第27話 第二ラウンド・月ヶ瀬&志賀&食田編

「さぁ、私たちも行くよ! 志賀くん、食田くん!」


 ホームセンター組の二人を見送り、私はやる気のなさそうな二人に声をかけた。

 気怠そうにはーいと言いつつも、なんとか立ち上がった二人と生徒会室に向かう。


「そーいえばさ、生徒会ってどんな人がいるのかな?」

「たしかに誰が生徒会長なのかとか知らねえなあー」

「志賀くんでも分からないかあ。食田くんは分かる?」

「うーん……頭が良くて冷静で優しい人とか?」

「たしかにイメージはそんな感じかも!」


 そんな風に生徒会大予想大会を繰り広げながら、私たちは二階にある生徒会室の前に辿り着いた。


「ねえ、誰が開ける?」


 なんだか生徒会室に入るのは少し緊張する。私はちょっと開けたくない。


「ここはやっぱ最古先生の手下の月ヶ瀬で」

「ちょっと! 別に私、手下じゃないし!」

「変わんねえだろ」

「変わるよ!」


 志賀くんったら本当に失礼なことを言う。私はサークルのメンバーであって手下ではない! 勘違いしないでほしい。


「食田くん、開けてみる?」


 食田くんなら優しいから引き受けてくれるかもしれないと思って聞いてみる。


「僕は遠慮しとくよ……。ちょっと怖いし。ここはやっぱ月ヶ瀬さんで良いんじゃないかな。ほら、扉に一番近いし」

「満場一致だな」


 志賀くんはニヤニヤしながら私を見ている。まるで悪魔みたいだ。


「まだ私が票入れてないよ! 私は志賀くんに一票!」

「月ヶ瀬にはもう二票入ってるけどな」


 っていうことは私で決まり? ここに青島くんがいたらなんとか説得して開けてもらったのに……。


「分かったよ! 私が開けるよ!」


 私は仕方なく生徒会室の扉をがらっと開く。開いてからノックを忘れたことに気づいて、誤魔化すように大きな声で挨拶をする。


「どうもこんにちは!」

『失礼します』


 志賀くんと食田くんは丁寧に声を合わせてそう言うと、私に続いて生徒会室に入った。

 パッと見た感じ青い星サークルの部室よりも少し広いくらいで、書類とかも整頓されていてとても綺麗な部屋だった。


「えーっと、何かご用ですか?」


 椅子に座ってパソコンをいじっていた生徒会のメンバーらしき女の子が私たちに声をかける。サラサラの髪を肩の位置に切り揃えた彼女は不思議そうに私たちを見ている。


「倉庫の鍵を借りたくて来ました!」


 なんとか怪しまれないように正直に用を伝える。


「倉庫で何かするんですか?」

「いやーちょっと、先生に倉庫を漁ってくるよう頼まれまして……」


 ミスった! 漁るなんて言ったら完全に怪しい人たちだ。


「すみません。先生に使われていない備品をいくつか持ってくるように頼まれてまして……」


 私の失言をカバーするように志賀くんが言う。ありがとう、志賀くん!


「なるほどです。では、そこの壁に掛けてある鍵をお貸しします」

「ありがとうございます!」


 無事鍵を借りるミッションをクリアしたので次は倉庫に向かって良さげな備品を回収する。

 と、その前に一つ気になることがあるので聞いてみることにする。


「あの……生徒会って一人しかいないんですか?」

「いえ、普段は生徒会長と副生徒会長と私の三人で運営しています。ですが……二人は喧嘩して帰ってしまって……」

「へ?」


 生徒会長と副生徒会長が喧嘩をして帰るなんて初めて聞いたのでとてもびっくりしてしまった。


「体育祭に向けていろいろと準備し始めた矢先、二人が言い争いになって今日は帰ってしまいました。とてもプライドの高いお二人で、争いはしょっちゅうなんですが帰るなんてのは初めてで……」


 それは一大事だ。今すぐ助けになりたいけど今は私もやらなきゃいけないことがあるし……。


「今日はちょっと難しいんですけど、また後日でよければ私が相談に乗りますよ!」

「ですが、これは生徒会の問題ですのでそういうわけにもいきません」


 たしかに彼女の言う通りで、これは生徒会内で起こったことだから私たちが簡単に首を突っ込んでいい問題じゃないのかもしれない。けど、それでもやっぱり放ってはおけない。


「じゃあ、気が向いたらでいいので私のところに来てくれると嬉しいです!」

「え?」

「私は三年六組、月ヶ瀬葵です! 以後お見知り置きを!」

「あ、はい……。ありがとうございます」

「いえいえ! では失礼します!」


 生徒会室に長居しても迷惑が掛かるので、さっさと倉庫に向かうことにする。私たちの真の目的は倉庫から良さげな備品を持ち帰ることだ。


「にしても、生徒会長と副生徒会長が喧嘩して帰っちゃうなんて変な生徒会だよなー」


 一階の倉庫に向かう道中で志賀くんがぼそっと呟いた。


「二人ともプライドが高いって言ってたね!」

「どんな人なんだろうなあ。からあげは好きかなあ」

「食田くんは相変わらずからあげで頭がいっぱいだね!」

「まあねー」


 多分、生徒会の抱える問題については私一人じゃ背負いきれないと思う。だからこの件は青い星サークルで取り掛かる必要がありそうだ。


「月ヶ瀬、倉庫に着いたぞ。鍵開けてくれー」

「いくよ、志賀くん!」


 そう言って私はすぐそこにいる志賀くんに鍵をほいっと投げてパスする。


「この距離なら手渡しでもいい気がする」


 食田くんがそう呟いていた。たしかにその通りだった。

 倉庫の中には脚立や扇風機、古い教材や机、椅子など様々なものが詰め込まれていた。

 その中には埃を拭けばまだまだ使えそうなものも多くあった。


「とりあえず使えそうなのは外に出してこうぜ」


 志賀くんの提案で私たちは机や椅子、棚などをひたすらに倉庫から出していった。

 倉庫内の探索がひとまず終わったので、次は外に出した荷物たちを四階にある部室まで運ばなければならない。


 とはいえ一階の倉庫から四階の部室まで持って運ぶなんてことはできないので私たちは遠慮なくエレベーターを利用させてもらう。

 普段は生徒が利用するのは校則で原則禁止されているけど、今回ばかりは仕方がないよね!


 机などの大きめのものはそれだけでエレベーターを独占してしまうので全て運び終えるまでに三往復くらいした。

 とりあえず部室前に運んできたものを並べて、私たちは休憩をすることにした。


「自販機で飲み物買ってきたよー」


 食田くんが三人分の飲み物を買ってきてくれた。ミルクティーとリンゴジュースとコーラ……。これ食田くん絶対コーラじゃん。


「俺は何でもいいや。月ヶ瀬は何がいい?」

「私はリンゴジュース! アップル! アップル!」

「はいよ」


 志賀くんは私に向かってリンゴジュースをほいっと投げてパスする。


「この距離なら手渡しでもいい気がする」


 食田くんがコーラを片手に呟く。本当にその通りだと思った。


「じゃ、二人が帰ってくるまでゆっくり待ってようぜー」

「そうだねー」

「からあげがあれば完璧だったなあ……」

「またからあげのこと考えてるー!」

 私はそう言って笑いながら、リンゴジュースを一口だけ喉に流し込んだ。

 






 拝啓 青島くん。こちらはとっても順調です!

 そっちはどんな感じかな?

 私たちはゆっくり待ってます♪

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