第55話 光の魔剣に執着した男
冒険者達がダンジョン探索に必要な物資を大体購入することが出来ると云われている冒険者専用ショッピングセンター。冒険者達がよく訪れる場所とあって、立地として最高の場所であり、出店料は恐ろしい程掛かる。
そんな場で、たった二回。
しかも――――たった一日だけの営業という期間限定具合。そう――――何気にガチャガチャの中身を用意したり、配信で紹介したり、といった準備時間を除くと、田中達が働いた合計時間は、二日だけなのであった。
しかも、それでいて連日働いている訳でなく、次の営業までにはかなりの休止期間を設けるという、どんな店でも真っ青になる殿様商売をしていながら、お金が尽きて閉店することなく店を出店し続けることが出来ているのは、灰華が魔剣という広範囲攻撃で効率よくモンスターを下層で日々稼いでいるのと、ガチャ屋での利益が無かったら詰んでいたことだろう。
だがそんなたった二回――――二日しか営業していない田中達のガチャ屋は、既に冒険者達の中では有名な店となっている。今では、各地で名を馳せているような高ランク冒険者達すらも注目し、顧客としてかなりの数を獲得している。高ランク冒険者も他同様に爆死させられて嘆く羽目になるのだが……。
そして――――このガチャ屋と最も関係深い高ランク冒険者といえば、ある青年のことを店を知る者達は挙げるだろう。
Aランク冒険者という、色々おかしいSランク冒険者を除いた最高峰の冒険者である青年――――アーサー二世を。
配信に初めてのゲストとして出た、高ランク冒険者として有名だ。
そんなアーサーは、配信では放置されたり、さらに魔剣を持っていながらも、戦闘でも良いところを見せることも出来ない等の酷い目に遭ったのだが、田中達のことを――――ひいては魔剣のことを嫌うことなく、第三回目のガチャ屋に客としてやってきた。それも一人だけという訳ではなく、仲間達も連れてきている。
自分が魔剣を持っていなければ、あの時間の半分も経たぬ内に命を落としていたと“円卓”のメンバーの面々に力説し、必ず手に入れる必要がある旨を語ってかなりの人数を召集することに成功したのだった。
「ふっ……まるで選定の剣のようだね。さぁ、僕だけの聖剣を当てるとしようか」
勢いよく、ガチャガチャのハンドルを掴むと、それを回転させる。
――――そうして、排出口へと転がって落ちてきたカプセルを開いたアーサー二世。本人は、選定の剣を引き抜いているような気持ちなのだろう。
まるで自分に当たらない筈がないと思っているような素振り。果たして、カプセルの中身は――
「……き、キーホルダー……? ポーションですらないとは……」
――素敵なキーホルダーだった。
アーサーは、自信満々で「これは選定の剣の儀だ(キラッ」と言って回したにも関わらず、キーホルダーを当ててしまったことは、黒歴史入りしたのか、無かったことにしたいのか、そっとキーホルダーをバッグの中に入れた。
その後も、アーサーはガチャを回していくが、
30回目時点、「まぁ……こんなものか」
50回目時点、「……まだ半分…半分だから」
70回目時点、「……もう七割引いたのか」
90回目時点、「…………………………これ……出ないんだけど」
まったく魔剣は出なかった。アーサーは段々と焦りの感情を抱いていくのだが……
――――その祈りも虚しく、結果、アーサー二世は普通に上限数まで回しても魔剣が出ることなく爆死した。
「そんな馬鹿な…………」
多数の高ランク冒険者を抱えている“円卓”のリーダーを20代前半という若さで務めているアーサー二世、初めての挫折となった。
「くっ…………たしかに僕の回数分は終わってしまった……だが、まだ同盟の仲間達はまだガチャを回していないのだから、終わった訳ではない……!」
――――――――――――――――――――
例えば――――もしも、宝くじの一等が当たったからといって、友達に全てあげるような者はいるだろうか?
まず、そんなことをする者はいないと断言してもいい。
それが家族であったとしても、相応の理由が無ければ、さすがに全て渡すというのは、承知し難いものだ。
それは――――まるでガチャの神様が一人の少女に微笑んだことによって起きた悲劇だった。
「え……………………あれ……もしかして、当たっちゃった?…………………… LR魔剣出ちゃった」
モードレッドがカプセルから取り出すと、そこにはLR魔剣との引換券が入っていた。
勘違いかと思って、何度も紙を見なおすが変わらない。今回LR魔剣を当てたのは、彼女となった。
「まさか……魔剣を当てるだけでなく、一番出にくいLRの魔剣を当てるとはね…………!
よくやったぞ! さすがは僕の妹だ!」
妹が当てたと知り、殊更喜ぶアーサー。それは、同盟のリーダーであり、兄でもあるという断り辛い立場を活かしたのなら、より安く買い取れるという目算からのものだった。
そう、アーサーが仲間を引き連れてきたのは、魔剣を仲間が当てたのを回収するのが目的だったのだ。
最低すぎるが、冒険者をやっていく上ではこれぐらい厚かましい方が良いのかもしれない。一応、タダで奪い取るという訳ではないのがまだマシなのだろう。
アーサーはモードレッドへと近付いていく。その顔には断られるかも、という不安などは一切見受けられない。
「さぁ、そのLR魔剣を僕に――――「やだ」………………なん、だと……?」
だが、その目論見は外れ、普通に断られることとなった。
当たり前だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます