第5話 信歩の配信チェックその2
さらに映像は進み。カメラマンがカメラを捨てて逃げていくシーンが映し出される。
『カメラマンのやつ役にたたねぇ!』
『醜い人間の本性がでたね』
『カメラマンなら立場的にはダンジョン内置き去りに該当しないが、気持ちのいいものではないな』
「みんなの気持ちもわかるけど、これは私が無理を言ってるんだよね」
自分の命を守る行動として、カメラマンの行動は間違いではない。
それでもシホミィを擁護してくれるコメントたちに対して、
そして画面は次の展開。シホミィがサンダーエレメンタルと対峙したシーンになった。
『さぁ! ここでバッチリ、リスナーの方たちに良いところを見せるんです! 腹くくってください』
『マジでサンダーエレメンタルに挑むつもりだ』
『あわわわわ。やばいよ』
『魔法が効く相手ではあるが……』
コメントを読み上げるぬいぐるみたちは、不安と期待が入り混じっているようで、目元を少しだけ手で覆いながら画面を見ている。
そして彼女の放った魔法が命中すると……。
『やったか!?』
『オイ、フラグやめろ』
『意外といけるかもしれんな』
「そうそう。私も倒せるかもって思ったんだけどね」
さっきまで逃げろと言っていたが、戦い始めると期待が上回ってしまうコメントたち。
そんなコメントと共に、信歩は食い入るように戦いを見る。
『出たー! 連続マナバースト!』
『え、サンダーエレメンタルに効いていない?』
『やはりBランクはまだ早かったか』
「今見てもやっぱり硬すぎ! 理不尽よ!」
サンダーエレメンタルの強さに対して、映像の中でシホミィが怒っていたが、こちら側でも信歩が怒っていた。
しかし、状況を変える事態が発生。
『シ、シホミィちゃん! 助けにきたぞ!』
『お、お、俺たちもCランクなんだ、助太刀するよ!』
リスナー冒険者の登場だ。
『ナイスだ! これはまさに栄誉リスナーの所業!』
『よかった。これでシホミィちゃんが助かる』
『たった2人でもありがたい』
「みんな喜んでるけど、私は逆に困っちゃったのよね」
そう言って信歩は眉根を寄せた。
彼らが現れた当初はコメントも沸いて、ぬいぐるみたちも小躍りをしていたが……。
『おい! シホミィちゃんがやべぇって!』
『あの冒険者たちなんで逃げてんの!?』
『逆に足を引っ張りにきただけじゃないか』
「あ〜このシーンかぁ」
信歩にとっては、守るべきリスナーという認識だったが、視聴者側はそう思ってはいない。
見ている者たちの気持ちもわかるだけに、信歩は苦笑いをする。
リスナー冒険者を庇い、岩場まで飛ばされたシホミィは、近くにあったカメラを手に取って他の視聴者へ向けた言葉を送る。
『あの2人のことを怒らないであげて、勇気を出して助けに来てくれたんだから。それから……みんな、今までありがとうございました』
弱りながらもカメラに向かって笑顔を見せるシホミィ。
その様子を見たリスナーたちは憤怒のコメントから一転、
『うわあああああああん。シホミィちゃあああああん』
『嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ』
『なんとかする方法は無いのか!? 冷静になって考えるんだ!』
「……みんな、こんなにも心配してくれていたんだ」
結果を知っているはずの信歩だが、彼女を思ってのコメントが大量に
「この時はもうダメかもって思ってたけど、でも……」
映像の中のシホミィが驚いたような顔をすると、アングルが急に変わった。
映し出されていたのは1人の男。
彼女が
『なんだこいつは?』
『また、役立たずが増えたんじゃない?』
『今のうちだ! そいつを囮にして逃げろ!』
「あははっ、囮は酷いでしょ」
急な乱入者に対して視聴者からは
『サンダーエレメンタルは魔法で倒すにしてもコツがいる。よく見ておけ…………火力が足りない場合は、雷が途切れたところを狙うんだ』
全がシホミィの方へと振り向きながら、軽い調子で言うと、すぐさまコメントが反応した。
『この男、雷が途切れたところを狙うって言ってて草』
『無理だね』
『理論的には合っている、ただ0.1秒ぐらいの間だけどな』
「うんうん。みんなも無茶な話だって思うよね」
全のことをバカにするコメントが多い。
だが彼がサンダーエレメンタルの突撃を避けたことで様子が変わる。
『おい、あいつサンダーエレメンタルから距離を取らず、前進して避けたんだが!?』
『いや、まぐれじゃない? 運ゲー乙』
『あの速さを見切ったとは思えん。俺もたまたまだと思うな』
リスナーたちは運よく避けたと思ったみたいだが、信歩は該当箇所をなんども再生して確認することにした。
何度見ても迷いなく回避ルートに移動している全。それを見て彼女は確信する。
「……やっぱり。完璧に見切ってるんだこの人」
さらに全はのんびりとした動きで場所を変える。
『今のうちに次の突進の終点に移動だ。大体この辺にやってくる』
『え? 何言ってんのこの人』
『次、突進マ?』
『仮に突進だったとして、どこで止まるかなんてわからないだろ』
自信満々にサンダーエレメンタルの方を向いた全。
彼の宣言通りサンダーエレメンタルが突進を開始して……。
『ありえんだろ!』
『ほんとに止まったんだが!?』
『なんで? なにしたの?』
「だよね〜。この時点であり得ないよね」
全のすぐ目の前で止まったサンダーエレメンタルを見てコメントがざわつく。
そんなコメントをよそに、映像の中の全は淡々とサンダーエレメンタル攻略を語る。
『この突進終了後に3回光ったら、その後わずかな間、本体が剥き出しになるタイミングがある』
『なにそれ、そんなタイミング聞いたことないんだけど』
『0.1秒くらいでしょ。それを知ってどうするのって感じだけどね』
『狙って当てられるようなものじゃない。それこそ運頼みだろう』
そして次の瞬間。
『は?』
『え?』
『マ?』
『おいおい』
『そんなことあるか!?』
「ヤバッ。何度見てもこれはヤバい」
全が素早く剣を一振りすると、サンダーエレメンタルが真っ二つになった。
『あいつやりやがったああああああああ!』
『やべぇ、サンダーエレメンタル斬るとかマジか!?』
『シホミィちゃん助かったじゃん!』
『救世主! 救世主やで!』
盛り上がりまくるコメント欄に合わせて、ぬいぐるいたちも激しく踊り出す。
そのまま映像はシホミィがダンジョンから帰り着くところまで映し出され、その間にも大量にコメントが流れ続けていた。
『シホミィちゃん。よかった。無事で本当に良かった!』
『次からは絶対にすぐ逃げるんだぞ!』
『ってかあの男、強過ぎワロタ』
『あれ何者? 高ランク冒険者じゃないの?』
『解析班に頼もう。シホミィちゃんの分まで俺がお礼を言ってくる』
そんなコメントでの盛り上がりを見て、シホミィはつぶやいた。
「結局、誰だったのだろう。名前も聞けてないや。でも……」
そう言って再び全が登場したシーンから動画を再生し始める。
改めて全の完璧な立ち回りを見た信歩はニヤリと笑う。
「あの人はきっと撮れ高の神に間違いないですね!」
信歩ではなく、シホミィとしての顔をのぞかせて、彼女はそう言い切った。
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