるということだろう。
次の問題は、シホミィのダンジョン攻略が雑すぎることだ。
爆破のオンパレードで進む様子しか映っていない。
これでは、見る人のためになる配信とは言えないだろう。
せっかく、モンスターという相手がいるんだから、もっと有意義な配信をしてもいいんじゃないかと思った。
そして、最後の問題。シホミィが暴走することだ。
打ち合わせに無い行動を突然することがある。
理由は不明だが、これが発生すると配信内容が大きく狂ってしまう。
そのことに関しては、俺が異変を素早く察知して手を打つしかないと考えている。
ダンジョントラブルの一つだと思えば、まぁそこまで難しいものでもないはずだ。
要約すると。カメラの管理、配信内容の見直し、暴走への警戒が今後の課題だな。
大体の考えがまとまったところでぐっと伸びをする。
「昼過ぎか……。コンビニで何か買って、池袋ダンジョンのCランク帯についてもう少し調べておくか」
そう考えて立ち上がったところで、スマホから着信音が鳴り響いた。
相手は……シホミィだ。
「もしもし、どうした?」
『あ、
「おーどうだった?」
『まったく問題なしです。安心してください!』
配信内容のチェック作業。これも俺が担当するものと思っていたが、シホミィが自分でやりたいと言って聞かないので任せた作業である。
俺が長時間映り込んでしまった問題の配信だったと思うんだが、シホミィチェックでは大丈夫らしい。
「本当に大丈夫なのか?」
『大丈夫ですって!』
「そうか、ならいいんだが。その報告の連絡か?」
『いえ違います! それはあくまでついでです。連絡したのは次の配信についてお話しようと思ってまして』
「ちょうど良かった。俺もその事について考えていたんだ」
『では、軽く打ち合わせをしましょうか!』
ということで、この日は次の配信の打ち合わせをして過ぎていった。
ダンジョン配信日。
池袋ダンジョン前で配信開始の合図をシホミィに送る。
すると彼女はカメラに向かって笑顔で手を振った。
モンスターを爆散させまくる子と同一人物とは思えないほど、見事な笑顔である。
「みんなおはよう〜!」
『シホミィ〜! おはよう〜!』
いつものように視聴者さんからのコメントを、虎のぬいぐるみが読み上げてくれる。
今日はそんな虎のぬいぐるみから、全く別の音声が響いた。
『シホっちおはよう!』
「あれ? その声は?」
シホミィが首を傾げると、今度は虎のぬいぐるみがいつもの声でコメントを読み上げた。
『ゆみまるもよう見とる』
「あー! ゆみまるの声でしたか!」
さっきの声は同期のゆみまるがシホミィの配信にコメントをしてくれたようだ。
ギルドメンバーやモデレーターのコメントはAIが優先的に拾い、その人物の声で読み上げてくれる。
コメント欄に現れたダンチューバー同士の交流というのも、配信の醍醐味みたいなものだからな。
「ゆみまるも見てるなんて嬉しいですね! 今日の配信は新しい事にも挑戦するので、ぜひ皆さんも見ていってくださいね!」
『わかった! シホっちとリスナーさんたちの会話をこれ以上邪魔したく無いから、黙って見とくよ』
「はーい! じゃあ早速ダンジョンに行きましょうか!」
勇ましいポーズを決めたシホミィがダンジョンの中へと入っていく。
「今日は普段とは少し違った配信もやろうと思っているんですよ〜」
『お? どんなことをやるの?』
「ふふふ。それはですねぇ」
目的の場所に着くまでの暇な時間を、シホミィは視聴者さんとの交流に使っている。
ダンジョンの浅い階層の移動は、はっきり言ってつまらん。なので、シホミィの雑談交流タイムはなかなかよく考えられた配信だと思う。
「まぁそんな感じで、対モンスター戦の練習みたいなものもやろうって事になったんです」
『おぉー。それは俺たちも助かるな!』
「そうですか。そうですか。ちなみに新しいカメラマンさんのアイデアだったりします」
『あいつか!』
そう。俺はシホミィの雑な戦い方を、もう少し良くするついでに、対モンスター戦の大事な部分ってのを広く視聴者さんに届けたいと思っている。
今の日本はダンジョンとは切っても切り離せない関係だ。だからこそ、モンスターに対する正しい戦い方ってのを学ぶ必要があると思うんだ。
完璧に立ち回れば、どんなモンスターにも勝てる。そうすればダンジョンにおける死傷者数も減って、皆が幸せになれるだろう。
そう言ったことをシホミィに相談したところ。彼女は二つ返事で引き受けてくれた。
「なので、カメラマンさんの課題を受けつつ、シホミィ自身もうまく戦えるようになろうって企画ですよ!」
『なるほどな〜。ちなみにあのカメラマンさんは何者なの?』
予想通り、視聴者さんの反応はまぁまぁといった感触だ。
得体の知れないカメラマンのアイデアだ。視聴者さんが警戒する気持ちもわかる。
さらに女性ばかりの〈ムーンキャッスル〉で、男性が前面に出てきたことへの拒否反応もあるようだ。
だが安心して欲しい。その辺りのフォローも打ち合わせをしてある。
「あー、皆さんが噂されていた高ランクの冒険者とかではないんですよ。実力は私の配信で見た通りですがね!」
『冒険者じゃない? どういうこと?』
「カメラマンさんは自衛手段として戦えるだけらしいです。所持スキルも低級のスキルなので、〈ムーンキャッスル〉にもカメラマンとして所属してもらってます」
『いろんな噂が飛び交ってたけど、そっかカメラマンなのか』
うんうんと
よしよし、視聴者さんから一定の理解は得られているようだ。
『ちなみに低級スキルってのは、どんなスキル?』
「パーフェクトスキンというスキルらしいです。皆さんは知ってますか?」
『あーあれかー。ノーダメージ状態なら能力アップだ』
「おぉー! 皆さん詳しいですね! なるほど。カメラマンさんの強さは、あの回避力によるノーダメが
『ノーダメ限定の強さって不安定だからな、冒険者に向いてないのはわかる』
シホミィなんかよりも視聴者さんの方がよっぽど理解度が高いな。
そう、俺の持っているスキルは状況によって左右される博打みたいなスキルだ。
能力アップしている間はいいが、それが切れた瞬間お荷物になりかねない。
肝心なところで頼りにならないスキルなんていらないだろ?
おまけに化粧品みたいな名前だし。
「それからもう一つ、私から皆さんに言っておくことがあります。カメラマンさんが男性なので、余計な不安を抱くリスナーの方もいたんですよね」
『ガチ恋勢か』
「なのでここでハッキリ言っておきます。私はカメラマンさんを男性として見たことは一度もありません。〈ムーンキャッスル〉もそこはちゃんと管理してますから」
『おぉーこれは心強い言葉だ』
俺が配信に長く映ったために、シホミィ恋人説を持ち出す杞憂民までもが湧いていた。
なので俺に遠慮することなく、ハッキリした事を言ってくれと頼み込んだんだ。
おかげで、視聴者さんたちの心配事は払拭できたんじゃないだろうか。
そんなこんなで、前回の配信の補足や、これからのことを話していると、いつの間にか目的地に到着していた。
「さぁて! ではそろそろカメラマンさんからの挑戦状をやっていこうと思います!」
『シホミィ頑張ってー!』
シホミィは、俺が事前に手渡しておいた特訓内容の書かれた紙を広げた。
「今回の内容ですが……げぇ!」
『なになに? どしたの?』
「ス、スライムの魔核の撃ち抜き。1000回チャレンジです……」
げっそりとした表情で、シホミィは内容を読み上げた。
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