第50話 光の魔剣配信2
田中の呼び声と共に、満を持して現れたのは――――この青年。
「…………下層で一人待つというのは、心細いものだね……」
金髪に碧眼の無駄にイケメンな英国有数の同盟“円卓”のリーダー。
――少しボロボロのアーサーだった。
そう――ボロボロだ。アーサー提案の元、“円卓”のメンバーが全員着用している騎士風の鎧が所々破損していた。騎士のイメージに沿った物ということもあり、おそらく特注品だと思われる鎧がこんなことになってしまったアーサーはどこか悲しげな顔を浮かべている。
何故こうなったのか――――それは、田中が視聴者達と会話をしている間、灰華が田中の近くにいた為に、モンスターに襲われていたからである。
サプライズゲストとして、田中達の配信には映らないように距離が離れたところで待機していたアーサー。その為に、彼は孤独な戦いをすることとなってしまったのだ。
アーサーとしても、自分がゲストという認識があったので、登場のインパクトなどを考え、助けを求めることが出来ず――――、
――だが、不幸中の幸いで、灰華の大暴れによってモンスターの数が少なかったので、命の危機という程では無かったという幸運も重なりなんとかなったのである。
そして、そんな苦労人なアーサーの登場に――――、
“円卓キターーー!!”
“スッゲ!! どうやってコンタクト取ったんだよ!? 光の魔剣に一番似合いそうな人No.1って感じの人選じゃん!?”
“やばい……! 普通にファンなんだけど!? ゲスト登場とか嬉しすぎる!!”
素直に驚く視聴者達だったが、だんだんとアーサーの状態をしっかりと見る者達も現れ始め、そうした者達の反応は――――、
“おぉぅ………… 円卓のアーサーじゃん。ボロボロだな”
“何だろう……普通にビッグネームがゲストとしての登場だし、むっちゃ驚いたんだけど……”
“キターーーーー!!!って叫びたい……んだけどれども……何故にボロボロ?? まさかアーサー放置されてた?”
“状況的に明らかにそうなるよなぁ……”
――微妙な反応となっていった。
驚くに値する有名人がゲストとして登場したことはインパクトとして十分だったが、その本人がボロボロだと反応に困るのは当然だろう。
その困惑しているのは視聴者達だけではない。
田中とて同じだ。視聴者達とまったく同じ様な反応をしている。
「……あれ? ……何でボロボロになってるんだ……??」
“いや、配信の主催者も知らんのかww”
“何があったらああなるw?”
“ゲスト放置すなw”
「放置って……灰華は気付かなかったのか?」
「なんとかなりそうだし、放っといた」
「あぁ……そっか」
“灰華ちゃんヒデェww”
“スパルタすぎだろw”
“アーサー不憫だ……”
田中は灰華が、アーサーの実力的に放っておいても問題ないと判断して、放置していたということを会話から読み取り、言ってなかったしこんなこともあるかな、と少し現実逃避し――、
「アーサーさん、大丈夫ですか?」
気持ちを整理してから、一応の心配の言葉を投げかけた。
「いや、この程度の怪我問題ないよ」
「そうですか! 良かったです!
トラブルも起きてしまいましたし、このまま進行するのは辞めときますか?」
「いや、鎧に損傷はあるが問題ないよ。進行してもらって大丈夫だ。ガチャという運要素を抜きにして、魔剣を使えるなんて機会を逃したくはない。そのために来たのだから、この程度大丈夫さ」
「おぉ……心が広い。
ありがとうございます」
危うくゲストがキレて、今回の配信は中止もあるかもしれないと不安に思っていた田中だったが、アーサーはあっさりと許し、進行するよう促したことで、配信はまだ続くこととなった。
アーサー本人が許したことで、Aランク冒険者が魔剣を使用するという光景に対しての好奇心が勝ったのか、視聴者達は流した様で熱狂している。
“あのアーサーが来た理由って……”
“やっぱ魔剣だよな?”
“あの有名なAランク冒険者であるアーサーが魔剣を使うところが見れるなんて楽しみすぎる!”
そうした中、田中による魔剣の受け渡しはあっさりと行われた。
「はい、どうぞ」
「あ……あぁ、感謝するよ」
中世において王が騎士に剣を受け渡していた様な雰囲気で――とまでは言わないが、初めての魔剣――しかも聖剣っぽい物を手に入れられる喜びもあって夢心地だったアーサーは、余りにも味気なくあっさりとした光の魔剣受け渡しに顔を引きつらせた。
“ついに英国の最強格のAランク冒険者の手に魔剣が渡ったんだな! 絶対凄い物が見られるぞ!!”
“なんか光の魔剣ってアーサーにピッタリって感じだよね!”
“それ分かるわー”
“そういえば、渡された魔剣のレア度ってどれくらいなんだろ?”
“普通に考えてSRとかじゃないのか?”
“URの魔剣とか、もうお試しって感じでもないしな……さすがにガチャを回してないのに手に入れれるなんて、欲しくてガチャを爆死しながら回してる他の冒険者達との差が出て、不公平がすぎる”
レア度の高い魔剣の場合、アーサーだけズルいという声が上がるが、田中が渡すのは適当に量産出来る最低品質の魔剣。
つまり――――、
「そこのところはご安心を。体験みたいなものなので、SRの魔剣を数本用意するということで話はついています」
「ガチャを回していないのに、そこまでズルはするつもりはないよ」
“SRか……ならいっか”
“Aランク冒険者が使うところを見れるのは良い参考にもなるしな”
“こういう批判的なコメントをしている奴等ってやっぱり冒険者なのかなー”
「――最近噂の魔剣の性能……動画で何度も見て凄さまじいということは知っているが……実際に使ってみなければ分からないこともある。
さぁ――試してみるとしよう!」
相手は下層の強力なモンスター。アーサーでさえも一人ならば少し放置されるだけでボロボロになる。
しかし、そんなモンスター達を前にしながらも、SRの光の魔剣を片手にアーサーは怯まない。むしろ……おもちゃを前にした子供が浮かべるような笑みを浮かべながら、凶悪な下層のモンスターへと挑むのであった。
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