第49話 光の魔剣配信1


 光の魔剣はその名の通り、ビームを撃ち出す剣であり、やたら強そうに思えるのだが――蓋を開けると、炎や雷の魔剣とそこまで変わらない。属性によって魔剣に威力に差があるということはまったくなく、光の魔剣の場合は光という性質上、その攻撃が速いという長所があるぐらいだ。

 しかし、これは=(イコール)で他の魔剣より優れているということではなかった。


 炎の魔剣であれば、攻撃後に火傷といった副次効果も見込める。


 雷の魔剣であれば、雷によって痺れなどを起こさせ、動きを止めるといったことも出来る。


 そう――つまりどの魔剣にも長所があるのであった。

 これを活かすことが出来れば、動きが速く、避けられてしまうようなモンスターには光の魔剣。無難に継続ダメージを与えたいのであれば、炎の魔剣。強力な攻撃を仕掛けてくるモンスターであれば、痺れさせて動きを止められる雷の魔剣。

 ――といった具合に上手く使えば戦闘の選択肢が増える。


 そして何より――そうしたモンスターごとに使い分けられるのはもちろん。そのダンジョンの属性について事前に調べておけば、常に相性で有利を取れるという最大のメリットがあるのである。


 


――――――――――――――――――

 


 光の魔剣が最大限活躍出来る場。それを考慮して今回田中達が挑むのが、闇系のダンジョン。つまり、闇系モンスターが大量に出てくる場所であった。


 もっとも――闇と光だけは相互が相性が抜群という関係であり、闇系モンスターにとって光が弱点。そして光系のモンスターにとっても闇が弱点となってしまうのである。


 しかし、魔剣の属性が光というだけで、ゲームなどと違って田中も灰華も光属性を身に宿している訳ではないので人には関係がない。もしそうだったとしても、田中が光属性というのは有り得ない。どう考えても、物で釣って、人が爆死しやすい環境を作り出して愉悦している悪魔のような男の性格が光な訳筈がない、むしろ闇に近い存在だ。

 故に――モンスターの攻撃が当たろうと効果は普通通りだ。とはいっても、モンスターの身体性能は普通の人間を遥かに上回る。モンスターが人間にとって脅威的な生物であることに違いはないのであった。




――――――――――――――――――

 


 そんな多くの人にとって凶悪な存在であるモンスター。

 しかして、田中達の配信では視聴者達にそのことを忘れさせ、同情さえ感じてしまう程に倒せれている。

 

 灰華が光の魔剣を持って、下層のモンスターに向かって一振り。

 

「えい」


 そんな気の抜けた掛け声と共に繰り出されるのは、モンスターにとって即死の凄まじいまでの光の奔流。

 要するにビームだった。

 光の魔剣という名前に、名前負けすることなく、無数に湧いてくるその他大勢のモンスターはもちろん、リッチといった本来はボス級のモンスターも一緒くたに消滅させていく。そこにはみんなが憧れるビームの理想が実現されていた。


“ひでぇww そしてビームかっけぇww”

“相変わらず、本来糞強い下層のモンスターが相手になってないな笑。あとビーム格好いい”

“魔剣最強!! 光の魔剣も最高だし、絶対ガチャ回しに行って手に入れるわ!!”


 魔剣の圧倒的な性能のアピールと、それを称賛する視聴者達。

 前回までの配信とまったく同じ展開。

 

 そう――ここまでは今までと同じ展開。

 そしてここからは異なる展開へと変わっていく。


 展開を変えたのは、もちろん店長である田中だ。

 視聴者達の反応を見ながら、灰華が周囲にいるモンスターを丁度倒しきったのを確認し、アピールは既に十分だと判断してから――、次へと進んだ。


「灰華ー!次の項目に移るから一旦集合してー!」


「あれ……? もうそんな時間? 分かった」


 “なんだなんだ??”

 “モンスターの蹂躙はもうおしまい? もう少し見たかったなー”

 “もしかして……また前回みたいに強化パーツとかの新しい追加の報告……? これ以上魔剣が出にくくなるのは勘弁してほしいんだが……”

 “強化パーツ……うっ……トラウマが……爆死……さらに闇ガチャ化……地獄……”


「あー、ガチャの排出物に関してのお話という訳ではありません」


 “セーフ!”

 “よかったぁ……!”

 “でも、じゃあ一体何なんだ? ”


「今回はですねー。毎回、配信が二人だけというのはどうかと思ったので、とあるゲストを呼ぶことにしました!」


“うぉぉぉぉぉ!?”

“男? 女? どっちだろ??”

“気になるー!!”


 急な情報に視聴者達が興奮し、熱気が最大限まで盛り上がったのを確認し、田中は話を進めた。

  

 

「では、もうゲストはスタンバイしてもらっているので、早速登場して貰おうかと思いますね!」


“もうゲスト登場か!”

“誰!? 誰!?”

“これからも出るのかな!?”


「あ、残念ながら今回だけですね。配信にこれからも加入してもらう予定とかは今の所まったくないです」


“ただのゲストかー”

“今回だけって何気に酷いなww”

“有名人?? コラボみたいなものなのかな?? オファーとか結構ありそうだもんな”


「この配信はそもそも次のガチャの魔剣の性能を実際に見てもらうための物なので、ガチャ屋とはまったく関係のない人に先行で使って貰うのもいいかなって思ったので、試しにゲストとしてきてもらった形になりますね」


“え? 魔剣使わせてくれるの? うらやま”

“いいなー、普通に私も呼んでほしい”

“視聴者参加型とかやってくれたら最高なんだけど”


「視聴者参加型ですか……考えときますね!」


 にっこりと、笑顔で考えておくと言う田中。これはする気がないだろう。

 


「はい。じゃあそろそろ登場してもらいますね。今回ゲストとして呼んだのは――――――――」

 

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