第12話 月ヶ瀬葵は迷探偵!
それからは、僕が危惧した通りに事が進んでいった。
昼休みはご飯を食べたい、放課後は外せない用事があると食田くんが言うので、ひとまず数日後に詳しく話を聞くことになった。
消えたからあげのことはその一瞬だけ忘却の彼方へ。力強いフォームで食田くんは購買へと走っていった。
「さてさて、こうなったら名探偵アオイの出番だね!」
手を振りながら食田くんを見送り、彼女はそう言った。
「……そうだね」
まだ事態の把握ができていない僕は適当に返す。だってそうだろう。常人には到底理解ができない。
──からあげがなくなるって、どういうこと?
▷ ▷ ▷
「私は高校生探偵・月ヶ瀬葵。つい最近仲良くなった同級生でサークルメンバーの青島春樹くんと遊園地に遊びにいって、困ってる食田くんを見つけた。この話に夢中になっていた青島くんは、背後から近づいてくる男に気づかなかった……」
彼女の話を適当に聞き流していたら、なぜか唐突に僕の名前が出てきた。
──背後から近づいてくる?
僕は何か嫌な予感──呪いとか幽霊とかそんな気配を感じて振り返る。
そこには、満面の笑みを浮かべる最古先生がいた。
「どうも、背後から近づいてくる男です」
「先生、こんにちはー。何しに来たの?」
やっぱり先生に対する言葉にいちいち棘がある気がする。まぁ、僕には関係ないけど。
「あ、ああ。ほら俺、一応これでも顧問だから……」
「あ、そっか。ごめんね、顧問の先生!」
「なんかよそよそしいな。最古先生って呼んでよ」
「最古先生!」
「なんだ、どうした月ヶ瀬」
「なんでもないです!」
「あっ、そう……」
僕は一体なにを見せられているのだろう。この二人は相性が良いのか、悪いのかよく分からないやり取りをする。噛み合ってるように見えるのは彼女のコミュニケーション能力のおかげだろう。
「っていうか、お前ら一緒に遊園地に行ったのか? やっぱ付き合ってるとかそんな感じなのか?」
一瞬なんのことを言っているのか困惑したが、おそらく彼女のあの変な自己紹介の件だろう。
それについては僕も訂正をしたいと思っていた。余計な誤解は生まないようにしなければ。
「行ってないです、付き合ってないです」
とりあえず簡単に訂正しておいた。余計な部分を削ぎ落とした簡易的な言葉の方が説得力が出る場面もある。今がその時だ。
「……そうか、そうだよな。じゃあ、何してるんだ?」
たしかにそうだ。僕たちは一体なにをしているのだろう。この件に関して主導権を握っているのは彼女の方なので僕は水に流される草舟状態だ。
「私たちはある事件を追っています。そうだよね、ワトソンくん」
彼女はウインクをしながら右手でグッドをつくった。
たしかあの時、彼女は僕をホームズさんと呼んでいたはずなのだが、いつの間に僕はワトソンくんになっていたのだろう。かといって別にホームズでもないが。
「事件ってなんだ? まさか……誰かご臨終?」
だとしたらそれは警察に任せるべきだ。ド素人の自称高校生探偵が安易に手を出して良い事案ではないと思う。
「違いますよ! 食田くんのからあげが消えてしまったという今回の事件、名付けて“からあげ紛失事件“です!」
彼女はこれでもかというほどに堂々と言い張った。
「……そうか。それは大変だな。あいつ、からあげが大好物で毎日食べてるらしいし、あいつのためにもこの事件が解決するといいな」
どうやら僕と同じであまり理解が追いついていないのか、いつもより若干大人しめだ。
「そーいや言い忘れてた。俺はこれからやんなきゃならないことがあるからその事件の解決は二人で仲良くがんばってくれ」
そう言うと最古先生はすたすたとその場を後にした。いつになくスムーズな退場だった。
「よし、じゃあ早速取り掛かろっか! ワトソンくん!」
「何に?」
僕は現状をよく理解できていないので詳細な説明を頂きたい。
「ねぇ、ホームズさん……どうする?」
つい数秒前まで僕のことをワトソンくんと呼んでいたくせに。まったく華麗な責任転嫁だ。
──ほんとにどうすんの、これ。
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