第36話 戦いの幕開け
『さーて始まりました! お昼の幸せお裾分け、いずっ箱! のお時間です』
『今日はですね、もう二回目ということで、教室とトイレのシャトルランはたったの二往復で済みました!』
『これは成長というやつですねー。緊張との戦い、これからもがんばってください』
『あ、そうそう! 戦いといえば、約一ヶ月後に体育祭が控えていることは皆さんご存知ですよね』
『もうそんな時期ですか。時が経つのは早いものですね』
『それで今日は毎年恒例、三年生による大目玉種目のトーナメント抽選のため生徒会の方にゲストで来てもらっています! 佐野さん、どうぞ!』
『お、お昼の幸せ……お裾分け……どうも、生徒会書記の佐野光里です』
──佐野さん、完全に言わされてる。
『今日はありがとうございます。佐野さんと三年生の各クラスの代表計六名にも来てもらっているので、早速抽選を始めていきましょう!』
ということで放送の向こうでは抽選が始まった。僕としては昨日の謎教師率いる三年五組以外ならなんでもいい。
『抽選が終了しました! では、早速組み合わせを発表していきたいと思います!』
『やばい緊張してきた……その前にトイレ!』
『一人で行ってきてください』
『今年の大目玉種目、トーナメント式クラス対抗リレーの組み合わせは……一試合目! 三年二組vs三年三組! 二試合目! 三年一組vs三年四組──』
その瞬間、僕は最悪の事態が起こってしまっていることに気づいた。まだ呼ばれていないクラスは僕たち三年六組とお隣の三年五組。そう、つまり僕らの相手は……。
『三試合目! 三年五組vs三年六組』
どうしていつもこうなるんだろう。大体こういう時、ハズレを引いてしまう傾向があるように思う。僕はとことん運がない。
ふと、気になって最古先生の方を見てみる。すると彼は驚くことに、微かに笑っていた。それはかろうじて分かるような小さな笑みだったが、果たしてなんの笑みなのだろうか。
きっと、たとえ名探偵でも分からないだろうと思った。
『以上が今年の大目玉種目の組み合わせになります。各クラスは明日の昼に対面式を行ってください。以上、生徒会からでした』
佐野さんが最後に付け加えたその一言に僕は絶望する。こんなの、まるで火に油を注ぐようなものだ。
──どうか、明日の昼の対面式が何事もなく終わりますように。
面倒事を避けたい僕は、心の中でそう呟いた。
▷ ▷ ▷
夜、寝る前も朝、起きた後も僕は平和を祈っている。
世界が丸ごと平和になればどれだけ素晴らしいだろうと思う。誰も傷つかない完璧な世界。実現することはない願望の世界。
とはいえ僕は祈ることしかできないのだから、その願望はどこかの英雄に託しておこう。
そんな平和主義者の僕は、今から行われる対面式においても同様に平穏を望む。
昼休みになると僕たちは次々に廊下に出て、一列にずらーっと並んだ。なぜ廊下を対面式の場所に選んだのか僕には理解できなかった。
少し経って、隣の教室からもぞろぞろと流れ出ては、僕らの正面にずらーっと並んだ。
なるほど、たしかにこれは文字通り……“対面“式だ
そんなくだらないことを心の中で思っているうちに、どうやら全員が揃ったようで我がクラスの代表である駿河優太によって対面式は幕を開ける。
「ただいまより、今年の体育祭の大目玉種目、クラス対抗リレーの対面式を行います。皆さん、よろしくお願いします」
彼がそう言うと総勢六十名の両クラスの生徒たちが一斉に「よろしくお願いしまーす」と気だるそうに言う。
──なんでせっかくの昼休みをこんなことで潰されなければいけないんだ、的な空気が廊下中に充満していた。
「なぁ、せっかくだし今日の放課後にでも模擬戦をやるってのはどうだ?」
三年五組の誰かがそう発言した。なんということだ。昼休みだけでなく放課後まで奪うなんて。
……いや、放課後はどうせ青い星サークルで時間が潰されることに変わりはない。じゃあいいや、どっちでも。
「あぁ、たしかにそれだと今後の課題なんかも見つけられて練習が捗るし俺は良いと思う。みんなはどうかな?」
容姿端麗のサッカー部キャプテン兼エース、おまけに成績は学年トップという人類最強の男にそう問われて反発できる者は一人としておらず、その場は賛成の空気を醸し出してしまっていた。志賀くんやその友だちは駿河くんに視線で賛成の意を伝えていた。
「では、今日の放課後は五組と六組による模擬戦を行います。グラウンドに全員揃い次第、開始したいと思います。先生方もよろしいでしょうか」
「あぁ、問題ない。俺は争いごとが大好物だ。存分に戦ってくれ」
と最古先生。
「いいと思うぞ。まぁ、俺は争いごとが大好物なんていうどこかの変人とは違うがな」
と五組の担任。
──争いごとは体育館の裏とかでやってください。
「お二人ともありがとうございます。最後に、今後の両クラスの健闘を祈り、握手で対面式は締めさせていただきます」
駿河くんがそう言うと、それぞれが正面にいる相手と握手をする。僕も誰か知らない人と最低限の握手を交わす。
かくして対面式は幕を閉じ、同時に三年五組vs三年六組の戦いが幕を開けた。
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