第24話 青い星サークル本格始動作戦

 学校は規則と時間によって管理されている。


 学校によって内容は違えど必ず校則が存在し、学校の秩序を保っている。

 そして、学校生活において最も身近で、かつ学校外においても誰も逆らうことのできない究極の縛りが存在する。それが“時間“だ。


 登校する時間。一限目の開始の時間。休憩の時間。下校の時間。一日の行動は全て時間によって管理され、学校という空間内の数百人もの生徒たちを同時に動かすことを実現している。

 基本は時間に忠実に従うべきなのだが、時に例外がある。それこそ今まさにこの状況である。


 帰りのHRの終了を告げるチャイムが鳴ったことで時間区分は“帰宅もしくは部活動“へと移るのが普通だ。ほとんどの生徒が部活動に向かい、居残りを強いられる生徒や放課後のひとときを楽しむ生徒以外は帰宅する。


 しかし、今の僕は例外の状況にある。

 どちらかといえば僕は部活動には所属していない側の人間だ。青い星サークルとは最古先生が勝手に立ち上げた非公式の組織で、これが学校側に認められていないうちは部活動と称することはできないはず。


 つまり、こうして今日も例の場所に向かっているのは“帰宅もしくは部活動“の時間区分に反することになる。本来なら自らの意思で選択できるはずなのだ。

 それなのに、この青い星サークルという未だによく分からない組織に束縛され、貴重な時間を割かなければならない。


 そういう意味では志賀くんはラッキーだ。サークルメンバーになることを拒んだ彼の英断は人類史に刻まれ、後世まで語り継がれるであろう。

 そんなことを考えて、気づけば例の空き教室の扉の前まで来ていた。心の中で盛大にため息をつきながら僕は扉を開いた。


「お! 青島くん久しぶり!」


 彼女はそう言うけれど、長期休み明けとかではないので別に久しぶりではない。


「よく来たな、青島」


 最古先生はいつもの席に偉そうに座りながら言う。


「よく言うよ! 先生、いつも半分脅しで呼ぶから!」

「それは申し訳ないと思ってるよ」

「嘘だ!」

「嘘じゃない!」

「じゃあ謝って!」

「すみません」

「いいよ!」


 これもすっかり見慣れた光景だ。最古先生と彼女が一言交わせば、やがてこういう展開になるのはお約束だ。


「えーっと、今日はこの青い星サークルに関する大事な話があって二人を呼んだんだ」


 最古先生はやけに切り替えが早く、本当に大事な話があるようだった。


「大事な話?」

「大事な話ってのはだな、青い星サークルの本格始動についてだ」


 ──え?


 あれ、じゃあ今までのは一体なんだ? からあげ紛失事件とオタクの一件は幻だったのか……。


「まだ本格始動してなかったの?!」

「ああ、今までのは様子見を含めた試用期間的なやつだ。とはいっても本格始動はちゃんと最初から見据えてたけどな」


 そんなことは一切聞いていない。試用期間なら強制される必要はなかったではないか。


「それでだ。本格始動にあたってまずはこの部屋を改装し、青い星サークルの部室にする」


 改装? 部室? なんだかとてつもなく面倒な予感。


「たしかに物置感ハンパないもんねー」

「ハンパねぇ!」

「……う、うん」


 彼女は本気で引いていた。無理もない。僕だってドン引きしている。


「ゴホンッ、ということで早速この部屋の改装を行っていくのだが、その前にスペシャルな助っ人を紹介しよう」


 最古先生がそう言うと、教室の扉がガラッと開いた。


「スペシャルな助っ人、参上!」

「やっぱからあげは美味いなあ……」


 僕はこの二人を知っている。

 志賀羽高と食田元気だった。二人ともこの謎組織が関わってきた人物で、どちらも同じクラスだ。


「いやー、アニメのイベントのチケットをくれるって言うから仕方なく来たぜ!」

「からあげをくれるって言うから来ちゃったよ」


 二人の証言により最古先生が二人をモノで釣っていたことが判明した。なんてせこい教師なんだ。


「彼らはボランティアで駆けつけてくれた。二人ともどーうしてもお礼がしたいって言うからそれならってことでお願いしたんだ」

「あれ、そんな感じだっけ?」

「違うね! 俺は冬のんのイベント限定グッズを買うために……!」


 この期に及んで嘘までつくとは……。最古先生は骨の髄までゲス教師だ。

 そして志賀くんは相変わらずの執念だ。推しのためなら変な教師にもついていけるなんて本物だ。


「まぁ、何がともあれ全員揃ったことだ。早速取り掛かろうと思う。月ヶ瀬、タイトルコールを」

「へ? えっと、タイトルコール……。あ、あれか!」


 一瞬危なかったが、これは彼女にとって大きな進歩だ。彼女はなんと、タイトルコールという言葉を覚えた。


「なに、タイトルコールって」


 彼女が成長を見せる裏で、食田くんはきょとんとした顔でそう言った。

 まさか、食田くん……。


「タイトルをコールするんだら、知らんけど」


 まさか、志賀くん……。


「それは分かるけど……。この状況でのタイトルコールってなに? って思って」

「たしかに……。食田、お前なに食ったらそんな頭良くなるんだよ」

「そりゃあもちろんからあげだよ。特に、母ちゃんの」

「まじか! 今度食わせて!」

「いいけど、全部は食べないでね。僕も食べたいから」

「分かってるって!」


 どうやら二人の間で話がまとまったようで良かった。


「じゃあ、タイトルコールいっくよー!」


 楽しげに話していた二人もぴたりと黙り、彼女に視線を向ける。

 二人からはタイトルコールとやらをこの目で確かめてやろうじゃないか! という気迫を感じた。


「ここから始まる! 青い星サークル本格始動大作戦!」

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