第56話 リーダーを選べるのなら、美少女がいい




「兄さん、貴方こそがこのLR魔剣に最も相応しい! どうか受け取ってください!」

 

 魔剣を当てたモードレッド二世はアーサー二世へと当てたLRの光の魔剣をすぐさま交換を行い、差し出した。それを後ろから見ている――ガヴェイン二世が、アグラヴェイン二世が、その他“円卓”の面々が笑顔で祝福している。


「ありがとう、みんな! 僕は誓うよ!

 託されたこの光の魔剣――いや、エクスカリバーを以て“円卓”の名をもっと世界中に轟かせてみせる!」


 

 アーサーの頼れる仲間達は、魔剣という強力な武器を最も使いこなせる者――――即ち、リーダーであるアーサーが使うことが同盟の強化に繋がると満場一致で賛成してくれた。

 “円卓”の面々は、損得などを気にすることのない本当の仲間達なのである!

 

 

――――――――――――――――――



 と、この滑稽な幻想が、物語が大好きなアーサーの予想した筋書きだった。 

 アーサーは“円卓”の面々がもし魔剣を当てた場合、進んで自分へと魔剣を渡してくれるものだと疑っていなかったのだ。その在り方は傲慢で、アーサーという王の名にあやかるだけあって王様の気質といってもいいのかもしれない。

 

 アーサーには何故拒否されたのかが分からない。“円卓”の中で、魔剣を最も使いこなせるのは、客観的に見ても自分の筈であり、仲間達もそう思っていると認識していた。

 少年漫画等でよくあるように、「お前が使え」的なノリで仲間達から託されることを予想していたが、それに対してタダは悪いので、いくらかの金銭を渡さなければな、と皮算用してもいたぐらいだった―――――――現実はそうはならかったが。 

 

 

 人には欲望がある。現実の人間の心は物語のように綺麗ではない。

 ガチャで例えるなら、友達同士であってもガチャで神引きしたと自慢して来られれば口では祝福をするかもしれないが、内心では舌打ちをする。また、田中のように爆死報告に喜びを感じる者達もまた、一定数いるのがいい例だ。

 例え、一番欲しかったから、使いこなせれるから、と言って『じゃあどうぞ』、なんて簡単に譲れる様な人間などそうそう現れる筈がない。


 


 断ったモードレッド二世と断られたアーサー二世。二人の間には、険悪な雰囲気が流れ、言い争いが始まっていく。

 二人共が、高ランク冒険者だ。口だけでなく、もしも喧嘩にでもなったら、店が大変なことになってしまうことだろう。


「この魔剣は僕が当てたんだ!! なら自由に使ってもいいでしょ!?

 僕はもう兄さんのいいなりのままなんて、もう嫌だ!!」


「駄々を捏ねるんじゃない! “円卓”をさらに強くしていく為には、その光の魔剣が必要だ!――そしてそれを一番有効に使えるのはリーダーである僕、このアーサー二世を置いて他にいないと何故分からない!」 


 魔剣を巡り、兄妹喧嘩が勃発。

 それを外野である最高レアの魔剣を当てられたことに恨み、妬んでいる冒険者達は喧嘩を煽り始める始末だ。


「いけいけー! その兄のイケメン面を殴ってやれーー!!」


「ぶちのめせー!!」

 

 ――冒険者達は、血の気が多かった。


 

 そして―――、 

 妹を説得しようとするが埒が明かないと判断したアーサーは、仲間達に問うことを決めた。

 

「“円卓”のみんなはどう思う? 光の魔剣を使うのは、僕が最も相応しいということに

 はっきり言ってもらって構わないよ。僕等は“円卓”。卓を囲む者すべてが対等なのだから」


 自信が正しいことを主張をしていると、自信に満ち溢れた表情であり、これからモードレッド二世が非難の嵐が飛ぶことを確信しているのだろう。

 


 しかし――――、返ってきた返答は求めていたものではなかった。

 

