第57話 魔剣好き好き戦士と双子ヒロイン



 アーサーが“円卓”の面々による多数決の結果、魔剣を渡すかどうかという軽度な問題から、リーダーから降ろされるという大事件へと変わっていった。 

 そして、アーサーを除く“円卓”の面々は新しくリーダーへと担ぎ上げられたモードレッド二世がLR魔剣を当てたことを祝ってを胴上げしたまま、店屋から出て行った。

 だが、そこにはアーサーの姿はもちろんない。

 現実だと理解したくないのか、茫然自失したアーサーは店内で座りこんでいる。普通に置いていかれたのである。

 尚、普通に邪魔だったので、店のアルバイトとして雇われた者の一人の手によって、引き摺られて店の外に出された。


 これには、流石の田中もアーサーの行く末を思って合掌した。


「不憫だな……」


「うん」


「それにしても……あいつ放置され過ぎじゃない?

 店の外に出しちゃったのは流石に可哀想な気も……」


「……タフそうだし、大丈夫」




――――――――――――――――――


 

 “円卓”が内々で争ってから一時間後。

 場の混乱が治まりつつある頃に――魔剣を物欲からではなく、愛から欲する男の番が到来した。

 男の名は、魔剣好き好き戦士。――――ダンジョンどのゴミ拾いオフ会を経て、愛による覚醒を果たし、魔法好き好き戦士という名から魔剣好き好き戦士へと改名した、進化する狂人である。



 彼は少し前にとうとう某オフ会にて、他の冒険者達を愛で上回り、ギガントマッドナマズに刺さっていたヘドロくさ――――、いや、謎の強烈な香りの染み付いたLR魔剣を曲がりなりにも手に入れていた。にも関わらず、今回の魔剣ガチャにも参加してる理由。


 彼も一人の男である、ということだ。つまり――――魔剣好き好き戦士は一人の愛する者(物)を手に入れた彼は、欲望に従ってハーレムを作ることを決めた。魔剣ハーレムである。羨ましくないことこの上ないハーレムだ。


「魔剣への愛が抑えられない……そして、そんな時にガチャ屋が開かれるとはな……。

 どうやら、世界が俺にハーレムを作れと言っているようだ」


 相も変わらず世迷い言を息を吸うように喋る、魔剣好き好き戦士。 

 そんな彼は今回――――彼が魔剣を愛しているように魔剣も彼を愛しているということなのだろうか? 、その夢を叶えた。SR魔剣二本という形で。

 だが、SRの魔剣では魔剣好き好き戦士の初めての魔剣――“朱莉”がURの魔剣であり、あっという間に壊してしまった。その魔剣よりもレア度が低い。よって“朱莉”よりも使っていたらすぐに壊れてしまうのが確定している。彼はどう扱うつもりなのだろうか?


 魔剣と交換出来る引き換え券に優しく喋りかける魔剣好き好き戦士。相手がただの紙切れだが、彼にとっては愛しい美少女達と出逢える魔法の紙である。

 

「っ――――――!!

 まさか……姉妹揃って俺の下へ来てくれるとはな……!」


「一応、もしかしたら100人当たる可能性があるからな――――ちゃんと、100個名前を既に考えおいた」


「ふっ…………決まりだな」


「そうだ……紹介を忘れていたな。俺が最初に付き合っている朱寧のことを」


「……? 朱寧も気になるのか? 彼女達のことが」


 魔剣好き好き戦士は引き換え券を懐に忍ばせると、右手で背中に背負っていた魔剣“朱寧”を身体の前へと持ち出し、使っていなかった左手も利用して、“朱寧”をお姫様抱っこする。

 そして、田中達の下へとゆっくりと歩み寄り始めた。ゆっくりなのは、抱えているお姫様()を大切にしているが故だろう。


 相変わらずな魔剣好き好き戦士。むしろ以前より悪化しているかもしれない。


 さしもの田中もまさかここまでイカれた男が来客するようになると、困惑するしかないのだった。

 

「あー、こっちに来るってことは魔剣当てたのか、魔剣好き好き戦士ニキ。

 何か独り言を言ってるな……何を話しているのか聞いてみたいような……聞きたくないような……。

 正直、爆死する客を見ても愉悦出来るからガチャを爆死して欲しいんだけど……、魔剣好き好き戦士ニキは逆に当たらなかったら何を仕出かすか怖すぎて、そんなことを言っていられないな」


「ところであの人……何で炎の魔剣を抱えてるの?」


「……分からない……分かる訳がない……」


 そんな現実逃避をしている間に魔剣好き好き戦士と朱寧は到着した。


「すまない、俺の新たな恋人二人を呼んでくれないか?」


 到着するなり、魔剣好き好き戦士は引き換え券を田中へと渡しながら用件を告げた。


「…………恋人って……まだ魔剣の彼女を増やす気か??

 一本だけでも業が深いのに……」


 魔剣好き好き戦士のハーレムの形成を目の当たりにした田中は戦慄した。

 そして手持ち無沙汰な灰華は――、


「……その炎の魔剣は何で持ってきたの? 臭くていらないから廃棄しに来たとか?」


 ヘドロ臭い魔剣を処分でもしに来たのか、と尋ねた。


「そうか……この臭いの良さが分からないとはな」


 それに対して、可哀想な者を見る目で、灰華を見る魔剣好き好き戦士。


「何……その目?

 わたし、何かおかしなことを言った?」


「いや……少し可哀想だと思っただけだ」


「可哀想?……なんで?」


「決まっている。朱寧のこの癖になるようなフェロモンのような臭いの良さが分からないことに、だ」


「匂いならこの距離でも飛んでくる。ヘドロくさいから正直離れて欲しい」


 くさいから寄るな発言をした灰華。事実ではある。“朱寧”はギガントマッドナマズに何日も突き刺さっていた為、ヘドロくさい。みんな周知の事実だ。

 だが、この男には通じない。魅力的なフレーバーにでも感じているようなのだ。きっと……愛のおかげなのだろう……。


「……なるほど。嫉妬……か

 この臭いの魔剣は、朱寧だけ。オンリーワンという形だ。故に、欲しいのだろう? その気持ち俺にも分かるぞ。もし仮に、朱寧が俺の元に無く、誰かの手にあったのだとしたら、俺も嫉妬していたかもしれないからな」


 有り得たかもしれない未来を馳せながら、重々しく頷いた魔剣好き好き戦士。


「―――――――――??????

 ………………一体何を言ってるの????」

 

「灰華……もうやめておこう。

 もう地雷を掘るようなことはやめよう……」


 死んだ目でそう発言したのは、隣で渡す魔剣の準備をしながらも、訳の分からない嫉妬云々の話を聞かされていた田中だった。


「えっと……この二本です。」


 二本の魔剣を魔剣好き好き戦士へと恐る恐る渡す、田中。


「感謝する。素敵な娘達を」


 魔剣の中で最低レアであるSRの魔剣だろうと、魔剣好き好き戦士は嬉しそうな顔で授かるのだった。


 一旦帰還していく、魔剣好き好き戦士。その影には新たに二つの影が増えている。こうして、魔剣好き好き戦士のハーレムは新たに二人増えた。


 目指すは、魔剣ハーレム!!

 魔剣好き好き戦士は、その願望の為にガチャを回し続ける。

 

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