第3話 シホミィとの出会い

 コメントを読み上げる虎が、シホミィのことをCランク冒険者と言っていた。


 ということはサンダーエレメンタルは格上の相手になるわけだが、彼女は自信満々といった雰囲気で進んでいく。


 サンダーエレメンタルの警戒範囲ギリギリに立った彼女は、ビシッと指差して、高らかに宣言した。



「さぁ! ここでバッチリ、リスナーの方たちに良いところを見せるんです! 腹くくってください」 



 全く臆した様子のない彼女の姿は、なかなか絵になっている。



『ウガー! だから、早く逃げろってー!』



 肩の虎が必死に頭を振って暴れていなければだが……。



「とら、うるさい!」



 彼女が虎の首筋を触ると、ブゥゥンという音が鳴って虎から発せられる声が消え口パクだけになった。


 なるほど。戦闘中に横で騒がれたら気が散るもんな。コメント読み上げぬいぐるみにはこんな機能もあるわけか。



「気を取り直して、行きますよ!」



 シホミィが構えると、彼女のそばに光の玉が現れた。



「マナバースト!」



 空中に浮いた光の玉は一瞬のきらめきを放つと、そのままサンダーエレメンタルに向かって飛んでいく。


 ゆらゆらと揺らいでいたサンダーエレメンタルに光の玉が激突。爆発が発生した。



 ドゴォォォォォン!



 サンダーエレメンタルの姿が、煙に飲まれて見えなくなる。


 彼女は魔法の使い手か。しかも火力のある爆発の魔法だ。

 なかなか良いスキルを持っているじゃないか。


 日本にダンジョンが出現してから、誰しもがスキルを1つ持って生まれてくるようになった。

 どんなスキルが手に入るのかは完全に運にだが、魔法系統のスキルは大当たりといえる。


 おまけにエレメンタル系のモンスターは物理はほぼ効かないが、魔法には非常に弱い。


 彼女にとってサンダーエレメンタルは相性のいい相手に見えたのだろう。


 だが……。



「ええ!? 全然効いてないんですけど!?」



 煙の中から姿を出したサンダーエレメンタルは、俊敏な動きで宙を飛びバチバチと発光している。


 ピンピンしているどころか、あれは戦闘体勢だ。今の攻撃で彼女を敵として認識してしまった。


 サンダーエレメンタルが一瞬バチっと光る。攻撃の合図だ。



「ひ、ひゃあ!」



 高速で突っ込んできたサンダーエレメンタルを、シホミィがギリギリのところで避ける。


 あいつの突進、早いんだよなぁ。見てから避けたんじゃ間に合わないぐらい早い。

 あの子も勘のようなもので避けたと思われる。



「あいつ相手に守りはやべーですね。なら攻めあるのみ!」



 再びシホミィの周りに光が発生する。

 今度は3、4……全部で6つ



「やっちまえ! マナバーストォ!」



 シホミィの放った魔法が連続してサンダーエレメンタルへと飛んでいく。


 1発ではダメージが低いと考えたのだろう。数を増やして火力を上げる算段だな。


 しかし6発の魔法はサンダーエレメンタルに着弾したものの、ダメージを負った様子は見られない。



「ちょっと! あいつ硬っ! 卑怯なんですが!」



 サンダーエレメンタルはBランクのモンスターだけあって、エレメンタル系でも強い方に属している。魔法職であっても油断ならない相手だ。


 彼女は他のエレメンタルと同じように考えて倒すつもりだったのだろう。


 足をバタバタさせて怒っている様子がなんともコミカルだが……。



 そこで新たな事態が発生した。



「シ、シホミィちゃん! 助けにきたぞ!」

「お、お、俺たちもCランクなんだ、助太刀するよ!」



 明らかに近接職と思われる冒険者2人組が現れた。



「ええ!? ダメですよ! 危ないんですから、逃げてください!」


「大丈夫、むしろ俺たちを囮にしてシホミィちゃんは逃げて!」

「あぁ! 俺たちはリスナー代表の肉壁だ!」



 やっぱりあの子はダンチューバーだったか。


 こんな形で助けが呼べるのはダンチューバーの強みではあるが、あの戦力では……。



「ぎゃああああああああ」

「ぐおああああああああ」



 案の定、助っ人の2人はあっという間にサンダーエレメンタルによって痺れさせられ、床に転がされてしまった。


 あいつとの戦い方を知らない近接職なら、そうなっても仕方ないだろう。



「あーもう! だから逃げてって言ったのにー!」



 問題はここからどうするかだ。

 サンダーエレメンタルは痺れさせた対象を優先的に攻撃する。


 今、あの2人組が襲われたら命の危機だ。


 ここは介入して……。



「ダメ! やらせないんだから!」



 俺が動き出すよりも早くシホミィが飛び出す。


 予想通りサンダーエレメンタルは2人組に向かって突進したが、シホミィが素早く割って入った。



「きゃああああ!」



 2人を庇って攻撃を受け止めたシホミィ。

 彼女は突進をもろに受けてカメラを設置した岩場まで吹き飛ばされた。


 だがそのおかげで、2人組は痺れから復帰。



 そして……。



「ご、ごめんシホミィちゃん! 俺じゃ無理だ!」

「た、た、助けを呼んでくるから! 待ってて!」



 2人組は慌ててこの場を立ち去った。



「あ、うぅ」


痺れてまともに動けなくなったシホミィは、去っていく2人の後ろ姿を見送ると、近くにあったカメラを手に手を伸ばした。


 そしてカメラのレンズに向かって話しかける。



「よかった。リスナーさん達は守れたみたい。ちょっとドジっちゃいましたけどね。たはは……」



 格上のモンスターを前にして、身動きの取れなくなった冒険者がたどる未来は絶望しかない。


 近づいてくるサンダーエレメンタルをチラリと見て、彼女は再びカメラに語りかけた。



「ごめんねみんな。グロはチャンネルBANされちゃうから、シホミィのアップで許してね」



 そう言ってカメラに微笑むシホミィ。



「あの2人のことを怒らないであげて、勇気を出して助けに来てくれたんだから。それから……みんな、今までありがとうございました」



 己の死を前にしてもカメラに向かって笑顔を振りまけるのは天性のものか、はたまたダンチューバーとしての意地だろうか。はかなく微笑む様子がとても美しく見える。



 まぁ、俺が死なせないがな。




 バチバチっと雷を走らせたサンダーエレメンタルが、シホミィに向かって突進する動作を見せた。


 俺は素早く飛び込み、サンダーエレメンタルの進路上で小手を構える。



 ドンッ!



 読み通りに突っ込んできたサンダーエレメンタルを弾く。


 ちなみにこの小手は絶縁仕様だ。

 この程度の準備は当然してある。



「え!? まだ人がいたんですか!?」



 振り返ると驚いた様子のシホミィが見えた。


 彼女がサンダーエレメンタルの特徴を知っていれば、俺が出てくる必要もなかっただろう。


 なので俺は、介入ついでに説明することにした。



「サンダーエレメンタルは魔法で倒すにしてもコツがいる。よく見ておけ」


 どんなモンスターにだって弱点や欠点はあるからな。しっかり立ち回れば勝てない相手じゃない。



「こいつのまとっている雷は、あらゆるダメージをカットする。だから火力が足りない場合は、雷が途切れたところを狙うんだ」



 まぁ、簡単に弱点を晒してはくれないが。


 サンダーエレメンタルがバチッバチッと大きく2回光って左右に揺れた。


 これはジグザグに突進してくる合図だ。


 ……安全な場所はこの辺だな。



 まるで斬り込むかのように、左右に激しく飛びながら突っ込んでくるサンダーエレメンタル。



「この攻撃の最中は隙がない。だからこうやって回避するのが正解だ」



 自分のすぐ脇を抜けていくサンダーエレメンタルを見送り、次の動作を見極める。


 左に円を描くように飛んだな。

 となると、次は真っ直ぐ3メートルの突進だ。



「今のうちに次の突進の終点に移動だ。大体この辺にやってくる」



 読み通りサンダーエレメンタルが飛んできて、ちょうど俺の目の前で停止した。



「この突進終了後に3回光ったら、その後わずかな間、本体が剥き出しになるタイミングがある」



 ピカピカピカッ……ここだ。



 俺は素早く剣を振る。



「そこをすかさず攻撃すれば、物理攻撃でもホラこの通りだ」



 真っ二つに裂けたサンダーエレメントが地面に落ちて、霧となって消滅した。



「ま、こんな感じで戦えば、こいつは危険な敵じゃない。覚えておくといい」



 振り返ると尻餅をついた状態のシホミィが唖然とした顔をしていて……。



「え、ええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ! ありえないんですけどぉぉぉぉぉぉぉぉ!」



 とても大きな叫び声をあげた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る