閑話 それぞれのGW【食田編】

 僕はこのGWに絶対にしたいことを既に決めている。


 ──そう、僕は美味しいからあげを食べに行く!


 今日行くのはこの間のからあげ紛失事件の後、月ヶ瀬さんに教えてもらったからあげ屋さんだ。


 どうやら青島くんとのからあげデートで行ったらしい。デートって言うからつい気になって「二人は付き合ってるの?」って聞いたら「付き合ってないよ!」と即答されてしまった。


 そのからあげ屋さんは三島広小路駅の近くにあるらしい。相当な方向音痴でなければすぐ分かるところにあるとも言っていた。


 僕の最寄駅の修善寺駅からは電車で約三十分掛かるが、その間ずっとからあげのことが頭から離れなかった。月ヶ瀬さん絶賛のからあげがどんなものなのか、この僕が確かめに行こう!


 駅を出て、辺りをきょろきょろと見渡す。すると、前方数百メートル先に小さく“からあげ“の文字を確認!

 僕はすぐさまその方向へと向かう。近くまで来るともう既にからあげのいい匂いが漂ってきて僕は確信する。


 ──あ、これ美味しいやつ!


 からあげを愛し、からあげと共に生きてきた僕には匂いで分かる。これは本当に美味しいからあげの匂いだ。

 月ヶ瀬さんからの情報通り、ここのからあげ屋さんは飲食店といった感じではなく店頭販売に特化した小規模なからあげ屋さんだった。


 ──いや、これ美味しいやつ!


 こんなのもう美味しいに決まってる。なぜならからあげを売るためだけに存在しているお店のからあげだからだ。


「からあげ十個お願いします」

「はいよー」


 早速注文をし、いい匂いに包まれながら待機する。本当は十二個とかにしようと思ったけど、流石にこれ以上太るのもアレなので十個で我慢することにした。


「はい、からあげ十個ですー」

「ありがとうございます!」


 僕は代金を支払って熱々のからあげを受け取った。気分が一気に高揚してきて思わず笑ってしまいそうになる。


 たしか月ヶ瀬さんはこの後商店街の方へ向かい、有名な鰻屋の隣にある小さな神社の裏を通って……とか言っていた。とにかく“線路の下“に行けばいいよ! とも言っていた。


 言われた通りに進んでいくと、たしかに小さな神社の裏道の先に線路の下に下りれるスペースがあった。これが高架下なのかは分からないけど、頭上にはレールが通っている。


 僕は念願のからあげを早速食べる。一口食べた瞬間、衣のカリッとした食感と肉のジューシーとが口の中で絡み合い絶妙なハーモニーを生み出していた!


 あまりの美味しさにからあげを食べる手が止まらない。これはあれだ、やめられない止まらないってやつだ!

 そんな風に僕がからあげに夢中になっていると、踏切の音が辺りに響く。


 ──電車が来る!


 すると電車が遠くから顔を覗かせ、みるみるうちに近づいてきた。

 僕の頭上を通った瞬間、まるで爆音のスピーカーのように車輪がレールを走る音が僕を包み込んだ。それは本当に大迫力で、からあげを食べるのを中断してまで見入ってしまった。


 からあげもめちゃくちゃ美味しいし、良い経験もできたし今日は素敵な休日になったぞ!

 そして、からあげを食べながら僕は思う。


 ──また来たいな。今度は、みんなで。

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