第11話 初めてのダンジョン配信
池袋ダンジョン39階。
そこにシホミィの特徴的な甲高い声と爆発音が響き渡る。
「うらぁ!
ドーン!
「そっちから来てることなんて、見え見えじゃぁ!」
ドーン!
シホミィ目掛けてやってきたモンスターが、次々と爆散していく。
雑談配信とは?
俺はそんな気持ちでいっぱいだった。
『ナイスボンバー! シホミィちゃん今日も調子いいねぇ!』
「任せてください! この前サンダーエレメンタルにやられた分、2割マシで爆破していきますから!」
『最高だぜぇ!』
ナイスボンバーってなんだ?
配信が変われば文化も変わる。
俺はそれを痛感した。
「ふーっ。ここらでちょっと休憩しますか」
『お疲れシホミィ。ナイスなボンバーだったよ』
「ふふふ。ありがとうございます。やっぱりダンジョンは爆発ですよね」
モンスターを50体くらい倒したところで、シホミィの進軍は止まった。
額の汗を拭ったシホミィは、一仕事終えた感を出している。
「でも、そろそろ飽きてきちゃいましたねぇ」
『そうかな シホミィの起こす爆発ならずっと見ていられるけど?』
「あはは! ありがとうございます。飽きたってのは爆破ではなくてですね。もう少し変化が欲しいなと思ったんですよ」
『あーそれはあるかもなー』
休憩の時間もこうやって視聴者との交流に使うというのは、俺にとってはなかなか新鮮だ。
ガチ攻略系の配信なら、冒険者が黙々とダンジョンを進む様子を映すだけだったが、エンタメ系になってくるとこうも変わるんだな。
『変化っていえば、新しいカメラマンいい動きしてると思う』
「いい動きですか? もう少し具体的に教えてください」
『アングルがすごくいいよ。新人とは思えないくらい迫力のある画角になってる』
「おぉー! それは嬉しいですね」
うーん、そんなに特別なことはしていないんだがなぁ。
彼女の戦い方が爆破一辺倒なので、見やすい映像になるようにと、あっちこっち移動して撮ってはいる。
移動に不満はない。しかし欲を言えば、恵まれた強スキルである爆破魔法をもっと効率よく使ってくれれば、いい絵がたくさん撮れるのになぁとは思った。
俺が配信の改善点を考えていると、シホミィもカメラの前で難しそうな顔をしていた。
「う〜ん。カメラワークがいいなら、もうちょっと挑戦してみるのもアリですかね〜」
挑戦か。ダンジョン前で簡単な打ち合わせをした時は、そんな事一切言ってなかったと思うんだが……。
しばらく考える素振りを見せていたシホミィ。
やがて彼女は何かを閃いたのか明るい顔を見せて立ち上がる。
「よし! そろそろ休憩は終わりにしましょう!」
何かに導かれるようにダンジョンを進んで行くシホミィ。
休憩前と同じようにモンスターを見つけては爆破を繰り返しているが、今回は少し様子が違う。
明確にどこかへと向かっているんだ。
いや、ちょっと待てよ。
シホミィが進んでく道順に見覚えがある。
そうこれは……。
『シホミィちゃん、どこかに向かってる?』
「あ、バレましたか。そうです、ちょっと行きたいところができたんです」
『え? いや、まさか!』
視聴者さんが何かを察したようで、虎のぬいぐるみから焦った声が発せられる。
「ふふふふふ! 気づいた人もいるみたいですね! そうです、これから40階のボスに挑戦します!」
『ウガー! Cランクボスに挑むとかマジかー!』
なっ!? 俺もそんな話聞いてないぞ!
ダンジョン散策雑談配信じゃなかったのか!?
俺はシホミィに向かって必死に首と手を振る。
聞いていない! そんな準備していない!
そう思いを込めたジェスチャーだったが……。
「うんうん、みなさんの反響とても嬉しいですよ!」
ダメだ、全く聞いちゃいない。
『サンダーエレメンタルで何も学んでないのか!?』
「失礼な! ちゃんと学んでますよ。あいつには魔法を当てるチャンスがあるんですよ!」
『ダメだこの子。肝心な事を学んでいないぞ!』
視聴者さんが必死に引き留めているが、全く止まる気配がない。
というかむしろ、考え直させようとする反応を見て、逆に喜んでいるようだ。
俺も何度か配信中止の合図を送ったが、全て却下されている。困ったな。
みんなの抵抗も虚しく、シホミィはボス部屋の前にまで到着した。
この先の部屋からは禍々しい雰囲気が放たれている。
中にいるのはCランクボスのミノタウロス。体長3メートルの牛頭の巨漢だ。
「ごくり。ボスの気配をビンビン感じますねー! ここを突破すればシホミィもBランクに上がれるでしょう!」
『やめろってシホミィ! ボス部屋は退散できないんだぞ!』
「生きるか死ぬか。デッドオアアライブですね!」
『せめて複数人のパーティで行った方がいい! ゆみまるとか誘ってコラボで行こうよ!』
引き留める視聴者の声もなんのその。
口数が増えた虎のぬいぐるみを見て、彼女は満足気な顔をしている。
「そんなぬるいボス戦なんて、撮れ高になりませんよ! 新しいカメラマンに撮れ高の一つや二つあげたい気持ちも分かってください!」
俺のため!? いやいやいやいや、そんなの頼んだ覚えはないんだが。
「……今のはなかなかいい言い訳でしたね。
『シホミィ。心の声が漏れてるぞ!』
「あ、やべ!」
イタズラがバレた子供のような顔をするシホミィ。
人を出汁に使うとか、こいつは一回ボスにしばかれた方がいいかもしれん。
そんな風に俺が呆れ出したところで、シホミィはボス部屋の扉に手をかけた。
「では行きますよー! 開門!」
ここまで来たなら仕方がない。行くしかないか。
俺は意を決して、ボス部屋に入っていくシホミィを追った。
ボス部屋は体育館2個分くらいの大きさだ。
部屋の奥には、巨大な斧を持って
「さぁこい牛野郎! 焼肉にしてやりますよー!」
ビシィっとミノタウロスを指さして宣言するシホミィ。
その声に呼応するかのように、ミノタウロスが動き出した。
ブオオオオオオォォォォォ!!!
爆音の
『ウガー、耳が壊れるー!』
「集中するので、とらには黙っててもらいますよ」
読み上げぬいぐるみの音声をカットして、シホミィはしっかりとミノタウロスを見据える。
開幕の
モッサリとした動きだが、図体がでかいので見た目よりも早い。
「これでもくらえぇ! マナバーストォ!」
開幕からシホミィは自慢の爆発魔法を連射する。
「まずは足からもらいますよ!」
魔法の光がミノタウロスの右足に殺到する。
ドーンドーンドーン!
的が大きいので簡単に命中し、ミノタウロスの右足が爆風に包まれた。
「さぁ、これでどうですか!?」
シホミィの魔法は強力な攻撃だ。
だが、Bランクへの壁として存在しているミノタウロスがそう簡単に倒せるはずもなく。
煙の中から巨大な斧が振るわれる。
それをバックステップで
「ふふ、簡単に倒れられても、面白くないと思っていたんですよ!」
ニヤリと笑って戦闘狂の強者のような事を言っているが、その笑い方なんか悪役っぽいぞ。
「爆発が効かないならやることは一つ! 効くまで爆発させる! マナバースト!」
言ってることは脳筋。やってることはゴリ押し。見た目は派手なんだがなぁ。
シホミィの魔法を受けてもびくともしないミノタウロスが、何事も無かったかのように間合を詰めた。
「ちっ!」
ミノタウロスの巨体から繰り出される斧の攻撃は暴風も伴う。
至近距離で振るわれたなら、直撃をしていなくても風圧で身動きを封じられてしまう。
獲物を風で拘束し斧を確実に当てる。これがミノタウロスの怖い攻撃パターンだ。
「やば! マナバースト!」
風圧で動きが制限されたシホミィは、すぐさま魔法を発動。
自身を爆破することで、無理やりミノタウロスの攻撃圏外へと吹っ飛んだ。
「いててて。やってくれま……え!?」
慌てて体勢を立て直したシホミィがミノタウロスの方を向いて絶句する。
自爆回避まで使って離れたはずのミノタウロス。
それがすぐ目の前で拳を振りかぶっていたからだ。
あまりの事態に、俺はつい叫んでしまう。
「やばい! もう一度魔法で下がれシホミィ!」
「ぇ?」
だめだ、間に合わない!
ミノタウロスの放ったパンチがシホミィに直撃して、彼女は壁際まで弾き飛ばされた。
「きゃあああああ!」
強烈な勢いで壁に叩きつけられたシホミィ。
あのダメージでは戦闘続行は不可能だ。
今から救助を呼んでも間に合うとは思えない。
……仕方がない。
俺はこれ以上の撮影は不要と考え、この戦いに介入することにした。
──────
ぐったりと倒れ伏したシホミィ。
彼女は体を起こすと、近くに放置されていたカメラまで寄っていった。
「みなさん安心してください。私は無事ですよ」
シホミィがカメラに向かって微笑む。
「みなさんに言ってなかったことがあります。実は新しいカメラマンさんなんですが……」
彼女はカメラを掴んで持ち上げると、どこか別の方向を映すように構えた。
「以前イレギュラーから私を助けてくれた方なんです」
彼女の持つカメラの先。そこにはミノタウロスへと向かっていく全の姿があった。
「なのでここからは、カメラマンVSミノタウロスをお届けしようと思います! うちのカメラマンの強さ、存分にお楽しみくださいね!」
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