第4話[ヲタク、訓練を受ける]
次の日、俺たちは皆お城の中庭のようなところに集合していた。
目の前には、全身を鎧で包んだ大柄の男の人がいる。
大柄の男「俺はこの国に使える王国騎士団長、名前をローム・レグオンという!気軽にロームとでも呼んでくれて構わない」
俺たちがここに集められた理由、それは、戦闘訓練のためだ。
召喚された2年C組の皆は、フィジカルこそあれど、戦闘は未経験な人ばかりだ。
強いて言えば剣道を習っていた人が数人いるが、本当にその程度だ。
ローム「さて、それでは早速だが、物理戦闘職業を持つ者は俺についてきてくれ、魔法職はこの場でしばらく待機だ」
ロームさんの言葉につられ、皆が思い思いに行動する。
いや、俺の職業、ヲタクはどっちに属しているんだ?
スキルを見た感じだと魔法職っぽいが・・・。
約半分の生徒がロームさんに連れられた後、残されたメンバーの前には、白いローブを着込んだ初老の男性が現れる。
???「私はこの国に使える宮廷魔術師、セナン・バーグ、皆さんに魔術を教える先生と思ってくれて構わない」
セナンさんは俺達を一瞥した後、持っていた杖を構えた。
セナン「よく見ておくのじゃ」
そういったセナンさんは、何やら念のようなものを杖に送り込む。
セナン「光魔法【セイクリッド・ジャベリン】!!」
そう言い放ったセナンさんの前に、黄色く輝く魔法陣が現れる。
そのまま魔法陣からは光の槍が出現し、その槍は天に向かって放たれた。
セナン「さて、お主らもやってみなさい」
セナンさんはそう言ってほほ笑むが、残念ながら未経験者の俺達には何をどうすればいいのかがまるで分らない。
そんな俺の疑問を、加藤さんが代弁してくれた。
凛子「・・・すみません、何をどうすればいいんですか?」
セナン「簡単な話じゃ、皆もここに残っているということは魔法系のスキルがあるのじゃろう?それを唱えればすぐにわかる」
感覚派だなぁ。
そんな俺たちを前に、行動力のある斎藤くんが先陣を切る。
というか斎藤君は魔法職だったのか?
槍術士と言えばてっきり物理攻撃職かと思ったのだが・・・。
まぁ、深くは考えないでいいか。
睦樹「俺が行くぜ!え~っと・・・炎魔法【ファイア・ボール】!」
斎藤君がそう唱えると、セナンさんのように目の前に魔法陣が現れる。
それが赤く発光したかと思えば、火の玉が現れる。
睦樹「あとはこれを・・・よっ!」
斎藤君は現れた火の玉を、セナンさんがやって見せたように放った。
・・・明らかに俺に向かって。
小さな火の玉は俺に向かって一直線に飛んでくる。
斎藤君は俺を見てにやにやと笑っている。
セナン「危ない!」
セナンさんの言葉が聞こえてくる。
まぁ、別に俺はどうなってもいい。
この火の弾が直撃しても、大火傷で済むだろう。
そう考えた俺は、一人うつむいた。
しかしそこで俺はふと、ある物が目に留まった。
それは俺が昨日から着ている、
このまま火の弾に当たれば、ココロちゃんの顔に傷が付く危険性がある。
それを認識した瞬間、俺の思考gは一気に加速する。
―――――――――
まず初めに、回避。
しかしこれは今の俺の速度では不可能だろう。
避け切れない。
次に無力化。
スキルにある「限界化」を使用して”抗魔力”を上げれば、もしかしたら防げるかも知れない。
しかしこれはあくまで希望的な観測。
もしかしたらステータスに表示されている物は俺の肉体にのみ適応されるのかもしれない。
だとするとこの服を守ることはできない。
となれば残された唯一の可能性は・・・スキル「魔術保管」。
おそらく魔法を一つ保管できるスキルだが、果たして向かってくる魔法にたいしても有効なのだろうか?
それに保管したからと言っても、魔法が消えるとも限らない。
となると俺の取るべき行動は決まりだな。
まずは「限界化」で抗魔力を底上げして衣服を守る。
例え肉体にのみに有効だとしても腕で服を守ればなんとかなるかもしれない。
そして同時に「魔術保管」で魔法を消せるかどうかを試す。
それで消えれば万々歳だ。
スキルの発動は、声に出すだけでできる可能性が高い。
さぁ、行くぞ!
俺はうつむいていた顔を上げ、眼前に迫る炎の弾を見据えた。
―――――――――
緒拓「限界化【発動】」
そう呟くと、目の前に消費するポイントを設定する画面が現れる。
昨日の夜から減り続けたWPはいつの間にか3万ポイントにまで減っている。
これをすべて使えばスキルの効果で抗魔力を300上昇させることができる。
俺はためらうことなく、3万ポイント全てを使った。
―――「抗魔力が300上昇します」
脳に直接語り掛けられるような、不思議な感覚がする。
今はどうでもいいか。
これで一分間は魔法に対する耐性が上がる。
次だ。
緒拓「魔術保管【発動】」
迫りくる火の弾・・・魔法に対して、そう呟く。
すると▼のアイコンが火の弾に対して表示される。
選択可能という意味だな。
選択を決定する。
―――「魔法【ファイア・ボール】を魔術に変換、保存します」
するとまるで、結界のようなものが火の弾を包み、縮小。
棒のようになったそれが、俺の手に収まった。
睦樹「はぁ?」
俺に火の弾が直撃すると考えていたであろう”睦樹”が素っ頓狂な声を上げる。
そんな睦樹に対して、俺はこれまでにないレベルで怒りを覚えていた。
俺のココロちゃんTシャツを傷付けようとしたアイツを、許す事なんてできない。
魔術保管は、保管した魔術を任意のタイミングで発動可能だ。
発動の仕方は・・・わからないが・・・。
しかし、俺の手に収まった物を見れば、なんとなく発動方法が分かった。
俺の手に収まっている棒状の物。
それはいうなれば・・・ケミカルライトと呼ばれるものだ。
折れば光る棒だな。
その見た目から考えると、恐らく折れば魔術が使える。
せめてもの、反撃・・・。
俺は手に持ったケミカルライトを折ろうと力を籠め・・・。
・・・・・・・・・。
いいや、やっぱりいいか。
馬鹿馬鹿しい。
”無価値”な人間に構っていられるほど、俺は暇ではなない。
そんな時間があるなら、いち早く魔王を倒すべきだろう。
俺はゆっくりと、ケミカルライトを下げた。
セナン「大丈夫か!?けがはないか?」
凛子「緒拓くん大丈夫!?」
緒拓「問題ないです」
セナン「!?」
緒拓「なにかありましたか?」
セナン「い、いいや、なんでもない、さぁ皆、各々魔法の練習をしておくれ、ただし絶対に人に向けて放つんじゃないぞ?」
その宣言通りに、皆が思い思いに魔法を使っていた。
発動自体は簡単そうだ。
しかし、俺には魔法系スキルはない。
強いて言えば先ほど保管した【ファイア・ボール】を試すことができるくらいだ。
俺はほとんど見学しながら、皆が魔法を扱うところを眺めていた。
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