そのダンジョンは造り出されてまだ一時間ですが、もう外から見つかってしまったようです
そう言えばずっと黙っていますね。
『楽できるなら楽したい。
貴女、そういう魂胆だったのですか!? ひどい!
『
「いや、別にそんなロリコンな趣味はないけど」
どうしてこういう時ばかりノリが悪いのですか! 普段はいらないくらいに行動が軽い癖に!
「散々な言われようだな……」
灯理が神御祖神を憐れみの眼差しで見下ろしますが、そんなものは要りません。自業自得なのですから。
「あかりさん、さっきから誰とお話してるの?」
冷茶比女の淹れてくれた花梨の冷茶をまったりと飲んでいた
「ん? え、もしかしてお前、聞こえてないの?」
「めぅ? なにが?」
そうですね、嵐にはわたしや八房珠鈴が音として発生させていない声は聞こえていません。
彼女は正確には神霊とは違う括りの存在であり、尚且つ人としての在り方が強いのが原因でしょう。もう少し神秘に傾けばまた違うのでしょうが、彼女が不可思議を抑えるのは灯理の頼みであったと記憶しています。
「ああ、そうなのか……えっとな、このダンジョン全体を観察している鏡とかそこの奇抜な鈴とか、実は神霊なんだよ」
奇抜とはなんて言い草ですが。八房珠鈴は実りのような鈴の数こそ多いですが形状は現代にも伝わる神楽鈴とそう変わりませんよ。
「いや、神楽鈴をドアベルにする時点で奇抜だろ」
それは神御祖神のやらかしです。八房珠鈴は悪くありません。
「……なるほど。ちょっとふしぎちゃんな灯理さん。ありだね」
「やめろ、変なものに目覚めるな」
きゅぴんと目が光った嵐から少しでも距離を取ろうと灯理は後退りしますが、狭いカウンターの中では逃げ場なんてありませんよ。
「いや、そんなことよりもだな。この店……店? 店でいいのか? 取りあえずいつから開店なんだ?」
この話題は自分に不利だと察した灯理は神御祖神に別の話題を振ります。別の、というよりは元に戻したのでしょうけれども。
わたしと八房珠鈴の会話にわざわざ乗ってくる必要はなかったと思います。
いえ、そんなバツの悪そうな顔をする程ではありません。別に非難はしていませんよ。
「開店? そんなのいつでも開店のつもりだよ。あ、休み? ちゃんと考えてるから安心して?」
営業開始の話をしているのにどうして休暇の話に飛ぶのでしょうね、この小娘は。
灯理もこれには呆れ顔です。いいですよ、そのまま神御祖神が少しは大人しくなるまでしっかりと正しい反応をしていきましょう。
『何億年と同じようなことやってきて全く効果なかったのに、天真璽加賀美は本当に無駄な努力が好きね』
止めてください、無駄とか言わないでください、わたしが凹みます。鏡が凹んだら現実が歪むのですよ、分かっていますか、八房珠鈴。
『自分の機嫌は自分で取るっていうのが今の流行りらしいよ』
わたしの得意分野である最新情報で責めるのは止めてください。
「ん、んんっ」
灯理、そんな咳払いしてこちらに伺いを立てなくていいですから、わたし達は無視して話を進めていいのですよ。音が出てないのですから貴方の声の邪魔にはなりませんよ。
「……なんだかんだ言って、母娘なんだな」
止めてください! この傍迷惑な神と一緒にされるだなんて不名誉です!
「天真璽加賀美、それはさすがにわたしもちょっと傷つくかな……」
くっ、確かに今のは口が過ぎましたが、そんなに悲しそうな顔しないでください。気分によっては笑い飛ばしているような台詞でしょう。
『やーい、やーい、親不孝者ー』
煩いですよ。囃し立てる時ばっかり騒ぐのではありません。
『わたし神楽鈴ですしー。お囃子要員ですしー』
ああ言えばこう言うだなんて、貴女は神御祖神の悪いところばっかり似るのではありません。
「あーもー、本当に話が進まないから無視するぞ、お前ら。客……客? 来客が扉の向こうにいるんだっての」
「え、
ほら、温厚な灯理も遂に痺れを切らしてしまったではないですか。
このダンジョンを神御祖神が作ってから一時間と少ししか経っていませんが、発見されるのが随分と早いです。世間では何処の国家もダンジョンによる利益と被害の大きさから管理体制を引き締めていますし、この日本もその例に漏れず専門の国家機関を立ち上げているので、妥当なのかもしれませんが。
そして探索者というのがダンジョンを攻略する専門家の呼称です。それは単にダンジョンに挑戦するという行為で分類されるのではなく、ダンジョンボックスと同じく神秘の技術で生産されたアイテムボックスというものに適応した人物を指します。
アイテムボックスはその名前で想像される通り、無限に思えるくらいの容量を持った入れ物であり、また物品を出し入れするだけでなく所有者の心身を強化し、スキルと呼ばれる特殊な技能も発現させます。アイテムボックスなしでは自由に内部を構築するダンジョンを攻略するのは不可能でしょう。
「もう開けていいんだよな」
灯理がさっと右手を掲げると、エントランスの照明が一斉に灯ります。穏やかに灯りを零すもの、冷ややかな灯りを沁みさせるもの、眩き灯りを煌かせるものなど、それぞれに個性を魅せる証明がエントランスを鮮やかに目覚めさせました。
「灯理さん、すごーい! 魔法使いみたーい!」
嵐が手を叩いて燥いでいますが、今の貴女の彼氏は魔法使いどころか本物の神霊ですよ。
灯りを点して人を導く権能を持つ
まぁ、可愛い彼女に喜んで貰えたのですから、彼氏として格好付けた甲斐はあったのでしょう。
「いちいち格好付けたとか言わなくていいんだよ!」
いえ、ですからわたしの声は音として発していないので、少なくとも嵐には聞こえていないのですよ。しれっと聞き流せばいいものを、そんな躍起になって声を上げるから、嵐がにまにましているではありませんか。
折角格好付けたのに台無しになってしまっていますよ。
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