第9話 どこにでもある話
「まあ、廃棄品を流用されたってのはわかりました。しかし、封印の意味がわかりませんね。廃棄は廃棄でしょう? 残して置くなら廃棄とは言わないのでは? ダメ部下の言い草からも、何万年というのは神サマにとっても長い年月なのでしょう?」
『そうなのですが、その理由がショッキングな結論と同じものになります。ソフトに時系列で説明するなら、決断の先送りとしか言い訳できませんが、もう結論を話したほうがいいでしょうか?』
「……いや、こっちも先送りで。順番にお願いします」
『わかりました。それでは、とある神についてですが、当時も世界創生のテンプレートがありまして、それに従っていれば問題など起こるはずもなかったのですが……』
「その、とある神は従わなかったと?」
『お恥ずかしい話ですが、そのとおりなのです……』
すでに部下のやらかしがクロスに知られている、というか、実際に被害に遭っている。その上また他の神もやらかしているとなれば、同じ神として肩身が狭くなる中級神フェリアスだった。
「生前は、実体験こそありませんでしたが、神サマがやらかすのはよくあるネタでしたよ。そこは気にならないので続けてください」
『うぅ……他人の黒歴史なのに……そ、そのやらかしなのですが、どうも張り切りすぎたらしく、人類の雛型造りに世界創生のリソースをほとんど注ぎ込んだらしいのです』
「リソースというのは、資金に例えてもいいのでしょうか?」
『ええ。その認識で結構です』
「なるほど。資金が一部に集中してしまい、他の事業に回らなくなったと。それで計画は頓挫ですか。ですが、そういう場合、公的資金を再投入して事業を続けるものじゃないですか? 完成しさえすれば後はどうでもいいと考えるのがハコモノ事業のクオリティーでしょう?」
言われた仕事以外に余計なことに口出しできないように調きょ……もとい、薫陶を受けた元社畜は溜め込んでいた不満を吐き出した。
『ええ。そのとおりです。計画自体は担当者を換えて一からやり直したと聞いております。それで宙に浮いてしまったのが、クロスさんの肉体となっているモノなのです』
「どこの世界も……ですが、まだ理解できませんね。大きな建物を持て余して放置するしかないというならともかく、人間サイズならどうともなるでしょう。サクッと処分しなかったんですか? 或いは新しい世界で流用するとか。何だって何万年も残して置くことになるんですか? アレですか? 見せしめ的なナニカでしょうかね?」
『いえ、
「何か不穏な単語が聞こえた気がするんだが……何が問題なんです?」
『処分するのに使い込まれた以上のリソースが必要となるのです』
「ああ、なるほど。小さくても『粗大』ゴミというヤツですか」
昨今では粗大ゴミの回収も有料の上、だんだん値上がりしていっている。買い替え時は優待サービスもあるが所詮は数字のマジックだ。そして回収業者たちはまだ使えるものは海外に丸投げし、使えないもので山を築いたり山に不法投棄したりしている。嘆かわしいことだ。
クロスは我が身を粗大ゴミに例えてしまって自己嫌悪に陥った。
『流用するにも問題があるのです。クロスさん、自分の目で確かめてみて、その身体をどう思われましたか? 人間に見えますか?』
「鬼にしか見えないですね。ハッキリ言ってバケモノだ」
『外見だけではないですよ? 使われた素材が素材ですから、ドラゴンの攻撃程度では傷一つ付きません。先ほどドラゴンブレスを正面から浴びたでしょう?』
「え? アレ幻影とかじゃなかったんだ!? てか、やっぱり見てるんじゃないですか!?」
『い、いえ、ダンジョンコアからの情報だけですよ? リアルタイムで見ているわけじゃありませんから……』
「まあ、それはもういいんですけど、どうしてこんなバケモノがいるんですか? ファンタジーにしたってやりすぎでしょう」
そもそも他人の、バケモノの身体だ。裸を見られて困ることなどない。むしろアンバランスなジャージ姿のほうが恥ずかしいくらいだ。それに監視しているのは神サマである。状況的に当然だろうと気にしないことにした。
『問題の神が張り切りすぎたといいますか、こじらせたといいますか、クロスさんの世界で言われている「ぼくのかんがえた きゅうきょくせいぶつ」的な発想に至ってしまったらしいのです。外見だけならまだ新種とでも言い張れたのでしょうが、致命的なのは生殖機能がないことですね。とても人類の祖とは認められませんでした。当の神は「究極生物は一代のみで完結するのだ」などと言い放っていたそうですが……』
「厨二かよ。どこにでもいるんだな……ああ、なるほど。クソ女神が言ってた欠陥品ってこのことかよ。しかし、これでムスコがないのは完全に肯定されてしまったか……今世もまた結婚できないだろうな……前世で未使用じゃなかったのがせめてもの慰めか……あ、結局俺って男なのか女なのか?」
『一応は男性だったらしいですね。クロスさんの世界でいう『アダム』から創り始める予定だったそうです。出来上がったのはアダムらしからぬナニカなので「無性」になってますが』
「無性……」
クロスの独り言にも律儀に応対するフェリアス。
だが、クロスはその内容にドーンと落ち込んだ。
『ああっ、く、クロスさん! 落ち込まないでください! 精神は男性です! 神の私が認めますので男性に間違いないです!』
「……いえ、取り乱してすみませんでした。大丈夫です。もともと使用頻度は低かったので、大した希望はなかったんです。最初からないと知っていれば諦めもつくというものですよ。ハッハッハ……」
『そ、そうですか。それは、何よりです……』
クロスの乾いた笑いに、ぎこちない返答しかできない中級神フェリアスだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます