第2章 体育祭は太陽と青春が眩しい
第33話 青い星サークルと生徒会
波乱の四月は幕を閉じ、いよいよ五月が始まった。春が終わりを告げる季節だ。
正確に言えば五月が始まったのはもう一週間ほど前のことだが、それはGWの影響で学校には来ていなかったのでノーカウントとする。よって今日から五月だ。
僕はこのGWを無駄にしてしまった。何をしようかと迷っているうちに気づけば終わっていたのだ。よってこれもノーカウントとし、もう一度GWを楽しむ権利を頂きたい。切実に。
そんな風に始まった五月一発目の今日、放課後の部室はいつにも増して賑やかだった。
「ねぇみんな! 私、GWのお土産あるからあげるよ!」
「お、まじ? 月ヶ瀬はどこか行ってたん?」
「ありがとう、月ヶ瀬さん。ところでそれは食べ物かなー?」
「じゃじゃーん!」
「……それがお土産? え、どこの?」
「近所のスーパー!」
「それはお土産って言わないと思うよ、月ヶ瀬さん」
「えー、でもこれ美味しいんだよ!」
「ただのポテチだろ」
「ただのポテチなんて失礼な! ハッピーバター味って書いてあるでしょ! ハッピーなの! 分かる?!」
「たしかにそれ美味しいよねー。僕も大好きなんだけど、最近は食べれてなかったから嬉しいよー」
「さっすが食田くん! 分かってるねー」
「あははー。それほどでもー」
GW明けからこんなに会話が盛り上がるなんて、この三人は相性が良すぎるのではなかろうか。
彼女は笑いながら二人にハッピーバター味のポテチを一袋ずつ配ると、すたすたと僕の方へ歩いてきた。僕は思わず俯く。
「はい、これ青島くんの分」
流石に受取拒否は感じ悪いし、僕もこのポテチは結構好きなので遠慮なく受け取る。
「ありがとう」
「どいたしまして!」
彼女はニコッと微笑むと、定位置の席に腰を下ろした。
「んじゃ、今日のところは俺は帰るわ。大切な用事があるのさ。またなー」
「僕も今日はこれで。またね! 月ヶ瀬さん、青島くん」
そう言って二人は帰っていった。二人とも今日は外せない用事があるらしい。
まぁ、志賀くんは多分アニメを見るためだ。今朝、開口一番にGW中に見たアニメの感想をそれはもう楽しそうに語ってきたから、その熱が今も彼を突き動かしているのだろう。食田くんは……お腹が空いてるのだろう、多分。
ということで、僕と彼女の二人きりになってしまった。
あの日──彼女と一緒に駅まで歩いたあの日から、僕と彼女との間に得体の知れない壁のような、溝のような何かが生まれてしまっていた。
それはきっと僕のせいだ。僕が彼女に助けなんていらないときっぱり言ってしまったからだ。
何を言うべきかではなく、何を言ってはいけないかを考えるべきだったと今になって思う。
今更ではあるが、僕は彼女に謝るべきだろうか。仮に謝るとするなら何と言って謝るのが正解なのだろうか。
──僕はどうして、彼女にあんなことを言ってしまったのだろうか。
あまりの沈黙に耳が痛くなりそうになった時、部室の扉が開いた。佐野さんだった。
「こんにちは。約束通り、生徒会全員で来ました」
そう言う佐野さんの後ろにあと二人いる。おそらくあの二人が生徒会長と副生徒会長だろう。
──三人しかいないんだ。
「えー、初めまして。生徒会長の徳永千草です。どうもよろしく」
筏場と名乗った彼は心底面倒な様子だった。まぁ、気持ちは分かる。
「ごめんなさいね、こんなだらしのない人が生徒会長で。私の名前は冷川弥生。副生徒会長よ」
彼とは反対に冷川と名乗った彼女からは真面目さが伝わってくる。
「おい、俺はこう見えて結構ちゃんとしてる。現に選挙で生徒会長に選ばれてるんだからな。信頼が違う」
「あら、ではこの学校の生徒たちには見る目がないということになるわね。可哀想に」
「たしかに、お前が副生徒会長に選ばれてるってことはつまりそういうことだもんな」
「そうやって言われたら言い返すスタンス、そろそろやめた方がいいわよ。他にネタがないのかしら。可哀想に」
「その可哀想にってやつ辞めてくれる? すげぇネガティブになっちゃうから」
「そっちの方が私としては……いえ、学校として助かるからその調子で続けてどうぞ」
僕と彼女は目の前の高速ラリーにすっかり置いてかれてしまっている。卓球の試合でも見ている気分だ。息がぴったり合っていてもはや芸術。
ただ、佐野さんだけは冷静だった。流石は生徒会書記。
「お二人とも、場をわきまえてください。ここは生徒会室ではないですし、今日は大事な話をしに来ていると先ほども伝えましたよね?」
佐野さんがそう言うと高速ラリーを繰り広げていた二人はそのラリーを中断し、はっとした顔をする。
「そうよね……。取り乱してしまいごめんなさい」
「本当に申し訳なかった」
この生徒会は実質、書記の佐野さんの支配下にあると言っても過言ではない気がする。佐野さんがいなければ生徒会としてちっとも機能しないだろう。改めて、佐野さんが彼女に助けを求める選択を取ったことに納得した。
「お前ら、なんだか楽しそうだなー。俺も混ぜてくれ」
いつの間に来ていたのか、最古先生は部室の前に立ちこちらの様子を伺っていた。
「君たちが生徒会だな。この度は依頼をどうもありがとう。んで、早速依頼料を頂きたいんだが……」
最古先生が放った衝撃の一言に部室内の空気が凍りつく。今だけ季節が冬になってしまったようだった。
「冗談だって、冗談!」
非常に残念ながら、笑えない冗談と通じない冗談は冗談とは言えない。この凍りついた空気はどう責任を取ってくれるのだろう。すごく居心地が悪い。
「えーっと、まずは来てくれてありがとう! 私は月ヶ瀬葵で、奥にいる静かな彼が青島春樹くん、そこにいる変な人が最古友春先生です!」
彼女の言葉が凍りついた空気を少しずつ溶かしていった。最古先生は後で彼女に感謝するべきだろう。
「昨日、佐野さんから依頼を受けて私たち青い星サークルが生徒会と一緒に体育祭の運営に携わることになりました! それで今日は顔合わせ? みたいな感じで集まってもらったという訳なのです」
「よし、じゃあ今日から始動! ってことで円陣とかしたらどうだ?」
「おー先生、良いこと言うね! 生徒会のみんなはどうかなー?」
「私は良いと思うわ。何をするにも最初が肝心って言うし」
「ああ、俺も賛成だ」
「月ヶ瀬さん、私も先生の提案に賛成します」
──あれ、次は僕の番?
これは答えた方がいいやつな気がする。というか、お前はどうだ? 的な感じでこちらを見られている気がする。
「……賛成で」
僕がそう呟くと、彼女はニコッと笑った。
僕らは吸い寄せられるように彼女の周りに集まり、円陣をつくる。
「青い星サークルと生徒会で協力して、体育祭を成功させるぞー!」
『おー!!』
僕らの声は部室中に響き渡った。決意に満ちた声だった。
こうして、青い星サークルと生徒会による体育祭共同運営が幕を開けた。
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