第62話 協力者を探して300里
「誰か、一緒にガチャ屋を手伝ってくれるむちゃくちゃ強い人いないかなぁ……」
そんなことを若い青年が呟きながら道を歩いている。青年は一人だった。
青年の名は田中。これは田中がまだ灰華と出会う前――――まだ強い力を持つ協力者を求めて全国をふらふら旅をしている時のこと――――
当時、田中は一人だった。作れる物の特異性から、そこらの仮で組んだ野良のパーティーメンバーに簡単に打ち明けれる様な秘密ではなく、かと言ってアイテム無しの自分自身の戦闘能力はイマイチだと自認していたので、自由にアイテムが使えないという縛りがある野良のパーティーに入る気にはなれなかったのだ。
そして、もし野良のパーティーに入ったとしても、いざ危険が身に迫れば魔剣などを使わざるを得ない。さすがに秘密を守れても死んでしまうのであれば意味が無いからである。
だが、使用している所を見られてしまえば追及は免れない。――魔法が使える武器など、他には存在しないのだから。
その場をなんとかごまかして凌げたとしても、まわりに広まる可能性は高かった。
アイテムを使えない――それは田中の力がそこらに幾らでもいるDランク冒険者と同程度になるということを意味している。
魔剣などのアイテムを利用して、本来心許ない実力をかなり上げることに成功したが、それでも田中本人の地力はタカが知れているので、最強にはなれない。
そもそもの話、冒険者の世界は厳しいものだ。才能はもちろん強運も必要になってくるからである。
同じ人間という種でも、鉄を曲げれる程の力を持つ者もいれば、箸をへし折るのがやっとな者もいる。身体能力にかなり差があるのだ。無論、技でカバーすることも出来るが、冒険者としてやっていくなら身体能力は高い程良い。
そして身体能力が高かったとしても、冒険者として高みにいくためには、ジョブを得る必要があり、それが完全な運次第なのだ。
片方だけではBランクまで上がれれば良い方。そうして芽が出なかった冒険者達はあっさりと辞めていく。自分の意志ならまだいい方で、ダンジョンで死亡したり、再起不能の怪我を負ったり、体は無事でも心が折れたり等、理由は多岐にわたる。
身体能力というのは、身体強化出来るスキルを発現出来るジョブを持っていない限り、埋めることは出来ない。そして田中は身体能力は普通だった。
故に――――田中は自分自身が最強になるという案に早々に見切りを付けた。
そうして始まったのが、掲示板などの情報を元にした当てもない、協力者を探す田中の一人旅だった。
――――――――――――――――――――
そんな探す気があるのかないのか分からない、適当すぎる捜索を行っていたある日――――立ち寄った街で、田中はとある冒険者の噂を聞いた。
確かな実力はあるようだが、幾つもの有名パーティーが勧誘したものの、全て断った。
他にも、その冒険者の理由は不明だが、冒険者ランクを上げる為の昇格試験に参加しようとせず、今でもDランクではあるが、明らかにそれよりも上の実力を持っている、等の話である。
余談だが、Dランクまでは冒険者の活動期間に応じて勝手に上がっていくが、Cランクからはそうはいかない。昇格試験の内容はランダムだが、高ランクの冒険者が担当する試験官との手合わせ等、厳しいものとなっていく。
田中は、こういうランクを気にしない奴ってなんか強そう、という程度の軽い気持ちでその冒険者を探してみることにしたのだった。
ファーストコンタクトは極めてあっさりしたものだった。田中も噂の人物に対してそんなに期待はしていなかったし、灰華としても、パーティーへの参入打診で話し掛けて来る人は結構いる。田中もその内の一人過ぎなかったためだ。
「あ、君が噂になってるやたらと強いっていう孤高の冒険者でしょ?」
「……」
「出来ればその実力を見せてほしいんだけど……」
「……何故?」
「いや、そんなに強いなら仲間になって欲しいな――」
「…………」
「――と思ってたんだけど…………」
ここで問題が発生した。田中ではその少女が本当に強いのか疑問に思ったのだ。
見た目→美少女
装備している武器→安物。しかもボロボロ。
筋肉むきむきで一目で強そうと分かる見た目という訳ではなく、武器も特別な武器でもない量産品。正直、肩透かしされた気分だった。もしかしてカゼネタかな、と田中は少し思い始めた。
とりあえず実際の戦闘を見ないことには始まらないので、田中は灰華に頼み込み、邪魔にならないなら、と条件付きで許可を貰って、後ろについてダンジョンに潜ることにした。
―――――――――――――――――――
じーっと、田中は灰華の戦いを観察する。
「凄いな……何やってるのか分からないけど、モンスターが倒されていってる」
灰華の戦闘を見て、田中の抱いていた感情は瞬く間に驚きへと変わった。
だが、その戦闘を観察していく内に、田中はある疑問を抱く。
灰華が右手に持った剣を一閃すると、ゴブリンは抵抗なくあっさりとバラバラになる。
まるで名刀で斬られたような切れ味だ。
「……あんな剣でスパスパ斬れるものなのか?」
灰華が手に持っている剣は、特別な物ではない。
何度見ても量産品だ。しかも手入れされている様子もなく、切れ味も悪いという酷い状態だった。
――達人が使えば、なまくらでも名刀になるとはそういうやつか? ……いや、でも……こうも変わるものなのか?
だが、それを証明するかの如く、目の前では、なまくらで手入れもされていない――――ボロい剣は振るわれる度に、容易くモンスターの堅い肉体を斬り伏せていく。
そして――、
「……あの動きもおかしい。ジョブのスキルで強化してるのか?」
灰華の動きは速い。いや、速すぎた。さすがに壁を走ったりを生身では出来るとは思えない。ならジョブで身体能力を上げていると思われるので、目の前の少女は、強化する系のジョブということになるのだが……
「なんかしっくり来ないな……まぁいっか」
田中は考察するのをやめた。戦いの知識が特別ある訳でもない自分が頑張って考えた所で解らないと判断したのだ。
「ユニークジョブなのか、普通のジョブなのかも分からないけど……」
何にしても、灰華は強いということは分かる。その強さは、田中が今まで直接戦いを見た冒険者達の中では一番強いと断言出来た。
もしかしたらテレビやYouTubeで有名な高ランク冒険者達にも負けていないかもしれない。
田中は目を瞑って少し考えると、何度か頷いて、
「今まで色んな県に行って、当てもなく探してた訳だけど――――君程、凄い人はいなかった。
俺と……仲間になってくれないか?」
――そこからはご存知の流れで、一人旅は終わり、田中の仲間として灰華が加わることとなる。
尚、田中の予想よりも遥かに灰華は強かった。魔剣の紹介配信での灰華の戦いは、普段から強い冒険者達の動画を見て目が肥えている視聴者達にすら、驚きを与えたのだから。
……そして、これでもまだ灰華は本気で戦っていない。灰華の持つ、あるスキルの真価を発揮していないからだ。
灰華のユニークジョブと田中のユニークジョブ。この2つが手を取り合ったことで、本人達は意図してのことではなかったが、とんでもない結果を生んだのだった。
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