第4話 信歩の配信チェックその1

 配島はいじま 信歩しほ


 冒険者ギルド〈ムーンキャッスル〉所属の冒険者。

 ダンチューバーとしての活動ネームはシホミィ。


 ぜんがサンダーエレメンタルから助けた女の子だ。



 イレギュラー騒動後、信歩は無事に池袋ダンジョンから帰ることができた。


 彼女のことを心配したギルドメンバーに、ダンジョンの入り口前でもみくちゃにされ、あれよあれよという間に自宅に到着。


 そのまま気絶するかのように眠ってしまっていた。




 翌日になって目を覚ました彼女は、ラフな服装のままパソコンの前に座ると、ぐっと伸びをする。



「ふわぁ……。昨日の配信のチェックをしなきゃ」



 寝起きのテンションに見えるが、シホミィとして活動していない時の信歩は、割と普通の女の子だったりする。


 手慣れた様子でパソコンの電源を入れ、起動画面をぼうっと眺める信歩。




「そういえばお礼、ちゃんと言えてなかったな……」



 思い起こされたのは昨日のこと。


 全による衝撃のサンダーエレメンタル戦を見た信歩は、かなり激しいリアクションをとっていた。


 大きな声で騒ぎ立てたのはダンチューバーとしての矜持きょうじでもあったわけだが、それを見た全は、関わったら危ないと感じたのか、逃げるように去っていってしまったのだ。



「チェックついでに、何か分かればいいんだけどね」



 彼女はカチカチっとパソコンを操作して、昨日の配信を再生した。


 配信中に寄せられたコメントはたくさんあるが、その全てを彼女は手の空いた時間にチェックしている。



「とら、かめ、ふくろー。コメント読み上げて」


『コメントモードオン』



 パソコンの傍にちょこんと乗せられていた虎と亀と梟のぬいぐるみが、信歩の声に反応して起動する。



『みんなおはよう〜』


『シホミィちゃんおはよう!』

『配信と聞いて』

『今日の配信内容はなんですか?』



 画面の中の彼女が挨拶をすると、ぬいぐるみたちが次々と声を上げる。


 コメントをチェックするだけなら、目で追った方が圧倒的に早い。

 しかし、彼女はそんなチェック作業でも読み上げぬいぐるみを愛用していた。


 さすがに全部のコメントを読み上げさせると、永遠に続く呪文のようになってしまうので、そこはAIで選別してもらっている。



「ふふっ、相変わらずこの光景は和むわね」



 3匹のぬいぐるみたちが、画面に向かって話している様子は、まさに視聴者の姿だ。


 それを後ろから俯瞰して見ている信歩は、ぬいぐるみたちの保護者にでもなった気分だった。



 虎のぬいぐるみは、ノリの良いお調子者なコメントを担当。


 亀のぬいぐるみは、彼女を心配するコメントや悲観的なコメントを中心に拾い。


 梟のぬいぐるみは、情報や分析など一歩引いた視点のコメントを扱う。



 ちなみに彼女の友人が3匹のぬいぐるみに付けたあだ名はウェーイ、びくびく、インテリだ。



『今日は池袋ダンジョンの中層、Cランクボス手前まで行きますよー!』


『がんばれー!』

『無理はしないでね』

『40階までですか。シホミィさんの実力なら問題ないですね』



 動画の中のシホミィに反応するようにぬいぐるみたちが声をあげる。

 彼女にとっては見慣れたいつもの配信風景だ。



「みんな、応援ありがとう」



 まるで視聴者と一緒に配信を見ているような気持ちになりながら、信歩は動画をチェックしていく。






 シホミィが爆発魔法を駆使してダンジョンを攻略する様子は、派手さもあって視聴者にウケがいい。


 そんなダンジョン攻略配信だったが……。



『むむ! あれはなんでしょうか!?』



 映像の中のシホミィが何かを発見した。


 岩陰の向こうの淡く光っている何か。


 シホミィがいそいそと移動して、岩陰を確認する。


 すると、彼女をピッタリと追っていたカメラにも、その姿がハッキリと映し出された。

 


『げえええええ! なんですかあのエレメンタルは!?』


『なんだなんだ?』

『危ないやつじゃないの?』

『サンダーエレメンタルだ! 逃げろシホミィ!』



 コメント量が増えたことで、ぬいぐるみたちが騒がしくなる。



『サンダーエレメンタルってなんぞ?』

『やばいよやばいよやばいよ!』

『あいつはBランクのモンスターだ 早く逃げて!』



「やっぱりここから視聴者が一気に増えてるのね」



 増えたコメントを眺め、どこか得意げな表情で信歩は頷く。



『イレギュラーです! 早く逃げてください!』


『シホミィちゃん優しすぎる』

『そんな暇があるなら早く逃げて!』

『もう十分知らせたはずだ!』



 数分ほどイレギュラー出現の警告をしたシホミィが、周囲をキョロキョロと見回してからカメラに向き直る。



 映像の中でも逃げ逃げろと言われ続けているシホミィ。 

 だが彼女はいたずらっ子のようにニヤリと笑って言った。



『逃げませんよ! イレギュラーとの戦闘なんて、撮れ高満載じゃないですか!』


「さすが私! ここで引くのは違うわよね!」



 この勇ましい発言に当の本人は喜んでいるが……。



『シホミィ悪い癖出てるって!』

『あぁダメだ。もうダメだ』

『無謀すぎる。せめて勝てそうな仲間を集めるなりした方がいい』

『グロと聞いてきました』

『いいぞ! シホミィならやれるぞ!』



 コメントを読み上げる3匹のぬいぐるみは、もはや誰が何を言っているのかわからない状態だ。


 あまりに多くのコメントが寄せられたため、 AIの選別が間に合っていない。


 だが、そんな様子を見た信歩は嬉しそうに言う。


「私の読み通り、すごい盛り上がってるじゃない!」

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