「あー、多数決で決めれたんだったな。じゃあ、魔剣の所有権はモードレッド二世なのは当たり前として――――――アーサー二世さんを、リーダークビにするのを提案する」


「は?…………ちょっと待て、何故そうなるんだ!?」


「アーサーをリーダーからクビにするのか。うーん…………モードレッドちゃんが魔剣持ったら普通に戦力的に余裕で勝ってるし、――――賛成だな!」 


「これからは聖剣を持ったモードレッド二世がリーダーだな!」


 団員達からの急なリーダーからクビ発言にアーサーは、混乱する。


「な、何故だ? なんでリーダーすらも降ろされることになる!?」


 それは、モードレッド二世も同じだ。


「……え? 僕がリーダーに??

 …………何がどうなったらそうなるのっ!?」




 当人達二人が混乱している間にも話は進んでいく。


「少し前から考えていたことだったんだよ」


「アーサーの奴は強いけど、無駄にキラキラしててダルいんだよなぁ」


「モードレッドも経験が足りてないだけで、まだまだ伸びしろあるし、魔剣も手に入った今、強さ的にも問題なし。

 ――で、強さとかが同じだっていうなら、どちらを選ぶのかの答えはもう決まっているよなぁ?」

 

『――――そうだな!可愛いは正義なんだ!』


 モードレッドとアーサーを除く、全ての“円卓”メンバーが同意し、


「やっぱ、リーダーは美少女がいいってことを俺は今回の日本のAKIBAで学んだんだ! 知ってるか? 『イケメン死すべし慈悲はない』って言葉が日本にはあるんだぜ?

 という訳なんだ、アーサー……悪いな」


「やっぱ美少女しか勝たん」


「アーサー二世? そんな奴がリーダーだったこともあったな。

 わざわざ偉人の名前に二世を付けさせやがって……中二病にも程があるだろ……でもリーダーが美少女なら全てが許せるぜ」



 ――という心に思っていた事を率直に吐き出していく“円卓”の面々。それらの言葉の刃はアーサーの心に容赦なく抉り、色々とショックを受けていたアーサーにトドメを刺した形となった。溜め込んで来た不安は、今まで突出して強かったから許されていたが、魔剣を手に入れてアーサーと同等。もしかしたらより強い者が現れた今、特段アーサーをリーダーに留めておく理由はない。

 そして何より、日本に来てしばらくの時が経ち、日本に慣れてきた“円卓”の冒険者達。 

 日本の文化を大いに学んだ“円卓”の面々は染まっていた。彼らは、戦力的には変わらないのであればと、己の欲求に従い、イケメンなアーサー二世をリーダーの座から下ろして、美少女であるモードレッド二世をリーダーの座に選んだのだ。


 くしくもアーサー王伝説の通りとなり、モードレッドにアーサーは裏切られた。だが、血は流れていないので平和な革命? である。

 こうして、日本のアニメ文化に染まり、イケメンではなく美少女が上司の方がいいというふざけた理由で下剋上は起き、“円卓”はリーダーがチェンジすることになったのである。

 

 ここは、100年後の歴史の試験に出るので要チェック。



 『Question』:100年前の有名な同盟“円卓”の初代リーダー、アーサー二世は何故リーダーから引きずり下ろされましたか?


 『Answer』:アーサー二世は美少女じゃなかったから!



 

 こんなネタ問題を未来の受験生達は解くことになるかもしれない。




――――――――――――――――――――




 アニメ大国“日本”。何故だか分からないが、アニメやゲーム等の創作において、歴史上の男の偉人達を女体化されるというのが大変な人気を有している国。ここでは何でもかんでも女体化される。船や馬であろうとも人にされ――――そして女体化させる。女子の方が人気が出るからだ。

 

 近年の美少女需要の高まり、アーサーは今回その業のとばっちりを受けたのである。


 こうして――――日本の文化(業)によって“円卓”は新生する。美少女をリーダーへと統べた新しい形で。とりあえず、一般受けは良くなるだろう。




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